院長ブログ

おいしく減塩 バターチキンカレー

管理栄養士による健康レシピ

◆作り方

1.鶏モモ肉を一口大に切り、ヨーグルト、カレー粉に30分~一晩漬けておく

2.鍋にバターを溶かし、みじん切りにしたしょうが、にんにく(お好みで唐辛子も)を弱火で炒める

3.みじん切りした玉ねぎを入れ、飴色に炒める

4.一口大に切ったじゃがいも、漬けておいた鶏もも肉を入れて軽く炒める

5.トマト缶、水(トマト缶の半分くらい)を加えて沸騰したら蓋をして弱火にし、具材に火が通るまで、煮込む

6.カレールウ、はちみつを入れ、時々混ぜながら10分程度煮込み、完成

栄養価:  エネルギー   368 kcal      タンパク質   17.9g     塩分  1.8g

作る時のコツ

 酸味の利用 

酢や柑橘などの酸味で味のメリハリをつけましょう

香辛料や香味野菜を利用 

香りのある野菜やスパイス、ハーブ、唐辛子などで味にアクセントをつけましょう

汁物はだしをきかせて具を増やす 

だしの旨味を上手に利用すると減塩効果大。汁物は野菜を入れて、具沢山にしましょう。

献立にメリハリを

全て薄味だと物足りないので、1品は普通の味付けにすると食事の満足度が高まります

食べるときのこつ

食塩を多く含む食品を避ける 

食塩が多い食品は控えましょう。漬物や練り物などの加工食品は食塩を多く含むので注意が必要です。

減塩食品を利用 

減塩醤油など、塩分を減らした食品を利用しましょう

食べるときに味付けする

下味はつけずに調理し、食べるときに塩をふりかけたり、醤油をつけて食べましょう

汁物の汁を残す

塩分を含む汁は残し、汁物は1日1杯までにしましょう

 

文責:管理栄養士 斎藤

肺CT検診のメリットとデメリット

CT検診のメリットは何といっても、胸部X線写真(胸部Xp)では発見できないような影をCTでは見つけることができることです。

 

胸部Xpは肺全体を1枚の写真でみるのに対し、CTは肺を約100枚にスライスして断層写真にします。CTでは情報量が単純計算で100倍、胸部Xpより見えるものが桁違いに多くなります。見えるものが多ければ、見つかるものも多くなるのは当然であり、小さな肺がんも見つかりやすくなります。

特に胸部XPでは心臓の裏、肋骨や血管と重なるところなど、死角になるところがあり、CTはその欠点を補ってくれます。胸部XPの死角にできた肺がんは数cmまで大きくなるまで 発見されません。CTでは5mmの肺がんでも見つけることはできます。

 

 

一方、CTのデメリットは見つかった影がどういう性質なのかはっきりということができないということです。

 

「CTでなんらかの影があります。肺がんの可能性が高いです。でも、手術してみたら、肺がんでなかったという最終診断になることもあります。」というような説明を今まで何百回と患者さんにしてきました。患者さんにとって手術するかしないかは一大事です。その決断を患者さんに任したことも少なくありません。

 

手術するのか、CTで経過観察するのか、CT画像だけで肺がんと分かれば手術を勧めるにしても強く勧めることができるのですが、肺がんか肺炎かどっちでも有り得るような影を示すことがよくあるのです。患者さんに結果説明をする前に結論がでず、患者さんに説明しながら、患者さんの反応、顔色をみて、患者さんと相談しながら方針を決定することもよくありました。

 

検査の感度は高いけれど、診断がつかないこともある。それがCT検査の弱点です。

その息切れはCOPDです

新型コロナウイルス(COVID-19)による肺炎81人のCT所見(Lancet Infect Dis誌より)

新型コロナの論文  / 院長による医学論文紹介
[2020.03.14]

特に、COVID-19患者に濃厚接触した医療従事者など15人が、発熱やセキなど症状が出現する前に、新型コロナウイルス陽性であることが判明し、肺CTを撮っています。その15人はグループ1と名付けられました。つまり、新型コロナウイルスに感染し、症状が全く出現していないのに、肺CTでは陰影を認める人がいることを意味します。このグループ1のCT所見のパターンは、すりガラス状陰影がほとんどであり、陰影の範囲は2~3区域と狭い範囲に限局していました。

次に、本研究では57人(70%)の患者で、2回以上のCT撮影があることが特徴です。CT所見が一旦悪くなってもその後良くなっていく患者群(タイプ1)、CT所見が次第に悪くなっていく群(タイプ2)、次第に良くなっていく群(タイプ3)、2/8時点で画像に変化がない群(タイプ4)の4つのタイプに患者が分類されるとし、タイプ1と3は予後(治療経過)良好であり、タイプ2が予後不良で致死率が高いと報告しています。

 

下図は、タイプ1の患者CT画像の経過。B(Day7)で一旦画像所見が悪化するもその後改善している。

 

下図は予後不良とされるタイプ2のCT画像の経過です。

5日目、15日目、20日目と陰影の拡大がつづき、両側胸水が出現し、30日目に亡くなられています。

 

新型コロナウイルス(COVID-19)による肺炎81人のCT所見

Radiological findings from 81 patients with COVID-19 pneumonia in Wuhan, China: a descriptive study

The Lancet Infectious Diseases

Published:February 24, 2020

DOI:https://doi.org/10.1016/S1473-3099(20)30086-4

 VOLUME 20, ISSUE 4P425-434, APRIL 01, 2020

 

概要

 

背景

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染により引き起こされる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)肺炎の患者集団が、中国武漢で連続して報告された。我々の目的は、疾患の全経過における異なる時点でのCT所見を記述することとした。

方法

武漢にある2つの病院のうちの1つに入院し、胸部CTスキャンを連続して受けたCOVID-19肺炎の患者(次世代シーケンシングまたはRT-PCRで確認)を後方視的に登録した。症状発現日と最初のCT検査日との期間をもとに患者を分類した:グループ1(無症状の患者; 発症前にCT実施)、グループ2(発症後1週間以内にCT実施)、グループ3( 1週間以上から2週間)、およびグループ4(2週間以上から3週間)。画像所見とその分布を解析し、4つのグループ間で比較した。

結果

2019年12月20日から2020年1月23日までに入院した81人の患者が後方視的に登録された。コホートには42人(52%)の男性と39人(48%)の女性が含まれ、平均年齢は49.5歳(SD 11.0)であった。肺病変のある肺区域数の平均は、全体で10.5(SD 6.4)、グループ1では2.8(3.3)、グループ2では11.1(5.4)、グループ3では13.0(5.7)、グループ4では12.1(5.9)であった。異常陰影の主なパターンは、両側(64例 [79%])および、肺末梢(44例 [54%])、辺縁不鮮明(66例 [ 81%])、すりガラス状濃度上昇(53例 [65%])であり、主に右肺下葉に認められた(病変のある849の肺区域のうち225 [27%])。グループ1(n = 15)では、主な陰影パターンは片側(9 例[60%])で、多発限局性の(8例 [53%])スリガラス状陰影(14例 [93%])であった。グループ2(n = 21)では、両側性(19例 [90%])、びまん性(11 [52%])、スリガラス状陰影優位(17 [81%])な病変に急速に悪化した。その後、スリガラス状陰影の範囲は減少し(グループ3の患者30人中17人 [57%]、グループ4の患者15人中5人 [33%])、コンソリデーションおよび混合パターンがよくみられるようになった(グループ3の12人 [40 %]、グループ4の8人 [53%])。

解釈

COVID-19による肺炎は、無症候患者においても胸部CTの異常を伴い、1〜3週間以内に限局性片側性陰影からびまん性両側性スリガラス状陰影へ急速に悪化し、コンソリデーションに陰影が変化もしくは同時に存在するようになる。画像所見の評価と、臨床および検査所見を組み合わせることにより、COVID-19肺炎の早期診断が可能になると考えられた。

資金提供

なし

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

短時間作用型β2刺激薬(SABA)を過剰に使用すると、喘息の増悪(発作)および死亡リスクが上昇する(ERJ誌からの報告)

ぜん息関連  / 院長による医学論文紹介

 

SABAは使用実感と効果感に優れており、使用すると数分で効果が実感できる薬です。喘息患者さんは24時間ずっと症状があるわけではなく、朝起きたとき、風邪をひいたとき、季節の変わり目など、症状のでやすい時間帯、時期があります。症状がでたときに薬を使って数分で楽になった後、しばらく症状がないのであればその薬だけでいいのではないかと思ってしまいます。

 

しかし、SABAは使いすぎると危険な薬です。毎朝や毎週のように定期的に使うべきではありません。

 

今回紹介するSABINA研究は、スウェーデンで行われたSABA過剰使用に関する大規模な調査です。

35万人以上の喘息患者を対象としたこの調査では、喘息患者の3分の1でSABAが過剰に使用されていた報告しています。そして、SABAの過剰使用により死亡リスクが増加していました。ここでいう過剰使用の定義は、1年間でSABA吸入器を2缶以上、つまりSABAを週に2回以上、年間を通して使用することとしています。

 

 

 

SABINA研究が掲載されているERJ誌のEditorialにおいて、Jeremy Charriot等は以下のように述べています。

Asthma rescue treatments, time to reboot:

European Respiratory Journal 2020 55: 2000542;

DOI: 10.1183/13993003.00542-2020

“SABAとOCS(経口ステロイド薬)は、喘息発作のレスキューとして未だに最も使用されている薬であるが、使用しない方が良いことがはっきりと確立されてきた。スウェーデンのSABINA研究はSABA誤用の重要な証拠を示し、安全性に対する新たな警告を発し、現在行われている喘息レスキュー管理を変える必要があることをさらに示した。ーーーSABAの正しい管理に向けた、世界的なパラダイムの変化が必要であることは明らかである。”

 

 

 

以下はSABINA研究の要旨を翻訳したものです。

喘息における短時間作用型β2刺激薬の過剰使用は、増悪および死亡リスクの上昇と関連している:グローバルSABINAプログラムの全国コホート研究

Overuse of short-acting β 2-agonists in asthma is associated with increased risk of exacerbation and mortality: a nationwide cohort study of the global SABINA programme

Eur Respir J. 2020 Apr 16;55(4):1901872. 

DOI: 10.1183/13993003.01872-2019

 

要旨

背景

短時間作用型β2刺激薬(SABA)の過剰使用は、喘息のコントロール不良と健康上の悪影響を示す可能性がある。SABAの使用、危険因子、喘息の増悪および死亡率に対するSABAの(過剰)使用の影響に関する、人口ベースのデータは乏しいため、グローバルSABINA(SABA use IN Asthma)プログラムを開始するに至った。

方法

スウェーデンの国別登録からのデータをリンクすることにより、2006年から2014年の間に2種類以上の閉塞性肺疾患治療薬を使用していた12~45歳の喘息患者を対象とした。SABAの過剰使用の定義は、登録後の1年間でSABA吸入薬を2缶以上したものとした。SABAの使用数は、1年あたり3~5本、6~10本、および11本以上のグループに分類された。Cox回帰を用いて、SABA使用と増悪(入院および/または経口コルチコステロイドの必要性)および死亡率との関連を検討した。

結果

解析には365,324人の喘息患者(平均年齢27.6歳、女性55%)が含まれ、平均追跡期間は85.4ヵ月であった。30%がSABAを過剰に使用しており、21%が年間3~5本、7%が年間6~10本、2%が年間11本以上のSABAを使用していた。SABA使用数の増加は、以下のように増悪リスクの上昇と関連していた。1年に2本以下の場合と比較すると、3~5本のハザード比(HR)1.26(95%CI 1.24~1.28)、6~10本のHR 1.44(1.41~1.28)、11本以上のHR 1.77(1.72~1.83)であった。SABAの使用量の増加に従い、死亡リスクが次のように漸増していた(観察された死亡数は2564例)。年間2本以下と比較して、3~5本:HR 1.26(95%CI 1.14~1.39);6~10本:1.67(1.49~1.87);11本以上:2.35(2.02~2.72)。

結論

スウェーデンでは、喘息患者3人に1人は年間3本以上のSABA吸入薬を使用していた。SABAの過剰使用は、増悪と死亡リスクの上昇と関連していた。今回の結果により、SABA使用をモニタリングすることが喘息管理を改善する鍵にするべきであることが強調される。

 

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

その息切れはCOPDです

飲酒者における心房細動では、断酒すると心房細動再発が防げるのか 

肺以外の病気の論文  / 院長による医学論文紹介

 

心房細動が発症する原因の一つとして飲酒が知られています。アルコールの摂取量が多くなると心房細動になりやすく、週に7杯程度の飲酒で心房細動のリスクが上昇すると報告されています(1杯はアルコール12g=5%のビールで240ml)。つまり、350mlの缶ビールを毎日飲む人は、心房細動のリスクが高いということになります。

 

心房細動患者でアルコールの摂取量を減らすと、心房細動の再発が防げるのかを示した前向きの無作為化対照試験は今までにありませんでした。そこで、今回紹介する研究が実施されました。

 

本研究では、試験参加前に週に平均約17杯のアルコールを摂取していた心房細動患者が参加しました。心房細動の治療後、断酒することで心房細動の再発率が73%から53%に減少し、再発までの期間が延長されました。

 

飲酒者における心房細動では、断酒すると心房細動再発が防げるのか Alcohol Abstinence in Drinkers with Atrial Fibrillation

N Engl J Med 2020; 382 : 20 – 8.

背景

アルコールを摂取し過ぎると心房細動が発症しやすくなり、また有害な心房リモデリングと関連する。しかし、心房細動の二次予防に断酒が有効かは明らかではない。

方法

オーストラリアにある6つの病院で多施設前向き非盲検無作為化対照試験を行った.飲酒量が週10杯以上(1杯の基準量は純アルコールを約12g含む)で、発作性心房細動または持続性心房細動を有し,ベースラインで洞調律であった成人を、断酒する群と飲酒を通常通り継続する群に無作為に1:1で割り付けた。主要評価項目は2つあり、6か月の追跡期間中の、心房細動の無再発期間(2週間の“ブランキング期間”の後)と、心房細動の総負荷(心房細動の状態にあった時間の割合)とした。

結果

無作為化された140例(男性が85%; 平均年齢[±SD], 62±9歳)のうち、70例が断酒群、70 例が対照群に割り付けられた。断酒群では1週間の飲酒量が16.8±7.7杯から2.1±3.7杯に減少し(87.5%減少)、対照群では16.4±6.9杯から13.2±6.5杯に減少した(19.5%減少)。2週間のブランキング期間の後、断酒群で70例中37例(53%)、対照群で70例中51例(73%)が心房細動を再発した。心房細動再発までの期間は断酒群の方が対照群よりも長かった(ハザード比, 0.55; 95%信頼区間, 0.36~0.84; P=0.005)。6ヵ月の追跡期間中の心房細動の負荷は、断酒群の方が対照群よりも有意に低かった(心房細動状態であった時間の割合の中央値, 0.5%[四分位範囲, 0.0~3.0]対1.2%[四分位範囲, 0.0~10.3]; P=0.01)。

結論

心房細動をもつアルコール常飲者では、断酒することにより不整脈の再発が減少した。(ビクトリア州政府の運営基盤サポートプログラムなどから資金提供あり;Australian New Zealand Clinical Trials Registry 番号 ACTRN12616000256471)

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

その息切れはCOPDです

禁煙したりタバコの本数を減らしても、肺機能が低下していくスピードは元通りにはならない

COPDの論文  / 院長による医学論文紹介
 
肺気腫、COPDの原因として最も多いものは喫煙です。喫煙を長年続けると、肺機能は年々低下していきます。今回紹介する論文によると、喫煙者では一秒量が年々約40mlずつ低下していきます。若いときは元々の一秒量に余裕があるので問題ありませんが、高齢になるにつれ一秒量が不足していきます。一秒量が全体の70%を切るようになると、COPDという病名がつきます。COPD患者さんでは息を吐き切るのに時間がかかるため、労作時息切れなどの症状がでてくるようになります。
 
喫煙により一秒量が低下していくスピードは加速されます。禁煙をすることで、一秒量低下のスピードは、もともとタバコを吸っていない人のスピードと同じに戻ると今までは考えられていました。しかし、それはかなり古いデータを根拠にしており、本論文の著者らはそこに疑問を感じて、今回の研究を行いました。解析の結果、一度習慣的に喫煙をしてしまうと、禁煙しても一秒量の低下スピードは遅くはなるが元通りにはならないということが判明しました。また、禁煙できずタバコの本数を減らす方も多いのですが、減らしただけでは非喫煙者と比べると一秒量の低下スピードは速いこともわかりました。
 
 
 
上のグラフでわかるように、禁煙してすぐに肺機能低下のスピードがnever smokerと同じになるわけでありません。禁煙して30年以上経たなければ元通りにはならないのです。
 
肺機能検査を行うことにより自分の肺年齢を調べることができます。肺年齢が実際の年齢より高くないか一度検査しておくことをお勧めします。
 
 

 

 

禁煙したりタバコの本数を減らしても、肺機能が低下していくスピードは元通りにはならない:NHLBIプールコホート研究の二次データ分析

Published:October 09, 2019

THE LANCET Respiratory Medicine

DOI:https://doi.org/10.1016/S2213-2600(19)30276-0

まとめ

背景

現在多くの先進国では、既喫煙者数は現喫煙者数より上回っており、現喫煙者の1日喫煙本数も少なくなっている。 禁煙すると肺機能低下が正常化することを示唆する報告があるが、反応機構研究では肺機能低下が続く可能性が示唆されている。今回、既喫煙者および喫煙本数の少ない現喫煙者では、非喫煙者と比較して肺機能低下のスピードが速いと仮定した。主な肺疾患をもたない非喫煙者の解析も行った。

方法

NHLBIでプールされているコホート研究の中から、米国の住民をベースにした6つのコホートのデータを使用した。 正式なスパイロメトリーを2回以上行った参加者のみを対象とした。 2つのコホートが若年成人(17歳以上)を対象、2つが中年以上の成人(45歳以上)を対象、2つが高齢者のみ(65歳以上)を対象として、1983年から2014年まで検査を行った。社会人口統計学的および人体計測的な要因で調整した混合モデルを用いて、既喫煙者と現喫煙者における一秒量の低下と非喫煙者における一秒量の低下を比較した。また、禁煙期間と累積たばこ消費量(パック年数)、現在のタバコ消費量(1日の本数)によって一秒量低下の差を評価した。

結果

25,352人の参加者(17〜93歳)が70,228回の正式なスパイロメトリーを実施した。追跡期間の中央値は7年(IQR 3〜20)であり、年齢中央値(57歳)での一秒量低下は非喫煙者では年間31.01mL(95%CI 30.66〜31.37)、既喫煙者では年間34.97 mL(34.36–35.57)、現喫煙者では年間39.92 mL(38.92–40.92)であった。調整後のデータでは、非喫煙者と比べ既喫煙者は一秒量が年間1.82 mL(95%CI 1.24–2.40)加速的に低下しており、それは現喫煙者の一秒量低下値(年間9.21 mL; 95%CI  8.35–10.08)の約20%であった。非喫煙者と比べ、既喫煙者も禁煙後数十年間は一秒量低下が加速しており、累積喫煙量が少ない(<10パック年)現喫煙者でも一秒量低下の加速が観察された。現在のたばこ消費量に関しては、1日5本未満のたばこを吸う現喫煙者の一秒量低下値(年間7.65 mL; 95%CI 6.21–9.09)は、1日30本以上のタバコを消費する現喫煙者の68%(年間11.24 mL; 9.86–12.62)であり、既喫煙者の約5倍(1.57 mL; 1.00–2.14)であった。主な肺疾患を持たない参加者では関連性が低くなるが、主な結果では一致していた。

解釈

既喫煙者と本数の少ない現喫煙者でも、非喫煙者と比較すると、肺機能低下が加速されていた。 今回の結果は、すべてのレベルのタバコ曝露は持続的かつ進行性の肺損傷と関連している可能性が高いことを示唆する。

資金提供

国立衛生研究所、国立心肺血液研究所、および米国環境保護庁。

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

その息切れはCOPDです

オミクロン株流行期間中に、新型コロナの感染を確認して7日が経っても27%の人がコロナ抗原陽性だった(JAMA誌の報告)

新型コロナの論文  / 院長による医学論文紹介

R4年9月に厚生労働省は、新型コロナウイルス感染症の患者に対する療養解除基準を見直しました。

R4年8月までは「有症状患者については、発症日から 10 日間経過し、かつ、症状軽快後 72 時間経過した場合には 11 日目から解除を可能」としてました。

9月7日より「有症状患者(入院していない場合)については、発症日から7日間経過し、かつ、症状軽快後 24 時間経過した場合には8日目から解除を可能とする。ただし、10 日間が経過するまでは、感染リスクが残存することから、自主的な感染予防行動の徹底をお願いする。」と変更されました。

つまり、8日目から10日目まではウイルスが残っており、周囲に感染させる可能性があるということです。感染拡大を防ぐことに重きを置くなら10日目まで隔離するべきでしょうが、10日間も仕事を休むと同僚の負担が増えるでしょうし、会社全体として機能が低下するかもしれません。7日間であれば、土日を除くと平日5日間ですので、同時に複数の会社員が発症しない限り会社が機能不全に陥ることは少なそうです。8−10日目までは会社でもできるだけ人と接触せず、マスクはもちろん、手指を頻回に消毒し、社内で感染を広げないようにする必要があります。

では、7日間の療養後にウイルスはどの程度残っているのでしょうか。

今回紹介する論文では、オミクロン株が流行している期間に新型コロナウイルスに感染した大学生アスリートを対象に調査しています。 その結果、264名の大学生(女性53%、平均年齢20.1歳)、268人の感染者(有症状66%、無症状34%)を対象として、7日目の検査を行った248人の感染者のうち、67人(27%)がコロナ抗原検査が陽性でした。

7日後のコロナ抗原陽性という結果が、生きているウイルスを示しているのか、もしくはウイルスは死んで抗原単位にバラバラになっていることを示しているのか、厳密にはわかりません。(厳密にはウイルスを培養しなければなりません。)

しかし、感染者の4人に一人は、感染して7日経ってもコロナ抗原が陽性であり、感染力があるとみなして、対応することが大切です。

 

オミクロン株流行中における、大学生アスリートがSARS-CoV-2に感染し7日間隔離後の迅速抗原検査陽性率

Prevalence of Positive Rapid Antigen Tests After 7-Day Isolation Following SARS-CoV-2 Infection in College Athletes During Omicron Variant Predominance

JAMA Netw Open. 2022;5(10):e2237149.

Published: October 18, 2022. doi:10.1001/jamanetworkopen.2022.37149

 

キーポイント

疑問点:

  米国疾病対策予防センターが推奨するSARS-CoV-2感染後の5日間の隔離期間は、感染者が検査で陰性となるのに十分か?

知見:

 このケースシリーズでは、SARS-CoV-2陽性と判定された268名の大学生アスリートが、最初に陽性判定を受けた7日後から迅速抗原検査を受けた。7日後の検査結果では、27%の人が陽性であり、症状のある人やオミクロンBA.2株に感染している人では陽性率が高かった。

意味:

この研究結果は、感染者が隔離から早期解除されることを防ぐために、隔離解除の決定を支援する迅速な抗原検査の使用が必要である可能性を示唆している。

 

概要

重要性:

米国疾病対策予防センターは、2021年12月にSARS-CoV-2感染の推奨隔離期間を10日間から5日間に短縮した。この短縮された隔離期間が終了しても、感染者が迅速抗原検査で陽性となり、潜在的に感染力を持つ可能性があるかどうかは不明である。

目的:

SARS-CoV-2 感染者のうち、診断後 7 日目以降も迅速抗原検査が陽性である人の割合を推定すること。

デザイン、環境、参加者: 

このケースシリーズは、2022年1月3日から5月6日の間にSARS-CoV-2陽性となった、全米大学体育協会Division Iの大学キャンパスの学生アスリートを分析したものである。参加者はそれぞれ診断後7日目から迅速抗原検査を受け、隔離期間を終了できるかどうかを判断した。

曝露:

SARS-CoV-2陽性と判定された7日後に迅速抗原検査を実施。

主な結果および測定: 

 迅速抗原検査の結果、症状の状況、大学の下水分析によるSARS-CoV-2株の同定。

結果 

 264名の学生アスリート(女性140名[53%]、平均年齢[SD]20.1歳[1.2]、範囲18~25歳)、268人の感染者(有症状177人[66%]、無症状91人[34%])が本研究に含まれた。7日目の検査を行った248人の感染者のうち、67人(27%;95%CI、21%-33%)が依然として検査陽性であった。有症状感染者は無症状感染者に比べて、 7 日目の検査陽性率が有意に高かった(35%; 95% CI, 28%-43% vs 11%; 95% CI, 5%-18%; P < .001)。BA.2変異株の患者は、BA.1変異株の患者と比較して、7日目に陽性となる可能性も有意に高かった(40%;95%CI、29%-51% vs 21%;95%CI、15%-27%;P = 0.007)。

結論と関連性:

 このケースシリーズでは、隔離7日後でも27%の人が迅速抗原検査陽性であったことから、米国疾病対策予防センターが推奨する5日間の隔離期間では、進行中の感染拡大を防ぐのに不十分である可能性が示唆された。これらの知見がもと多様な集団や後続する変異株にも当てはまるかどうかを判断するために、さらなる研究が必要である。

:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

その息切れはCOPDです

新型コロナワクチンで帯状疱疹発症リスクは上昇しない可能性(JAMA誌の報告)

新型コロナの論文  / 院長による医学論文紹介

約半年前に下記にようなブログ記事を掲載しました。

新型コロナワクチン接種と帯状疱疹発症は関連があるかもしれない(JEADV誌の報告)(2022.05.29更新)

その後、コロナワクチンと帯状疱疹発症との関連については、複数の研究が実施され、以下のように相反する結果を示しています。

関連なしと報告した論文3本

1.Risk of herpes zoster reactivation after messenger RNA COVID-19 vaccination: a cohort study.   J Am Acad Dermatol. 2022;87(3):649-651. doi:10.1016/j.jaad.2021.11.025

2.Oropharyngeal shedding of herpesviruses before and after BNT162b2 mRNA vaccination against COVID-19.   Vaccine. 2021;39(40):5729-5731. doi:10.1016/j.vaccine.2021.08.088

3.Real-world safety data for the Pfizer BNT162b2 SARS-CoV-2 vaccine: historical cohort study.   Clin Microbiol Infect. 2022;28(1):130-134. doi:10.1016/j.cmi.2021.09.018

関連ありと報告した論文2本

1.Safety of the BNT162b2 mRNA Covid-19 vaccine in a nationwide setting.   N Engl J Med. 2021;385(12):1078-1090. doi:10.1056/NEJMoa2110475

2.Real-world evidence from over one million COVID-19 vaccinations is consistent with reactivation of the varicella-zoster virus. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2022;36(8):1342-1348. DOI: 10.1111/jdv.18184

 

今回紹介するコホート研究(レベル4)では、主要研究デザインとして自己対照リスク期間分析自己管理リスク間隔(SCRI)を使用しています。ワクチンを受けた一人一人にリスク期間とコントロール期間をそれぞれ設定し(下図)、各個人においてリスク期間での帯状疱疹リスクとコントロール期間での帯状疱疹リスクが比較されました。

リスク期間:3つのワクチンすべて1回目の接種後30日間、ファイザー/モデルナワクチン2回目の接種後30日間)

コントロール期間:最終リスク期間終了後30~60日間)

このようなデザインを設定した理由として、米国の請求データベースではCOVID-19の接種記録が不完全であるため、ワクチン接種しないと選択した人とワクチン接種した人では行動や健康状態に大きな違いがある可能性があるためと、論文に記載されています。

その結果、OVID-19 ワクチン接種による帯状疱疹の調整後リスクは増加していませんでした(発生率比 0.91)。これで、「リスクは増加しない」とする論文の方が多数派(4対2)となりましたが、真実はどうなのでしょうか?

(ここからは私見です)

医学研究結果を見るときに、その研究のエビデンスレベルを意識して見なければなりません。疫学調査でよく使われるコホート研究のエビデンスレベルは、上から4番目で高くはありません(ちなみに専門家の意見は6番目とさらに低い)。帯状疱疹発症を評価項目として大規模な二重盲検無作為化比較試験(=エビデンスレベル2)が実施できれば、真実を知ることができるかもしれません。しかし、そのような試験の実施はほぼ不可能であり、有害事象(副作用)に関する研究の難しさがあると思われます。今回の研究では、コロナワクチンを接種した一人一人の経過の中で、帯状疱疹の発症を比較するという、少々無理のある研究デザインを採用しており、個人的には結果解釈に疑問符をつけてしまいます。ただ、補足研究として、インフルエンザワクチン接種者の帯状疱疹発症リスクと比較すると、コロナワクチン接種後の方がリスクが低いという結果を示しており、興味深いところです。

 

 

Assessment of Herpes Zoster Risk Among Recipients of COVID-19 Vaccine

COVID−19ワクチン接種者における帯状疱疹発症リスクの評価

JAMA Netw Open. 2022 Nov 1;5(11):e2242240. 

DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2022.42240

 

キーポイント

質問:

COVID-19ワクチン接種後、帯状疱疹のリスクは増加するのか?

所見:

米国の医療費請求データベースに含まれるCOVID-19ワクチン接種者2,039,854人を対象としたコホート研究において,自己対照リスク期間分析により,COVID-19ワクチン接種後の帯状疱疹の発生率比は0.91であることが明らかになった。また,補足のコホート解析では,パンデミック前およびパンデミック初期におけるインフルエンザワクチン接種と比較して,COVID-19ワクチン接種後の帯状疱疹のリスクは増加しないことが示された.

意味:

これらの知見は、COVID-19ワクチン接種が帯状疱疹のリスク上昇と関連しないことを示唆しており、COVID-19ワクチンの安全性プロファイルに関する懸念の解消に役立つと思われる。

概要

重要性:

COVID-19ワクチン接種後の帯状疱疹感染症が、多数の症例研究で報告されている。これらの症例が報告数の増加であるのか、あるいは真のリスク増加であるのかは不明である。

目的:

COVID-19 ワクチン接種が帯状疱疹リスクの上昇と関連するかどうかを評価すること。

デザイン、設定、参加者:

今回のコホート研究では、自己対照リスク期間(SCRI)デザインを用いて、COVID-19ワクチン接種後30日間または2回目のワクチン接種日までのリスク期間と、COVID-19ワクチン接種から離れたコントロール期間(各個人の最終記録接種日から60~90日目と定義し、コントロール間隔とリスク間隔の間に30日のwash-out期間を確保)の帯状疱疹のリスクを比較した。パンデミック前(2018年1月1日~2019年12月31日)またはパンデミック初期(2020年3月1日~2020年11月30日)にインフルエンザワクチンを接種した過去の2つのコホートにおいて補足的コホート解析を行い、COVID-19接種後の帯状疱疹リスクとインフルエンザ接種後の帯状疱疹リスクとを比較した。データは、米国国内の非識別化された請求データベース(Optum Labs Data Warehouse)から入手した。2020年12月11日から2021年6月30日までに、緊急使用許可されたCOVID-19ワクチン(BNT162b2[ファイザー-ビオンテック]、mRNA-1273[モデルナ]、Ad26.COV2.S[ジョンソン&ジョンソン]のいずれかを受けた計2,039,854人を対象とした。SCRI解析に含まれた人は、COVID-19ワクチン接種コホートのサブセットであり、リスク期間またはコントロール期間のいずれかに帯状疱疹に罹患した。

曝露:

COVID-19ワクチンのいずれかの投与。

主な結果と測定法 :

International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems第10版(ICD-10)のコードで定義される帯状疱疹の発症と、診断から5日以内に新規抗ウイルス薬の処方または抗ウイルス薬の増量があったこと。

結果:

研究期間中にいずれかのCOVID-19ワクチン投与を受けた2,039,854人のうち、平均年齢(SD)は43.2歳(16.3)、1,031,149人(50.6%)が女性、1,344,318人(65.9%)が白人であった。これらのうち、帯状疱疹と診断された1,451人(平均年齢[SD]は51.6歳[12.6]、845人[58.2%]は女性)が、SCRIの主要解析に含まれた。SCRI 解析では,COVID-19 ワクチン接種による帯状疱疹の調整後リスクは増加していなかった(発生率比,0.91;95% CI,0.82 ~ 1.01;P = 0.08)。補足コホート解析では、COVID-19 ワクチンは,パンデミック前のインフルエンザワクチン接種と比較して,帯状疱疹のリスクは上昇していなかった(COVID-19 ワクチン初回接種:ハザード比 [HR], 0.78 [95% CI, 0.70-0.86; P < .001]; COVID-19 ワクチン2 回接種:HR, 0.79 [95% CI, 0.71-0.88; P < 0.001]) 。パンデミック初期のインフルエンザワクチン接種との比較でも同様であった(COVID-19ワクチン初回接種:HR, 0.89 [95% CI, 0.80-1.00; P = .05]; 2回接種: HR, 0.91 [95% CI, 0.81-1.02; P = .09])。

結論と関連性:

本研究では、COVID-19ワクチン接種と帯状疱疹発症リスク増加との間に関連は見られず、患者や臨床医のCOVID-19ワクチンの安全性プロファイルに対する懸念に対応することができると考えられる。

:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

その息切れはCOPDです

新型コロナワクチン接種と帯状疱疹発症は関連があるかもしれない(JEADV誌の報告)

新型コロナの論文

毎回聴いているニッポン放送の番組“辛坊治郎 ズーム そこまで言うか!”の中で、帯状疱疹患者数が最近増加していると紹介されていました。

昨年(2021年)の6月のある日、私(院長)は右背部から胸部にかけて痛みを急に自覚しました。痛みのある部位を鏡で見てみると、少数ながら点状の水疱様発疹を見つけました。これは帯状疱疹だと自己診断し、すぐに薬を飲み始め、1週間程度で痛みは消失し、大事には至りませんでした。帯状疱疹の原因となるようなストレスや病気もなく、変わったことと言えば、発症4週間前に新型コロナワクチンの2回目を接種したことでした。

新型コロナウイルスと何でも結びつけてしまうのはいかがなものかとも思うのですが、自分が実際に経験したことなので気になって調べてみました。コロナワクチンと帯状疱疹に関連がないか論文検索をしたところ、少数例の症例報告が散見される中で比較的多数のコホート研究を見つけたので紹介します。(コホート研究は、臨床研究としてのエビデンスレベルは低めです。)

コロナワクチン接種をした110万人と、接種をしていない110万人のうち、60日以内に帯状疱疹を発症した人はそれぞれ2,200人と1,200人でした。つまり、コロナワクチン接種により、帯状疱疹になるリスクが1.8倍になったという計算になります。

2022/11/27追記 相反する研究結果も報告されており、こちらの記事も参照してください。

新型コロナワクチンで帯状疱疹発症リスクは上昇しない可能性(JAMA誌の報告)

気になるのは、帯状疱疹の発症リスクが上がる原因です。まず、一つ注意しないといけないのは、新型コロナワクチンに限らず、インフルエンザワクチンやA型肝炎ワクチンの接種後でも帯状疱疹が発症した例が報告されていることです。帯状疱疹ウイルス(VZV)が再活性化するメカニズムはまだよくわかっていません。ストレスや高齢、免疫抑制剤の使用、化学療法、放射線療法などが帯状疱疹を誘発するのではないかといわれており、これらに共通するのは免疫力の低下です。ワクチンを接種されると、ヒトの体内においてVZVに対する自然免疫または細胞免疫が一時的に低下することにより、VZVが再活性化し帯状疱疹が惹き起こされるという仮説が立てられています。

世界中で同じワクチンが同時期に何億人という単位で接種された経験は歴史上初めてです。ワクチン接種人数が多いと、稀な副反応であっても症例数が多くなり、話題になるくらい目立つようになったということでしょうか。新型コロナワクチンが、他のワクチンよりも帯状疱疹を起こしやすいかどうかは今後さらなる研究が必要です。

100万人以上のCOVID-19ワクチン接種から得られた実臨床エビデンスは、水痘・帯状疱疹ウイルスの再活性化と一致している
Real-world evidence from over one million COVID-19 vaccinations is consistent with reactivation of the varicella-zoster virus
J Eur Acad Dermatol Venereol. 2022 Apr 26;10.1111/jdv.18184.

DOI: 10.1111/jdv.18184

概要
背景
水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)の再活性化は、ヒトの帯状疱疹の原因となり、ワクチンによるまれな副反応となりうる。最近、COVID-19ワクチン接種後の症例が報告されている。

目的
本研究の目的は、リアルワールドデータに基づいて、COVID-19ワクチン接種後に帯状疱疹の発生頻度の増加が認められるかを大規模コホートで評価することであった。仮説として、COVID-19ワクチンを接種した対象者(コホートⅠ)と未接種者(コホートⅡ)で帯状疱疹の発生率が有意に高くなると仮定した。方法TriNetXデータベースからワクチン接種者1,095,086人と非接種者16,966,018人の初期コホートを検索し、交絡因子バイアスを軽減するために年齢と性別をマッチングさせた。

結果
マッチング後において、各コホートには1,095,086人の患者が含まれた。ワクチン接種群(コホートⅠ)ではCOVID-19ワクチン接種後60日以内に2,204人が帯状疱疹を発症したのに対し、コホートⅡではそれ以外の理由(つまりワクチン接種以外)でクリニックを受診後60日以内に1,223人が帯状疱疹と診断された。帯状疱疹の発症リスクはコホートⅠで0.20%、コホートⅡで0.11%と算出された。この差は統計学的に極めて有意であった(P < 0.0001; log-rank検定)。リスク比とオッズ比はそれぞれ、1.802(95%信頼区間[CI]=1.680;1.932)および1.804(95%CI=1.682;1.934)であった。

結論
仮説と一致して、COVID-19ワクチン接種後、帯状疱疹の高い発生率が統計的に検出された。したがって、帯状疱疹の発症はCOVID-19ワクチンのまれな副作用である可能性がある。VZV再活性化の分子的根拠はまだ不明であるが、VZV特異的な細胞性免疫の一時的な低下が、ワクチン接種後の帯状疱疹の病理にメカニズム的に関与している可能性がある.なお、VZVの再活性化は、感染症や他のワクチンでも確立された現象である(つまり、この有害事象はCOVID-19に特異的なものではない)。

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

その息切れはCOPDです

肥満が進むと、肺機能が低下していくのが速い:Thorax誌より

肥満の論文  / 院長による医学論文紹介

 

お相撲さんが取組で勝利したあと、NHKのアナウンサーにインタビューされている様子をみると、尋常ではない速さで呼吸をしています。質問にもまともに答えられていません。お相撲さんはトレーニングしているので、心肺機能が普通の人より劣っているとは思えません。しかし、同じ無酸素運動である短距離陸上選手の試合後インタビューと比較して、お相撲さんの息切れはひどいように思います。あの巨大な体で相撲をとるのに見合った酸素を取り込むためには、もっと大きな肺が必要なのでしょう。でも、お相撲さんはお腹が大きいため、横隔膜が肺の方へ押し上げられて肺が十分に広げることができず、呼吸の回数を速くすることで補っているのだと考えられます。

 

普通の体格の人が、誤った生活習慣のため、年々体重が増加して、お相撲さんのような体格になったとしましょう。相撲のようなトレーニングをしているわけではないので、坂を上ったり早歩きしたりといった軽い運動でも酸素が足りなくなり、息切れするようになります。

 

今回紹介する論文では、20歳から44歳の参加者を20年間にわたり体重と肺機能を検査して、その関連を調べています。年々体重が増加していく人は、肺機能低下のスピードが加速され、どんどん肺機能が悪くなっていきました。この結果を説明可能なメカニズムが論文中に2つ挙げられています。

 

第一に、体重が増加すると、機械的に肺機能が影響を受けます。腹部および胸部に脂肪組織があると、吸気時に肺が拡張するためのスペースが少なくなり、肺活量を低下させます。吸気量が減少するにともない、呼気流量も低下します。男性は女性よりも腹部に脂肪組織を多く蓄積する傾向があるため、男性の肺機能の方が低下しやすいことの説明にもなります。

第二に、脂肪組織は炎症性メディエーターを発生するため、肺組織が損傷され気道径が狭くなると考えられています。

 

 

 

肥満が進むと、肺機能が低下していくのが速い

Peralta GP, et al. Thorax 2020;0:1–8.

http://dx.doi.org/10.1136/thoraxjnl-2019-213880

要旨

背景

短い観察期間での若年成人において体重増加にともない著しく肺機能が低下すると、過去の研究で報告されている。本研究の目的は、住民を対象とした欧州共同体呼吸器健康調査(ECRHS)のデータを使用し、成人20年間の経過で、体重の増減で肺機能が変化するかを推定することとした。

方法

20〜44歳の研究参加者3673人を、3つの研究期間(1991〜93年、1999〜2003年、2010〜14年)において、39〜67歳になるまで繰り返し体重測定と肺機能測定(努力肺活量(FVC)、1秒量(FEV1))を行った。ベースラインでの体格指数(BMI)のカテゴリーと20年間の体重変化をもとに、被験者を体重変化プロファイルに分類した。平均人口で一般化した推定方程式を使用して、体重変化プロファイルの関数として経時的な肺機能変化量を推定した。

結果

正常なBMIを持つ個人では、ベースラインでの過体重と肥満、フォローアップ期間中の中程度(0.25–1 kg /年)および高度(> 1 kg /年)の体重増加とFVCおよびFEV1の加速的な低下と関連していた。ベースラインで正常なBMIとその後の体重変化が安定(±0.25 kg /年)していた参加者と比較して、フォローアップ中の体重増加が大きい肥満者では、25歳時の推定FVC量が同様にもかかわらず、65歳時の推定FVCがー1011 mL(95%CI  ―1.259からー763)であった。ベースラインでの肥満者がその後体重減少(<-0.25 kg /年)すると、FVCおよびFEV1の低下が減弱していた。体重変化状況とFEV1 / FVC低下との間に関連性は認めなかった。

結論

20年以上にわたって中程度および高度に体重が増加すると、肺機能低下が加速していた。一方、体重が減少すると肺機能低下スピードは減弱していた。成人の人生において、良好な肺機能を維持するには、体重増加をコントロールすることが重要である。

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

その息切れはCOPDです

この30年で世界の喫煙率、タバコによる死因は減少したのか(LANCET誌のGBD研究より)

禁煙、環境に関する論文  / 院長による医学論文紹介

WHOタバコ規制枠組条約(FCTC)をご存知でしょうか?2005年に発効したFCTCは国際的に拘束力のある法律です。日本政府もこの条約に同意し、署名しています。

FCTCが発行して14年が経った2019年の時点で、喫煙者と、喫煙が原因の病気がどれぐらい減少したかを世界的に調査したのが、今回紹介する論文です。

以下はDiscussionを抜粋翻訳し、解説を加えます。

喫煙による健康への悪影響が初めて明らかになった1960年代から、いくつかの国でたばこ規制の取り組みが始まっていたが、2005年にWHOタバコ規制枠組条約(FCTC)が成立したことで、タバコ規制の世界的な進展が見られるようになった。WHO FCTC導入後の10年間は、最も多くの国でタバコ喫煙者率が急速に低下した時期であった。 
FCTCの条文にうたわれる需要削減政策の有効性は示され、1990年から2019年の間にタバコ喫煙者は、ブラジル(73.4%減)、ノルウェー(53.5%減)、セネガル(50. 9%減少)で大きく減少し、さらにアイスランド、デンマーク、カナダ、オーストラリア、コロンビア、コスタリカでは減少率が45%を超えた。これらのツールが多様な状況で運用され、今後数十年にわたってタバコ喫煙者率を大幅に減少させ、何百万人もの命を救う可能性を示している。 

政策次第で、これほどまでに命を救う可能性を示されています。政府が動く国と動かない国で、数十年後には喫煙にともなう死者数に大きな差がついてくるのかもしれません。

2019年時点で10億人以上が定期的にタバコを吸っており、約800万人の死亡が喫煙に起因していた。喫煙は、男性では全死因の20.2%を占め、死亡と障害調整生存年数(DALYs)の両方の主要な危険因子となっていた。女性では、男性よりも喫煙率が低く、喫煙期間も短く、喫煙強度も低いため、喫煙は全死因の約5.8%を占めていた。

男性の死因の20%はタバコによるもの。この世からタバコが無くなれば、死因の20%が変わる可能性があるということ。もしタバコが無くなれば、現在はランキング上位にいる心筋梗塞や脳卒中、肺がん、COPDなどが下がり、ランキング外の死因が上位に上がってくるということでしょう。

タバコの規制により、世界のタバコ喫煙者率は、男性で27.5%(95%UI 26.5-28.5)、女性で37.7%(35.4-39.9)減少した。しかし、このような世界的な集計では、国ごとの重要な多様性が考慮されていない。1990年から2019年の間に、男性では135カ国、女性では68カ国でタバコ喫煙者率の有意な低下が観察されたのに対し、男性では20カ国、女性では12カ国で有意な上昇が観察された。 

日本においてはどうだったのでしょうか。

論文によると、女性では23.6%減少 、男性では41.7%減少と報告されています。

日本もようやく世界の喫煙率に追いついてきたというところでしょうか。下図は、男性においてタバコがどれぐらい死因に寄与しているかを示しています。中国では30〜35%、ロシアでは25〜29%の死因がタバコ由来となっています。日本では20〜25%の群に割り当てられています。

以下、本文要旨の翻訳です。

1990年~2019年のおける204の国と地域でのタバコの喫煙者率、タバコが原因となる疾病負担の空間的、時間的、人口統計学的パターン:世界疾病負担調査2019による系統的分析Spatial, temporal, and demographic patterns in prevalence of smoking tobacco use and attributable disease burden in 204 countries and territories, 1990–2019: a systematic analysis from the Global Burden of Disease Study 2019GBD 2019 Tobacco Collaborators †ARTICLES| VOLUME 397, ISSUE 10292, P2337-2360, JUNE 19, 2021DOI:https://doi.org/10.1016/S0140-6736(21)01169-7

概要

背景世界的なタバコの流行に終止符を打つことは、グローバルヘルスにおける重要な課題である。国内および世界規模でタバコ対策を行うためには、タバコ喫煙者率とタバコに起因する疾病負担をタイムリーかつ包括的に推定する必要がある。方法Global Burden of Diseases, Injuries, and Risk Factors Studyの一環として、1990年から2019年にかけて、204の国と地域を対象に、年齢と性別ごとに、タバコ喫煙者率と、タバコが原因となる疾病負担を推定した。3,625件の国別代表調査から得られた複数の喫煙関連指標をモデル化した。因果関係のある36の健康アウトカムについてシステマティックレビューとベイズメタ回帰を行い、現喫煙者と既喫煙者の非線形な用量反応リスクカーブを推定した。また、直接推定法を用いて帰属負担を推定し、これまでよりも包括的に喫煙の健康影響を推定した。調査結果世界では、2019年に11.4億人(95%不確実性区間 11.3-11.6)の人が現喫煙者であり、7.41兆本(7.11-7.74)の紙巻たばこ換算量を消費していた。15歳以上の男性(27.5%減[26.5-28.5])および女性(37.7%現[35.4-39.9])、喫煙率が1990年から大幅に減少していたが、人口増加に伴い、喫煙者の総数は1990年の9億9,000万人(9.8-10.0)から大幅に増加した。2019年には、世界全体ではタバコ喫煙の使用により769万人(716-820)が死亡し、2億年(1.85-2.14)の障害調整生存年数の原因となり、男性の死亡リスク要因のトップであった(男性死亡の20.2%[19.3~21.1])。タバコ喫煙に起因する769万人の死亡のうち686万人[86.9%]は現喫煙者であった。解釈介入がない場合、喫煙に起因する年間死亡者数769万人、障害調整寿命の2億年は、今後数十年にわたって増加すると考えられる。すべての地域、すべての発展途上国で、タバコ喫煙者率を減らすことに大きな進展が見られたが、タバコ対策の実施には大きな差が残っている。喫煙率の減少を加速させ、国民の健康に多大な恩恵をもたらすために、各国にとって科学的根拠に基づく強力な政策を通す、明確かつ緊急な時機である。資金提供ブルームバーグ・フィランソロピー、ビル&メリンダ・ゲイツ財団

 

年齢調整喫煙率 2019

1990から2019の変化

 

女性

男性

女性

男性

全世界

6·62 %

32·7 %

−37·7% 

−27·5 %

日本

10·2 %

33·4% 

−23·6% 

−41·7% 

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

その息切れはCOPDです

ガンとガン以外の末期患者さんで緩和ケアの提供に違いはあるのか(JAMA誌よりカナダの報告)

がん関連  / 院長による医学論文紹介

 

この目的からすると、末期であればどんな病気の患者さんであっても緩和ケアの対象であるはずです。しかし、がんとがん以外の末期患者さんに対する緩和ケアを比較した研究では、緩和ケアへのアクセスに格差があり、緩和ケアによるメリットの大きさにも差があることが報告されています。

 

今回紹介する論文は、カナダのオンタリオ州で行われた研究であり、がん以外の末期疾患(慢性臓器不全や認知症など)で死亡した患者さんの最期の1年間において、がんで死亡した患者さんと比較して、緩和ケアがどのように提供されていたかを複数の視点で調査しています。

 

約14万人の末期患者さんを対象としたこのコホート研究では、がん患者と比べて、がん以外の患者では、緩和ケアの提供に大きな違いがあることがわかりました。がん患者の方が早期に緩和ケアが開始されており、専門家が自宅を含めて複数の場所で提供することが多く、専門研修を受けた総合医や内科医から緩和ケアを受けることが多かったのです。

 

緩和ケアはがん患者さんに対して始まり、がんにおいては長い歴史があります。今回の結果は、がんセンターなどでは緩和ケアプログラムが確立されていることと関連していると著者らは述べています。

がん以外の末期患者さんも呼吸困難、痛みなど、がん患者さんと同様の身体的および精神的症状があります。今後はがん以外の緩和ケアも注目されていくのではないでしょうか。

 

Comparison of Palliative Care Delivery in the Last Year of Life Between Adults With Terminal Noncancer Illness or Cancer

癌ではない末期患者と癌患者の人生最後の1年における緩和ケア提供の比較

 

March 4, 2021

JAMA Netw Open. 2021;4(3):e210677. 

doi:10.1001/jamanetworkopen.2021.0677

 

キーポイント

質問 

がん以外の病気(慢性臓器不全や認知症など)の患者に対する緩和ケアはどのように行われているのか?また、がんの患者とは異なる方法で行われているのか?

結果 

このコホート研究では、がんまたはがん以外の末期疾患で死亡し、最期の1年間に緩和ケアを受けた成人145,709人のうち、がん患者は臓器不全や認知症患者に比べて、緩和ケアが早期に開始され、病院内で開始され、複数のケア環境で提供される傾向があった。

慢性臓器不全や認知症の患者さんと比較して、がん患者は一般医モデルではなく、相談医モデルや専門医モデルでケアを受ける傾向があり、サブスペシャリティのトレーニングを受けた総合医や内科医から緩和ケアを受けることが多かった。

意味 

重大な病気の種類によって緩和ケアの提供方法が異なることは、ケア提供者の教育・訓練の強化や、すべての環境でケアへの公平なアクセスの改善など、緩和ケアプログラムの組織化や規模の拡大に重要な意味を持つ。

 

概要

重要性 

緩和ケアは健康アウトカムを改善するが、異なる種類の重篤な疾患を持つ患者への緩和ケアの提供の違いに関する研究は不足している。

目的 

がんで死亡した場合と比較して、がん以外の末期疾患で死亡した人の最期の年に緩和ケアが提供されているかどうかを調査する。

研究のデザイン,設定,参加者 

今回、カナダのオンタリオ州における人口ベースのコホート研究を行った。最期の年に緩和ケアを受け,2010年1月1日から2017年12月31日の間に死亡した成人についての医療行政データを用いた。

曝露 (介入)

死因(慢性臓器不全または認知症、がん)

主な結果と測定

 緩和ケア提供の構成要素(開始した時期と場所、ケアモデル、医師構成、ケア設定、死亡場所などを含む)

結果 

緩和ケアを受けた成人145,709人(年齢中央値78歳、四分位範囲67~86歳、女性50.7%)のうち、21,054人が慢性臓器不全(心不全4,704人、慢性閉塞性肺疾患5,715人、末期腎不全3,785人、肝硬変579人、脳卒中6,271人)、14,033人が認知症、110,622人ががんで死亡した。緩和ケアが開始された時期は、がん患者(32,010人[28.9%])の方が、臓器不全患者(3,349人[15.9%]、絶対差13.0%)や認知症患者(2,148人[15.3%]、絶対差13.6%)よりも、早かった。慢性臓器不全患者(6,904人[32.8%]、絶対差-18.3%)や認知症患者(3,922人[27.9%]、絶対差-13.4%)と比較して、がん患者では自宅で緩和ケアを開始した割合が低かった(16,088人[14.5%])。

がん患者 (92,107人 [83.3%]) は、慢性臓器不全患者(12,061人[57.3%]、絶対差は26.0%)や認知症患者(7,553人[53.8%]、絶対差は29.5%)と比較して、複数のケアの場所で緩和ケアを受ける頻度が高かった。慢性臓器不全患者(9,114人[43.3%]、絶対差29.6%)や認知症患者(5,634人[40.1%]、絶対差32.8%)と比較して、がん患者(80,615人[72.9%])では、一般医ではなく相談医や専門医のモデルを用いて緩和ケアが行われることが多かった。がん患者(42,718人[38.6%])は、慢性臓器不全患者(3,599人[17.1%]、絶対差21.5%)や認知症患者(1,989人[14.2%]、絶対差24.4%)と比較して、サブスペシャリティのトレーニングを受けた総合医や内科医から、共通の緩和ケアを受けている頻度が高かった。

結論と妥当性

今回のコホート研究では、異なる種類の重篤な疾患において患者と緩和ケア提供者のレベルによって緩和ケアの提供に大きな違いが見られた。このような患者レベルと提供者レベルの違いは、提供者の教育・訓練の強化や、あらゆる環境でのケアへの公平なアクセスの改善など、緩和ケアプログラムの組織化や大規模な実施に重要な意味を持っている。

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

その息切れはCOPDです

間質性肺炎の末期患者さんに対する緩和ケアに改善が必要か(Thorax誌より日本の報告)

肺のその他の病気の論文  / 院長による医学論文紹介

いわゆる肺炎は細菌が原因となって発生する細菌性肺炎のことで、肺胞の中で炎症が主におこります。

一方、間質性肺炎(間質性肺疾患;ILD)は、肺胞を形作る肺そのもの(間質)に炎症がおこる病気です。

リウマチなどの膠原病やウイルス、アレルギー、タバコなどが原因となるもの、原因がはっきりしないものなど、ILDには様々なタイプが知られています。

原因不明のILDの中でも特発性肺線維症(IPF)はよくみられるタイプであり、タバコと関連があると考えられています。

ほとんどのガンよりもIPFの予後は悪く(=余命が短く)、診断されてからの生存期間は中央値で約3年とされています。IPFは一般にはあまり知られていない良性の病気なのですが、実際はガンよりもたちの悪い病気と言えるかもしれません。

間質性肺炎の末期症状と緩和ケア

ILDが進行していくにつれ、咳や倦怠感、不安感、抑うつ感、息苦しさなどの症状を患者さんは経験するようになります。肺がん患者さんでも同様の症状を認めますが、肺がんよりも重い症状で長期間苦しむこともあります。

最近、ガン以外の病気の終末期における症状緩和ケアが注目され、本ブログでも紹介しました。

[2021.03.28]ガンとガン以外の末期患者さんで緩和ケアの提供に違いはあるのか(JAMA誌よりカナダの報告)

しかし、現在の臨床現場では、ILD患者さんに対する緩和ケアが十分に行われているとは言えない状態です。

今回紹介する論文は、浜松医科大学を中心とする静岡県西部の病院グループからの報告です。研究は、遺族に対するアンケート調査と、カルテ閲覧による診療内容の調査から構成されています。

遺族への調査の結果、ILD患者さんは肺がん患者さんと比べて、非常に激しい息苦しさに悩まされることが多く、特に「身体的・心理的苦痛の緩和」と「予後の認識と意思決定への参加」に関する領域で満足度が低いことが明らかになりました。

終末期の治療内容を調査すると、ILD患者さんは苦痛を感じているにもかかわらず、症状緩和ケアを受けることが少なかったことが判明しました。また、 半数以上のILDにおいて、患者さん本人がいないところで終末期の話し合いが行われていました。

これらの結果から、ILDにおいて苦痛の緩和が不十分であり、十分な情報を患者さん本人に知らされていないことが示唆されました。

肺癌と間質性肺疾患患者における死に至る過程と死の質的相違:一つの観察研究
Quality of dying and death in patients with interstitial lung disease compared with lung cancer: an observational study

 

 

Thorax 2021;76:248-255.

最も伝えたいメッセージ

キーとなる質問はなにか

間質性肺疾患(ILD)患者と肺がん患者では、QODD(Quality of Dying and Death)や終末期の介入に違いがあるのか?

最終結論はなにか

間質性肺疾患の患者さんは、肺がんの患者さんに比べてQODDが低く、緩和ケアや意思決定へのアクセスも悪かった。

なぜ読み進めるのか?

今回の研究により、ILD患者さんが良い死を迎えられるために必要な改善点が明らかになる。

概要

背景
間質性肺疾患(ILD)患者におけるQODD(Quality of Dying and Death)や終末期の介入に関する知見は限られている。そのため、ILD患者と肺がん(LC)患者のQODDや終末期の介入の違いについては、あまり理解されていない。

方法
本研究の主な目的は、ILD で死を迎える患者と LC で死を迎える患者の QODD と終末期の介入の違いを探ることであった。Good Death Inventory(GDI)スコアを用いて、遺族の視点からQODDを定量化するために、郵送調査を行った。さらに、カルテレビューにより終末期の介入についても検討した。

結果
終末期に介入した連続361名の患者のうち、遺族がアンケートに回答した167名の患者についてQODDの分析を行った。ILD患者はLC患者に比べてQODDのGDIスコアが低く(p=0.04)、特に「身体的・心理的苦痛の緩和」と「予後の認識と意思決定への参加」に関する領域でスコアが低かった(それぞれp=0.02)。終末期の介入では、ILD患者は、専門的な緩和ケアサービス(8.5%対54.3%;p<0.001)やオピオイド(58.2%対73.4%;p=0.003)を受ける割合が低かった。また、終末期の話し合いにILD患者が参加する頻度も低かった(40.8%対62.4%;p=0.007)。

結論
ILD患者はLC患者に比べてQODDが低く、緩和ケアや意思決定へのアクセスも悪かった。ILD患者のQODD、特に症状緩和と意思決定プロセスを改善するためのさらなる努力が早急に必要である。

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

その息切れはCOPDです

偶発的に見つかった肺結節の診断をするために、検査を徹底的にしてもしなくても、その結果は同じなのか?(JAMA誌からの報告)

がん関連  / 院長による医学論文紹介

肺がん検診や、人間ドックのCT検査などで、肺に結節(丸い影)が見つかることがあります。ご自分の肺に結節が見つかって要精査という結果が返ってきた人は、とうとう肺がんになってしまったと不安になることでしょう。その結果をもって、病院に行き多種多様な検査を受けたくなります。

「そんなに検査は受けなくてもいいんですよ」と医師に説明されたとしても、検査を多数してもらえる他の病院を探したくなる方もいるかもしれません。

でも、多数の検査を受けても、必要最小限の検査を受けても、結果は変わらないとしたら、どうでしょうか。検査を受ければ受けるほど、費用はかかるし、放射線被ばく量は増えるし、検査にともなう合併症も増えます。安心料だったとして割り切ることはできるでしょうか。

今回紹介する論文は、後ろ向き研究であり、結論を出すほどエビデンスレベルが高くない研究です。しかしながら、前向きの無作為化比較研究の実施が困難な領域であり(検査をする群と検査をしない群で、肺がん進行度に違いがでるかという研究は患者さんの同意が得られにくい)、これ以上のエビデンスを出すのは困難だと思います。

今回の研究では、肺結節が見つかって、徹底的に検査してもしなくても、2年後に判明していた肺癌の病期(ステージ)に有意差がなかったという結果を示しました。

徹底的に検査すれば肺癌を早く見つけることができるかもしれませんが、検査しなくても2年以内に同じような肺癌をみつけることができるということです。

肺結節を持つ人すべてに徹底的な検査をすることはお勧めできません。しかし、どのような肺結節(結節の性状)であれば、手術を含めて徹底的に検査をするのか、経過観察でよいのか、経過観察も要らないのか、昔から悩ましい問題であり今後の課題です(もしかすると永遠の課題かもしれません)。

Original Investigation

Association of the Intensity of Diagnostic Evaluation With Outcomes in Incidentally Detected Lung Nodules
偶発的に見つかった肺結節では、診断的検査の徹底度と転帰は関連するのか

JAMA Intern Med. Published online January 19, 2021. 

doi:10.1001/jamainternmed.2020.8250

 

 

 

キーポイント
質問
偶発的に見つかった肺結節の診断的検査の徹底度は、患者の転帰と医療費に関連しているか?

調査結果
この比較有効性調査研究では偶発的に肺結節が検出された5,057人を対象として、検査の徹底度と肺がん病期分布が関連するという決定的な証拠はなかった。 ガイドラインに準拠した評価法と比較して、徹底度の低い評価法は放射線被曝が少なく、検査関連の有害事象が少なく、医療費が少なかった。一方、徹底度の高い検査は放射線被曝が多く、検査関連の有害事象が多く、医療費が多かった。

意義
この研究結果は、現在のガイドラインの推奨事項を裏付けるエビデンスのレベルを上げる必要性、肺結節に対する不必要に高い強度の診断検査を減らす必要性を強調する。

概要
重要性
肺結節に対する、ガイドライン準拠の検査方法がより良い結果につながるかどうかは不明である。

目的
肺結節の診断検査の徹底度と結果、安全性、および医療費との関連を調べること。

デザインと設定、参加者
この比較有効性調査研究では、ワシントン州シアトルのカイザーパーマネンテワシントンとウィスコンシン州マーシュフィールドのマーシュフィールドクリニックにおいて、2005年1月1日から2015年12月31日までの間に偶発的に肺結節が検出された健康保険加入者を解析した。 35歳以上、感染症の疑いが高くなく、悪性新生物の病歴がなく、結節が見つかった時点で進行期肺癌の所見がない患者が含まれた。 データ解析は2020年1月7日から8月19日まで実施された。

曝露(介入)
2005年フライシュナー協会ガイドライン(調査期間中に適用性があるために選択された)を比較対照として、他の2つの徹底度の肺結節評価法が定義された。 ガイドラインに準拠した評価はガイドラインに従った。 それほど徹底度の高くない評価法は、推奨される検査がないこと、推奨されるよりも長い監視間隔、または推奨されるよりも侵襲性の低い検査であった。 より徹底度の高い評価法は、ガイドラインがそれ以上の検査を推奨しない場合の検査、推奨よりも短いサーベイランス間隔、または推奨よりも侵襲的な検査で構成された。

主な結果と対策
主な結果は、肺結節の検出から2年後に、ステージIIIまたはIVの肺癌患者の割合、放射線被曝、手技関連の有害事象、および医療費であった。

結果
この比較有効性調査研究に含まれる5,057人のうち、1,925人(38%)はガイドラインに準拠した評価法、1,863人(37%)は低徹底度の評価法、1,269人(25%)はより徹底度の高い評価法を受けた。 コホート全体では、2,786人が女性(55%)、平均年齢(SD)は67(13)歳であった。調整された解析では、ガイドラインに準拠した評価法と比較して、低徹底度の評価法は手技関連有害事象が少なく(リスク差[RD]、−5.9%; 95%CI、−7.2%〜−4.6%)、平均放射線被爆量が少なく(−9.5ミリシーベルト[mSv]; 95%CI、−10.3mSvから−8.7mSv)、平均医療費が少なく(−$ 10,916; 95%CI、−$ 16,112〜−$ 5,719); 肺がんと診断された患者の中でステージIIIまたはIVであった割合に差は見られなかった(RD、4.6%; 95%CI、-22%から+ 31%)。より徹底度の高い評価法は、手技関連の有害事象が多く(RD、+ 8.1%; 95%CI、+ 5.6%〜+ 11%)、平均放射線被曝量が多く(+ 6.8 mSv; 95%CI、+ 5.8mSv〜+ 7.8 mSv)、平均医療費が多く($ 20,132; 95%CI、+ $ 14,398〜+ $ 25,868); III期またはIV期の割合に差は認めなかった(RD、−0.5%; 95%CI、−28%〜+27%)。

結論と関連性
本研究では、ガイドラインに準拠した診療と比較して、徹底度の低い評価法が進行期の肺癌診断が多いという決定的な証拠は見つからなかった。 より徹底的な評価法は、手技の合併症、放射線被曝、および医療費の多さと関連していた。 これらの知見により、肺結節評価法をさらに改善するために、そして不必要に徹底的な診断評価法を回避するために、さらに多くの科学的根拠が必要であることが強調される。

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

その息切れはCOPDです

コントロール不良喘息に対し、3剤合剤吸入(エナジア®)は2剤合剤吸入(アテキュラ®またはアドエア®)より有効(IRIDIUM試験)(LANCET Resp. Med誌より)

ぜん息関連  / 院長による医学論文紹介
  • エナジア®の治験=IRIDIUM試験

 アテキュラ®とエナジア®という新薬がもうすぐ使用できるようになります。先週のブログでは、アテキュラ®が承認される元となった治験(PALLADIUM試験)を紹介しました。

コントロール不良喘息にはモメタゾン+インダカテロール(アテキュラ®)はモメタゾン(アズマネックス®)より有効、フルチカゾン+サルメテロール(アドエア®)とは同等の効果

本日はエナジア®が承認されることなった元の治験(IRIDIUM試験)についてお話します。

 

  • エナジア®はトリプル吸入薬

 アテキュラ®が2剤の合剤であったのに対し、エナジア®は3剤の合剤であり、トリプル吸入薬になります。つまり、エナジア®を1回吸入すれば3種の薬を同時に吸入できます。合剤がなければ3つの吸入器をそれぞれ吸入しないといけないことを考えると、合剤を使うと患者さんの手間は3分の1になります。患者さんにとっては負担が減り、服薬遵守率の改善に伴い治療効果の向上が望めます。(どんなに良い薬でも、服薬しなければ治療効果はゼロだからです。)

 

  • 吸入薬はICS、LABA、LAMAの3種類

 現在、喘息およびCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の長期管理に使用する吸入薬はその作用機序から、吸入ステロイド(ICS)、長時間作用型吸入β2刺激薬(LABA)、長時間作用型抗コリン薬(LAMA)の3種類に分類されます。

 COPDの患者さんに対してはLAMAとLABAを中心に必要に応じてICSを追加するという治療方針をとります。一方、喘息の患者さんに対しては、ICSとLABAをまず使用して、コントロールできない場合にはLAMAを追加します。現在日本で喘息に使用できるICS+LABA合剤として、アドエア®、シムビコート®、フルティフォーム®、レルベア®の4種があります。この4種でコントロール不良の場合、追加できるLAMAはまだスピリーバ®のみです。そのため、3剤を吸入してもらっている患者さんは、異なる使用方法の吸入器2つで、毎日2回以上吸入しています。

 例えば、シムビコート®とスピリーバ®を使用している患者さんは、シムビコート®は朝晩の1日2回、患者さんによって1回あたり1〜4吸入します。スピリーバ®は朝か晩の1日1回、1回あたり2吸入します。シムビコート®は粉末、スピリーバ®はエアゾールであり、吸入器の扱い方は全く異なります。患者さんにとっては、これをすべて覚えた上で、忘れずに毎日行うのはかなり大変だと思います。

 

  • エナジア®と、テリルジー®、ビレーズトリ®

 2020年7月時点で販売されている3剤合剤の吸入薬にはテリルジー®とビレーズトリ®の2つがあります。いずれも保険適応病名はCOPDのみなので、喘息に使用することはできません。

 過去のブログ記事参照

COPD に 対して3 剤同時吸入療法と 2 剤同時吸入療法では治療効果に差があるのか(IMPACT試験)

COPD(慢性閉塞性肺疾患)における3剤併用療法と2剤併用療法の治療効果は血中好酸球数で異なるのか:IMPACT試験の分析

中等症以上のCOPDには3剤合剤(トリプル)吸入療法が増悪予防に有効(ETHOS試験とIMPACT試験の比較)

 日本でもトリプル吸入療法が喘息に使用できるようになるのは、喘息患者さんにとって朗報だと思います。今回紹介するエナジア®は近日中に使用できるようになりますし、まだ噂レベルですがテリルジー®も喘息に適応拡大されるみたいです。

 

  • ーーーここから専門的な記述になりますーーー

 PALLADIUM試験とIRIDIUM試験の最大の違いは、試験治療薬がPALLADIUMは2剤(アテキュラ®)に対し、IRIDIUMは3剤(エナジア®)になっているところです。対照薬が2剤(アドエア®)ですので、PALLADIUMは非劣性試験、IRIDIUMは優越性試験になります。(薬を3剤に増やすと、有害事象は必ず増えるので、治療効果が非劣性では意味がありません。)優越性を示すためには、2剤ではコントロールできず3剤でコントロールできるような患者を対象に選ばなければなりません。

 患者登録基準をみてみると、PALLADIUM試験では%FEV1が50〜85%、中用量または高用量のICS療法または低用量ICS+LABA療法にもかかわらず喘息管理質問票7(ACQ7)のスコアが1.5以上、 喘息増悪の既往は不問とされています。一方のIRIDIUM試験では中用量または高用量のICS-LABAによる治療にもかかわらず、前年に少なくとも1回の喘息増悪があり、%FEV1が80%未満、症状を有する患者となっています。

 

 実際に登録された患者の特徴をみてましょう。

試験名 PALLADIUM試験 IRIDIUM試験
試験適格基準

%FEV1が50〜85%

中/高用量ICS、または低用量ICS+LABAで治療中

喘息管理質問票7(ACQ7)のスコアが1.5以上

6週間以内に喘息増悪の既往があると除外

%FEV1が80%未満

中/高用量ICS-LABAで治療中

喘息管理質問票7(ACQ7)のスコアが1.5以上

1年以内に少なくとも1回の喘息増悪あり

6週間以内に喘息増悪の既往があると除外

患者背景

直近1年以内の喘息増悪を起こした回数と患者割合
 0回 69%
 1回 24%


気管支拡張剤吸入前の%FEV1
 67.3% (SD 8.64%)

治療前ACQ7スコア
 平均 2.3 (SD 0.48)

前治療
 低用量ICS+LABA 69%
 中用量ICS    20%

直近1年以内の喘息増悪を起こした回数と患者割合
 0回 <1%
 1回 80%
 2回 16%


気管支拡張剤吸入前の%FEV1
  54.8% (SD 13.65%)


治療前ACQ7スコア
 平均 2.5 (SD 0.57)

前治療
 中用量ICS+LABA 62%
 高用量ICS+LABA 37%

 

 このように、IRIDIUM試験に参加した患者は、PALLADIUM試験よりも重症の喘息であることがわかります。上記のような患者像に対しては、2剤より3剤の方が有効である(優越である)ことを証明しました。

 

  • ーーーこれからは私見ですーーー

 下記のグラフは試験期間中のピークフロー改善量を各治療群毎にみています。

 期間中を通じてピークフローは、高用量エナジア®は45ml程度、中用量エナジア®は40ml程度、高用量アテキュラ®は25-30ml、中用量アテキュラ®は20-25ml改善しています。

 ピークフローが5ml増えても、患者さんの自覚症状はほとんど変わりないことが想定されます。つまり、例えば中用量アテキュラ®で治療中の患者さんの日々の症状を改善しようと思ったときは、高用量アテキュラ®に変更するより中用量エナジア®に変更するべきです。ICSの用量を増やしてPEFを5ml増やすよりも、LAMAを追加してPEFを20ml増やした方が症状の改善につながり、患者さんは喜ぶと思います。

 逆に、患者さんの自覚症状改善よりも増悪発生を抑えたいときは、ICSを増やした方がよいことが予想されます。しかし、今回の1年という観察期間では増悪発生回数が少ないため、そこまでは読み取れるデータはありませんでした。

  • ーーー以下は論文要旨ですーーー

Once-daily, single-inhaler mometasone–indacaterol–glycopyrronium versus mometasone–indacaterol or twice-daily fluticasone–salmeterol in patients with inadequately controlled asthma (IRIDIUM): a randomised, double-blind, controlled phase 3 study

コントロール不良喘息の患者を対象とした、1日1回吸入のモメタゾン-インダカテロール-グリコピロニウム療法とモメタゾン-インダカテロール療法、または1日2回吸入のフルチカゾン-サルメテロール療法の比較:無作為化二重盲検第3相試験(IRIDIUM試験)

 

The Lancet Respiratory Medicine

Published:July 09, 2020

DOI:https://doi.org/10.1016/S2213-2600(20)30190-9

 

概要

背景

吸入コルチコステロイドと長時間作用型β2アドレナリン受容体作動薬(ICS–LABA)の併用療法ではコントロールが不十分な喘息患者には、長時間作用型ムスカリン受容体拮抗薬を追加が有効である場合がある。 IRIDIUM試験の目的は、不適切にコントロールされた喘息患者において、ICS–LABAと比較して、フランカルボン酸モメタゾン、酢酸インダカテロール、臭化グリコピロニウム(MF–IND–GLY)の1日1回吸入療法の有効性と安全性を評価することあった 。

方法

52週間における二重盲検、二重ダミー、並行群、アクティブ制御の今回の第3相試験では、41か国の415施設から患者が募集された。中用量または高用量のICS-LABAによる治療にもかかわらず、前年に少なくとも1回の喘息増悪があり、%FEV1が80%未満、症状を有する18〜75歳の喘息患者が含まれた。登録患者は相互反応技術を用いて無作為に振り分けられ、中用量または高用量のMF-IND-GLY(80μg、150μg、50μg;160μg、150μg、 50μg)またはMF-IND(160μg、150μg;320μg、150μg)をBreezhalerで1日1回吸入、または高用量のフルチカゾン-サルメテロール(FLU-SAL; 500μg、50μg)をDiskusで1日2回吸入の5群に1:1:1:1:1で割り当てられた。主要な評価項目は、反復測定の混合モデルによって解析された完全解析セット(FAS)患者での、MF-IND-GLY群とMF-IND群における、治療26週目のトラフFEV1の治療前からの変化量の比較であった。安全性は、少なくとも1回量の治験薬を投与されたすべての患者で評価された。この試験はClinicalTrials.gov, NCT02571777に登録され、完了している。

調査結果

2015年12月8日から2019年6月14日までの間に、スクリーニングを受けた4851人の患者のうち3092人がランダムに割り当てられた(中用量MF–IND–GLY、n = 620;高用量MF–IND–GLY、n = 619;中用量MF-IND、n = 617;高用量MF-IND、n = 618;高用量FLU-SAL、n = 618)。 2747人(88.8%)の患者が52週間の治療を完了し、321人(10.4%)が試験治療を開始したが早期中止した。 中用量MF–IND–GLY(治療差[Δ] 76 mL [95%CI 41–111]; p <0.001)および高用量MF–IND–GLY(Δ65 mL [31–99]; p <0.001)は、MF-INDの対応する用量と比較して、26週目トラフFEV1の優れた改善を示した。26週目トラフFEV1の改善量は、高用量FLU–SALと比較して、中用量MF-IND-GLY(99 mL [64–133]); p < 0.001)および高用量MF–IND–GLY(119 mL [85–154]; p <0.001)の両群において大きかった。全患者において、有害事象の発生率は治療群間でバランスが取れていた。 研究期間中に7例の死亡が報告された(中用量MF-IND-GLYが1名、高用量MF-IND-GLYが2名、高用量MF-INDが4名)。 これらの死亡例のいずれにおいても、治験薬またはその他の治験関連要因が死因とは担当医は考えていなかった。

解釈

ICS-LABA併用(MF-INDおよびFLU-SAL)と比較して、MF-IND-GLYの1日1回1回1吸入により、喘息のコントロールが不十分な患者の肺機能が改善された。 安全性プロファイルは治療群間で類似していた。 したがって、MF-IND-GLY療法は、これらの患者にとって優れた治療選択肢となる。

資金提供

ノバルティス製薬

 

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

その息切れはCOPDです

中等症以上のCOPDには3剤合剤(トリプル)吸入療法が増悪予防に有効(ETHOS試験とIMPACT試験の比較)

COPDの論文  / 院長による医学論文紹介
  • COPDとは

 COPD(慢性閉塞性肺疾患)は主にタバコ煙を原因として引き起こされる気管支の病気です。COPDでは、気管支が慢性的に炎症を起こした結果、セキやタンが常にでて、気管支の狭窄により息を上手く吐き出せなくなり、息切れを自覚するようになります。

 

 COPDは慢性疾患であるため、根治させるような根本的な治療薬はありません。症状を抑えてQOLを向上させること、増悪の頻度を抑えて病状の進行を抑えること、死亡率を下げることを主眼にして、治療薬が開発されています。

 

  • COPD治療の主役は吸入薬:LAMA、LABA、ICS

 現在、主に使用されるCOPDの治療薬は3種類の吸入薬です。作用機序がそれぞれ異なり、LAMA(吸入抗コリン薬)、LABA(吸入β2刺激薬)、ICS(吸入ステロイド)と略語で呼ばれます。3つそれぞれ別に吸入するのは患者さんにとって負担であり、ただでさえ吸入薬はアドヘアランス(服薬遵守率)が低い薬のため、2つ以上の薬を一つにまとめた薬が各種販売されています。

 

  • COPDのトリプル吸入薬:テリルジー®とビレーズトリ®

 COPDに対しては、LAMA単剤、LABA単剤、LAMAとLABAの合剤、ICSとLABAの合剤が使われてきましたが、最近になってLAMAとLABAとICSの3剤合剤が承認され、日本でも使用できるようになりました。グラクソ・スミスクライン社のテリルジー®と、アストラゼネカ社のビレーズトリ®の2つが現在使用できる3剤合剤(トリプル吸入薬)です。新薬の製造販売が承認されるためには、大規模な臨床試験が製薬会社に課されますが、テリルジー®を使用したのがIMPACT試験、ビレーズトリ®を使用したのがETHOS試験です。

 

 

  • ーーー以下は専門的記述になります。ーーー

IMPACT試験については、2019/5/12の本ブログにて紹介しました。

COPD に 対して3 剤同時吸入療法と 2 剤同時吸入療法では治療効果に差があるのか(IMPACT試験)

今回紹介するETHOS試験はJuly 2, 2020のNEJM誌に発表されたものです。

 

下記の表で比較したように、IMPACT試験とETHOS試験は、細かな違いはあるものの、極めて類似した試験です。増悪(発作)を直近1年以内におこしたことがあるような中等症以上のCOPDに対して、2剤の吸入薬より3剤の吸入薬の方が中等度以上のの増悪を予防し、死亡率も低くなるものの、肺炎の発生が多くなるという結論もほぼ同様です。

 

ただ、IMPACTと異なり、ETHOSではICS+LABA+LAMAの3剤合剤の治療群を、ICS(ブデソニド)の投与量によって2つに分類されました。1日のブデソニド投与量が320μgと160μgの2群で比較されていますが、この2群では結果はほぼ変わりません。ただし、320μg群の死亡率が1.3%と、160μg群の死亡率1.8%よりわずかに良好でした。ちなみに、日本で使用されるビレーズトリ®のブデソニドは1日あたり320μgです。

その他、ETHOS試験の方が、気道可逆性を示す患者が10%ほど多く、ICSを登録前に使用していた患者も10%ほど多くなっています。

試験名 IMPACT ETHOS
デザイン 2重盲検 3群比較 2重盲検 4群比較
参加患者数 テリルジー (ICS100+LABA+LAMA) 4,151例
アノーロ (LABA+LAMA) 2,070例
レルベア (ICS100+LABA) 4,134例

ビレーズトリ (ICS320+LABA+LAMA) 2,137例
ICS160+LABA+LAMA 2,121例
ビベスピ (LABA+LAMA) 2,120例
シムビコート (ICS160+LABA) 2,131例

適格患者像 CATスコア>10
 %FEV1<50%の場合、直近1年以内の中等〜重度増悪が1回以上
 50%<%FEV1<80%の場合、直近1年以内の中等度増悪2回以上or重度増悪1回以上
現在の喘息患者は除外
CATスコア>10かつ、25%<%FEV1<65%
  %FEV1<50%の場合、直近1年以内の中等〜重度増悪が1回以上
  50%<%FEV1の場合、直近1年以内の中等度増悪2回以上or重度増悪1回以上
現在の喘息患者は除外
前治療 制限なし 2剤以上の吸入維持療法
試験治療 1日1回1回1吸入 52週間 1日2回1回2吸入 52週間
主要評価項目 中等度または重度の増悪発生率 中等度または重度の増悪発生率
患者背景(各群) 直近1年以内に中等度または重度増悪を起こした患者割合
 1回のみ 45-46%
 2回以上 54-55%
気管支拡張剤吸入後の%FEV1
 45.4±14.7%〜45.7±15.0%
気道可逆性のある患者割合
 18%〜20%
ICSを使用している患者割合
 67%
平均CATスコア
 20.1±6.1〜20.2±6.2
末梢血好酸球数が150/ul以上の患者割合
 57%
直近1年以内に中等度または重度増悪を起こした患者割合
 1回のみ 43-44%
 2回以上 56-57%
気管支拡張剤吸入後の%FEV1
 43.1±10.4%〜43.6±10.3%
気道可逆性のある患者割合
 29.8%〜31.6%
ICSを使用している患者割合
 79.8%〜81.5%
平均CATスコア
 19.5±6.6〜19.7±6.5
末梢血好酸球数が150/ul以上の患者割合
 59.3%~60.7%
中等度または重度増悪発生率 テリルジー 0.91/年
アノーロ 1.21/年
レルベア 1.07/年
ビレーズトリ (ICS320) 1.08/年
ICS160+LABA+LAMA 1.07/年
ビベスピ 1.42/年
シムビコート 1.24/年
重度増悪発生率 テリルジー 0.13/年
アノーロ 0,19/年
レルベア 0.15/年
ビレーズトリ (ICS320) 0.13/年
ICS160+LABA+LAMA 0.14/年
ビベスピ 0.15/年
シムビコート 0.16/年
52週以内死亡数(率) テリルジー 50人 (1%)
アノーロ 39人 (2%)
レルベア 49人 (1%)
ビレーズトリ (ICS320) 28人(1.3%)
ICS160+LABA+LAMA 39人 (1.8%)
ビベスピ 49人 (2.3%)
シムビコート 34人 (1.6%)
重篤な有害事象発生数(率) テリルジー 895人 (22%)
アノーロ 470人 (23%)
レルベア 850人 (21%)
ビレーズトリ (ICS320) 426人 (19.9%)
ICS160+LABA+LAMA 445人 (21.0%)
ビベスピ 433人 (20.4%)
シムビコート 440人 (20.6%)
肺炎発生数(率) テリルジー 317人 (8%)
アノーロ 97人 (5%)
レルベア 292人 (7%)
ビレーズトリ (ICS320) 90人 (4.2%)
ICS160+LABA+LAMA 75人 (3.5%)
ビベスピ 48人 (2.3%)
シムビコート 96人 (4.5%)

 

 

  • 以下は論文要旨です。

July 2, 2020
N Engl J Med 2020; 383:35-48
DOI: 10.1056/NEJMoa1916046

 

Triple Inhaled Therapy at Two Glucocorticoid Doses in Moderate-to-Very-Severe COPD

 

 

概要

背景

慢性閉塞性肺疾患(COPD)に対する吸入療法では、固定用量の吸入グルココルチコイドと長時間作用型ムスカリン拮抗薬(LAMA)と長時間作用型β2アゴニスト(LABA)の3剤合剤が研究されてきた。 しかし、吸入コルチコイドが2つの用量では研究されていない。

 

方法

52週間のランダム化第3相試験で、中等症から最重症のCOPD患者で過去1年以内に少なくとも1回の増悪を認めた患者に、2つの用量の吸入グルココルチコイドを含む3剤合剤治療の有効性と安全性を評価した。 1:1:1:1の比率で、1日2回の3剤合剤吸入療法(吸入グルココルチコイド [320μgまたは160μgのブデソニド]、LAMA [18μgのグリコピロレート]、およびLABA [9.6μgのホルモテロール])、または2つの2剤合剤治療のうちの1つ(18μgのグリコピロレート+9.6μgのホルモテロール、または320μgのブデソニド+9.6μgのホルモテロール)に患者を割付した。 主要評価項目は中等度または重度のCOPD増悪の年間発生率(一人の患者が起こす増悪の1年あたり推定平均回数)であり、治療中データのみを使用した修正ITT解析を行った。

 

結果

修正ITT集団は、8,509人の患者で構成された。中等度または重度の増悪の年間発生率は、320-μg-ブデソニドの3剤併用療法群(2,137人)で1.08、160-μg-ブデソニドの3剤併用療法群(2,121人)で1.07、グリコピロレート-ホルモテロール群(2,120人)で1.42、およびブデソニド-ホルモテロール群(2,131人)で1.24であった。グリコピロレート-ホルモテロール併用(24%低下:レート比0.76; 95%信頼区間[CI]、0.69〜0.83; P <0.001)またはブデソニド-ホルモテロール併用(13%低下:レート比、0.87; 95%CI、0.79から0.95; P = 0.003)と比較して、 320-μg-ブデソニド3剤併用療法では増悪発生率が有意に低かった。160-μg-ブデソニド3剤併用療法でも同様に、グリコピロレート–ホルモテロール併用(25%低下:レート比0.75; 95%CI、0.69〜0.83; P <0.001)またはブデソニド–ホルモテロール併用(14%低下:レート比、0.86; 95%CI、0.79から0.95; P = 0.002)より有意に増悪発生率が低かった。有害事象の発生率は治療群間で同様であった(範囲、61.7〜64.5%);確認された肺炎の発生率は、吸入グルココルチコイドを含む治療群で3.5〜4.5%の範囲であり、グリコピロレート-ホルモテロール群で2.3%であった。

 

結論

1日2回のブデソニド(160μgまたは320μgのいずれかの用量)、グリコピロレート、およびホルモテロールによる3剤併用療法では、グリコピロレート-ホルモテロールによる2剤併用またはブデソニド-ホルモテロールによる2剤併用療法よりも、中等度または重度のCOPD増悪の発生率が低かった。 (AstraZenecaが資金提供、ETHOS試験、 ClinicalTrials.gov番号、NCT02465567)

 

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

その息切れはCOPDです

インフルエンザ下気道感染による死亡はどれくらいあるのか?

肺のその他の病気の論文  / 院長による医学論文紹介

 

では、毎年冬になると流行る季節性インフルエンザウイルスの死亡率はどれぐらいなのでしょうか。

 

今回紹介する論文では、インフルエンザウイルスに罹患すると合併することの多い下気道感染(気管支炎、肺炎など)について、罹患率、入院率、死亡率を全世界の国と地域で調査しています。全世界のデータを集めるのに莫大な資金が必要だったと思われますが、マイクロソフト創業者ビル・ゲイツの慈善基金団体(Bill & Melinda Gates Foundation)が資金提供しています。

 

2017年における全世界のインフルエンザ下気道感染による死亡者数は14.5万人であり、人口10万人あたり1.9人でした。年齢別解析では70歳以上の高齢者で死亡率が高く、人口10万人あたり16.4人でした。国地域別解析では東ヨーロッパで死亡率が高く、人口10万人あたり5.2人でした。

 

日本のデータも示されており、インフルエンザ下気道感染による死亡者数は7,000人であり、人口10万人あたり5.1人でした。日本での死亡率は東ヨーロッパとほぼ同じであり、米国の1.1人、西ヨーロッパの2.1人と比べかなり高いことが分かります。おそらく日本では高齢化が進んでおり、高齢者のインフルエンザ感染および重症化が多いのではないかと思われます(私見)。

 

全世界のインフルエンザ下気道感染による死亡者数を年齢別にみると、0~4歳、80~89歳にピークがあります。本文でも述べられているように、死亡数の多いこの年齢層にインフルエンザをうつさないことが死亡者を減らすために重要と考えられます。毎年受けるインフルエンザワクチンは自分が罹患しないためもありますが、重症化しやすい乳幼児や高齢者にインフルエンザを伝染させないためでもあるのです。妊婦のまわりにいる家族が風疹ワクチンを打つのと同様の考え方です。

 

 

インフルエンザ下気道感染による死亡はどれくらいあるのか?世界疾病負荷研究(GBD 2017)の解析

The Lancet Respiratory Medicine

Lancet Respir Med. 2019 Jan; 7(1): 69–89.

doi: 10.1016/S2213-2600(18)30496-X

 

要旨

背景:

インフルエンザの疾病負荷は歴史的大流行と将来の大流行の脅威との関連でよく議論される。しかし、毎年、下気道感染およびその他の呼吸器疾患(慢性閉塞性肺疾患など)といった疾病負荷は季節性インフルエンザに起因している。世界疾病負荷研究(GBD)2017は、疾病および身体障害を総合し、関連する健康被害を定量化するための体系的で科学的な取り組みである。この論文では、インフルエンザに起因すると思われる下気道感染に焦点を当てる。

 

方法:

GBD 2017の一環として、1990年から2017年までのインフルエンザに起因する下気道感染の発生率、入院数、死亡率を国別、地域別、年齢別にモデル化した。下気道感染の発生率、入院数、死亡率を最初に推定し、そしてその一部をインフルエンザよるものとする仮説的なアプローチをとった。

 

所見:

2017年の全年齢の死亡のうち、145,000人(95%不確定範囲[UI] 99, 000~200,000)がインフルエンザによる下気道感染が死因と考えられた。インフルエンザによる下気道感染の死亡率は、70歳以上の成人で最も高かった(10万人あたり16.4人の死亡 [95%UI 11.6~21.9])、そしてすべての年齢層の中で最も高い死亡率は東ヨーロッパで見られた(人口10万人あたり5.2 [95%UI 3.5~7.2])。インフルエンザによる下気道感染は、9,459,000件(95%UI 3,709,000~22,935,000)の入院、および81,536,000日間の入院期間(24,330,000~259,851,000)の原因となったと推定された。下気道感染者の11.5%(95%UI 10.0~12.9)はインフルエンザに起因すると推定された。これは、54,481,000件(38,465,000~73,864,000)の下気道感染、8,172,000件(5,000,000~13,296,000)の重症下気道感染に相当する。

 

解釈:

インフルエンザ下気道感染の疾病負荷を包括的に今回評価したことにより、世界の健康に対し年間でインフルエンザが実質的にどの程度影響したかを示した。将来可能性のある世界的流行に備えて準備計画は重要になるが、季節性インフルエンザ下気道感染による健康損失は見逃されるべきではなく、ワクチン使用を考慮されるべきである。インフルエンザ予防対策を改善するための努力が必要である。

資金提供:ビル&メリンダ ゲイツ財団。

 

 

日本におけるインフルエンザ下気道感染による死亡率は高く、近隣の中国や韓国、北朝鮮よりかなり高いことがわかります。

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

その息切れはCOPDです

COPD に 対して3 剤同時吸入療法と 2 剤同時吸入療法では治療効果に差があるのか(IMPACT試験)

COPDの論文  / 院長による医学論文紹介

 

今回は、この5月から日本でも使用可能となるテリルジー®が承認される根拠となった論文を紹介します。COPDの患者さんは感冒などを契機に増悪し、喘鳴を主とした症状が悪化します。その際には抗菌薬やステロイド薬の投与が必要になり、ひどい場合には入院して治療します。テリルジー®はレルベア®、アノーロ®と比較して、そのようなCOPD増悪を予防する効果を認めました。症状があり(CAT score 10以上)、今までCOPD増悪を経験したことがあるようなCOPD患者さんにはテリルジー®の効果があると思われます。ただし、ICS(吸入ステロイド)が入っているので、肺炎には注意が必要です。

 

May 3, 2018
N Engl J Med 2018; 378:1671-1680
DOI: 10.1056/NEJMoa1713901

COPD に 対して3 剤同時吸入療法と 2 剤同時吸入療法では治療効果に差があるのか(IMPACT試験)

背景

慢性閉塞性肺疾患(COPD)に対する3 剤併用療法(吸入ステロイド〔ICS〕+長時間作用性抗コリン薬〔LAMA〕+長時間作用性β2 刺激薬〔LABA〕)が、 2 剤併用療法(ICS/LABAまたは LAMA/LABA)と比較して有効かどうかは不明である。

方法

10,355 名のCOPD 患者を対象として、1 日 1 回 52 週間のフルチカゾンフランカルボン酸エステル(ICS)100μg/ウメクリジニウム(LAMA)62.5μg/ビランテロール(LABA)25μg を併用する群(3 剤併用療法群)と、ICS(100μg)/LABA(25μg)を併用する群またはLAMA(62.5μg)/LABA(25μg)を併用する群と無作為化試験で比較した。いずれの治療でも,専用吸入器(エリプタ)により薬剤を投与した。主要評価項目は、治療期間中にCOPDが中等度または重度の増悪をきたす率とした。

結果

中等度または重度のCOPD増悪の発生率は,3 剤併用療法群で0.91/年であったのに対し,ICS/LABAでは 1.07/年 (3 剤併用療法群との率の比 0.85,95%信頼区間 [CI] 0.80~0.90,差は15%,P<0.001)、LAMA/LABA群では 1.21/年 (3 剤併用療法群との率の比 0.75,95% CI 0.70~0.81,差は25%,P<0.001)であった.入院するような重度のCOPD増悪の年間発生率は,3 剤併用療法群で0.13であったのに対し,LAMA/LABA群では0.19(率の比0.66,95% CI 0.56~0.78,差 34%,P<0.001)であった。ICSを用いた群ではLAMA/LABA群よりも肺炎の発生率が高かった。また、生存期間(time-to-first-event)解析によると、3 剤併用療法群の方がLAMA/LABA群よりも肺炎になるリスクは有意に上昇していた(ハザード比 1.53,95% CI 1.22~1.92,P<0.001)。

結論

今回の対象患者において、ICS/LABAまたはLAMA/LABAの 2 剤併用療法と比較して、ICS/LAMA/LABAの 3 剤併用療法は中等度または重度のCOPD増悪の発生率が低下していた。また、LAMA/LABA群よりも3 剤併用療法群ではCOPD による入院の発生率が低下していた。(GlaxoSmithKline 社の研究助成あり。IMPACT 試験:ClinicalTrials.gov 登録番号 NCT02164513)

 
文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

その息切れはCOPDです

コントロール不良喘息にはモメタゾン+インダカテロール(アテキュラ®)はモメタゾン(アズマネックス®)より有効、フルチカゾン+サルメテロール(アドエア®)とは同等の効果。(PALLADIUM試験: LANCET Resp Med誌より)

ぜん息関連  / 院長による医学論文紹介
  • 喘息の新しい吸入薬、アテキュラ®とエナジア®

 ノバルティス社よりアテキュラ®とエナジア®という新薬が発売されることが発表されました。いずれも喘息に対する吸入薬であり、アテキュラ®が2剤の合剤、エナジア®が3剤の合剤であり、1回吸入操作すれば2つもしくは3つの薬を同時に吸入できるという特徴があります。

 

  • 喘息吸入薬の主役、ICS+LABA

 喘息の長期管理に使用する吸入薬はその作用機序から3つに分類されます。吸入ステロイド(ICS)、長時間作用型吸入β2刺激薬(LABA)、長時間作用型抗コリン薬(LAMA)の3つであり、略語で呼ぶことが多いです。喘息の長期管理にはICSが欠かすことのできない薬剤であり、歴史もあるため様々な種類のICSが各社から発売されていますが、最近ではより治療効果の高いICS+LABAが喘息に対し使用されることが多くなっています。

 

  • アテキュラ®の治験=PALLADIUM試験

 喘息に使用できるICS+LABAとして、アドエア®、シムビコート®、フルティフォーム®、レルベア®の4種が日本で現在使用できます。それに、アテキュラ®が新たに加わることになります。

 新薬が承認販売されるまでに、その薬が有効かつ安全であることが論文で報告されていることが通常求められます。今回紹介する論文にはアテキュラ®が承認される元となった治験(PALLADIUM)のデータが報告されています。

 

  • ーーーここから専門的な記述になりますーーー

 

 PALLADIUM試験では、対標準1秒量(%FEV1)が50〜85%とやや低い患者を対象とし、トラフ一秒量が治療26週間でどれぐらい改善するかを主要評価項目としています。登録患者のベースラインの特徴をみると、前治療は、低用量ICS+LABAが69%が最も多く、中用量ICSが20%、中用量以上のICS+LABAは3%と少なめです。気管支拡張薬投与前の%FEV1は平均67.3% (SD 8.64%)と低く、FEV1の可逆性は22.8% (SD 13.09%)でした。登録前の直近1年間に喘息増悪を1回のみ起こした患者は24%、2回以上は7%でした。

 

 このようなコントロール不良の喘息患者を、治験薬開始2週間前から低用量ICSのみの治療(フルタイド®200μg/日程度)に切り替えて、さらに状態を悪くしてから治験薬を開始しています。

 その結果、すべての治療群でトラフ一秒量の改善が見られましたが、ICS単剤よりICS+LABAの方がさらに改善していました。アテキュラ®とアドエア®については治療効果に差はなく、非劣性が証明されました。

 

 アズマネックス®ツイストヘラーで使用されるモメタゾンの用量と、アテキュラ®ブリーズヘラーのモメタゾンの用量には違いがあります。この第3相試験の前に、用量を確認する試験が行われており、モメタゾンの血中濃度はツイストヘラーとブリーズヘラーで異なることが学会発表レベルで報告されています(Eur Respir J. 2012; 40P2145)。さらに、ブリーズヘラーによるモメタゾンの治療効果は、ツイストヘラーによるモメタゾンの効果と、用量が異なっていても同様なようです。(Eur Respir J. 2014; 44P915)

 

  • ーーーこれからは私見です。ーーー

 

 アテキュラ®は、喘息に使えるICS+LABAの選択肢の一つに加わったと考えてよいでしょう。吸入薬は内服薬と違って、吸入デバイスが各社でバラバラです。患者さんがどのデバイスが使いやすいか選べるようになるので、吸入薬の選択肢が増えることは悪くはありません。

 アテキュラ®が採用するブリーズヘラーは、1日1回カプセルを容器に充填するという面倒くささはありますが、しっかり最後まで薬を吸入できたかその都度確認できるという利点もあります。毎日カプセルを充填するという作業をいとわない患者さんであれば、確実に吸入してもらえるという点で安心感はあります。

 逆に言うと、1日の吸入回数やデバイスの違い以外に、ICS+LABAの各吸入薬に大きな違いはありません。薬剤の作用もほぼ変わりないので、5種類あるICS+LABAのうちどれかを治療効果で選ぶことはできません。患者さんが毎日しっかり吸ってくれる薬が、最も有効な薬だと言えるでしょう。

 ノバルティス社としてはアテキュラ®よりも次回紹介するエナジア®に注力したいのではないでしょうか。エナジア®は喘息に使用できる初めてのトリプル吸入(ICS+LABA+LAMA)となるからです。

 

  • ーーー以下に翻訳した論文要旨を載せます。ーーー

Once-daily mometasone plus indacaterol versus mometasone or twice-daily fluticasone plus salmeterol in patients with inadequately controlled asthma (PALLADIUM): a randomised, double-blind, triple-dummy, controlled phase 3 study

コントロール不良喘息の患者を対象とした、1日1回吸入のモメタゾン-インダカテロール療法とモメタゾン療法、または1日2回吸入のフルチカゾン-サルメテロール療法の比較:無作為化二重盲検トリプルダミー第3相試験(PALLADIUM試験)

The Lancet Respiratory Medicine

Published:July 09, 2020

DOI:https://doi.org/10.1016/S2213-2600(20)30178-8

 

概要

背景

吸入コルチコステロイド(ICS)と長時間作用型β2-アドレナリン受容体アゴニスト(LABA)の固定用量併用(FDC)は、喘息管理において安全で有効と考えられている。 使用可能なほとんどのFDCは、最適な治療効果を達成するために1日2回の投与を必要とする。 PALLADIUM試験の目的は、コントロール不良の喘息患者における、フランカルボン酸モメタゾンと酢酸インダカテロール併用療法(MF-IND)と、フランカルボン酸モメタゾン単剤療法(MF)の1日1回FDCの有効性と安全性を評価することであった。

 

方法

52週間、二重盲検、トリプルダミー、並行群の今回の第3相試験では、24か国の316施設から患者を募集した。 12〜75歳で、1年間以上の喘息診断が文書でなされており、%FEV1が50〜85%であり、中用量または高用量のICS療法または低用量ICS+LABA療法にもかかわらず喘息管理質問票7(ACQ7)のスコアが1.5以上の患者が含まれた。 喘息増悪の既往は、試験の要件ではなかった。 参加者は対話型応答技術を介して、52週間の次のいずれかの治療群にランダムに割り当てられた(1:1:1:1:1)。高用量MF–IND(320μg、150μg)または中用量MF–IND (160μg、150μg)をBreezhalerで1日1回吸入; Twisthalerによる高用量MF(800μg[400μgを1日2回])または中用量MF(1日1回400μg)、または高用量フルチカゾンプロピオン酸-サルメテロールキシナホエート(FLU-SAL; 500μg、50μg)をDiskusで1日2回吸入。参加者は、適切となるようにBreezhalerまたはTwisthaler、Diskusでプラセボを朝と夕に吸入をした。 主要評価項目は、治療前から治療26週後にかけて、対応するそれぞれの用量のMFと比較して、高用量および中用量のMF-INDのトラフFEV1がどの程度改善するかであり、反復測定混合モデルを使用して完全解析セット(FAS)で解析した。副次評価項目の1つとして、反復測定の混合モデルを使用して、1日1回の高用量MF-INDによる26週目のトラフFEV1の改善量が、1日2回の高用量FLU-SALと非劣性かどうかを-90 mLのマージンで比較した。 少なくとも1回の治験薬を投与されたすべての患者で安全性が評価された。 この試験はClinicalTrials.gov、NCT02554786に登録され、完了している。

 

結果

2015年12月29日から2018年5月4日までの間に、2,216人の患者がランダムに割り当てられ(高用量MF-IND、n = 445;中用量MF-IND、n = 439;高用量MF、n = 442;中用量MF、n = 444;高用量FLU-SAL、n = 446)、そのうち1,973人(89.0%)は試験治療を完了し、234人(10.6%)は試験治療を早期中止した。 高用量MF–IND(治療差[Δ] 132 mL [95%CI 88〜176]; p <0.001)および中用量MF–IND(Δ211 mL [167〜255]; p <0.001)は、治療前からの治療26週後のトラフFEV1の改善量が、対応するMF用量よりも優れていることを示した。治療前からの治療26週後のトラフFEV1の改善量において、高用量MF-INDは高用量FLU-SALと比較し非劣性であった(Δ36 mL [− 7〜80];p= 0.101)。 全体として、有害事象の発生率はすべての治療群で同様であった。

 

解釈

ICSとLABAの1日1回FDC(MF-IND)は、ICS単剤療法(MF)よりも26週後の肺機能を有意に改善した。 高用量MF-INDは、トラフFEV1の改善に関して、ICSとLABA併用1日2回(高用量FLU-SAL)より劣ってはいなかった。 MF–IND併用療法は、喘息コントロールのため1日1回ドライパウダーによる新しい治療選択肢となる。

資金提供

ノバルティス

 

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

その息切れはCOPDです

肺気腫と肺腫瘍の違い

COPDの論文  / がん関連  / 院長による医学論文紹介

 「あなたの病気は肺気腫です。タバコが原因です。」と説明すると、自分は肺に出来物(腫瘍、がん)ができたと思ってしまう患者さんが少なからずいます。

 

肺気腫の肺腫瘍の違い

気腫と腫瘍にはどちらも“腫”というガンをイメージする文字が入っているからだと思います。“腫”とは元来「はれる」、「むくむ」、「できもの」を意味する漢字です。腫瘍に“腫”が使用されるのはよくわかるのですが、気腫に“腫”が使われるのはなぜでしょうか。

 

ここからは想像になるのですが、最初の「気腫」は今で言うところの「皮下気腫」を示していたのではないかと思います。何らかの原因で肺から皮膚の直下(皮下)に空気が漏れると、首や顔の皮膚の下に空気が貯留します。その状態を皮下気腫と呼び、ひどいと顔や首がパンパンに腫れあがってしまうため、「はれる」「むくむ」を意味する“腫”にピッタリの状態です。

 

肺気腫の患者さんのレントゲン写真をみると、肺に空気が異常に貯留しています(=過膨張と呼びます)。そのような肺を見た人が、気腫という言葉を思いついたのではないでしょうか。

 

COPD?肺気腫?慢性気管支炎?

患者さんに病気を説明するとき、「COPD」という用語をつかうべきか、「肺気腫」をつかうべきか、それとも「慢性気管支炎」をつかうべきかでよく悩みます。現実的にはすべての用語を使って説明してみて、患者さんの顔をみて、理解してくれていそうな用語を選択します。

 
文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

その息切れはCOPDです