がん関連

ガンとガン以外の末期患者さんで緩和ケアの提供に違いはあるのか(JAMA誌よりカナダの報告)

がん関連  / 院長の最新論文紹介

 

この目的からすると、末期であればどんな病気の患者さんであっても緩和ケアの対象であるはずです。しかし、がんとがん以外の末期患者さんに対する緩和ケアを比較した研究では、緩和ケアへのアクセスに格差があり、緩和ケアによるメリットの大きさにも差があることが報告されています。

 

今回紹介する論文は、カナダのオンタリオ州で行われた研究であり、がん以外の末期疾患(慢性臓器不全や認知症など)で死亡した患者さんの最期の1年間において、がんで死亡した患者さんと比較して、緩和ケアがどのように提供されていたかを複数の視点で調査しています。

 

約14万人の末期患者さんを対象としたこのコホート研究では、がん患者と比べて、がん以外の患者では、緩和ケアの提供に大きな違いがあることがわかりました。がん患者の方が早期に緩和ケアが開始されており、専門家が自宅を含めて複数の場所で提供することが多く、専門研修を受けた総合医や内科医から緩和ケアを受けることが多かったのです。

 

緩和ケアはがん患者さんに対して始まり、がんにおいては長い歴史があります。今回の結果は、がんセンターなどでは緩和ケアプログラムが確立されていることと関連していると著者らは述べています。

がん以外の末期患者さんも呼吸困難、痛みなど、がん患者さんと同様の身体的および精神的症状があります。今後はがん以外の緩和ケアも注目されていくのではないでしょうか。

 

Comparison of Palliative Care Delivery in the Last Year of Life Between Adults With Terminal Noncancer Illness or Cancer

癌ではない末期患者と癌患者の人生最後の1年における緩和ケア提供の比較

March 4, 2021

JAMA Netw Open. 2021;4(3):e210677. 

doi:10.1001/jamanetworkopen.2021.0677

 

キーポイント

質問 

がん以外の病気(慢性臓器不全や認知症など)の患者に対する緩和ケアはどのように行われているのか?また、がんの患者とは異なる方法で行われているのか?

結果 

このコホート研究では、がんまたはがん以外の末期疾患で死亡し、最期の1年間に緩和ケアを受けた成人145,709人のうち、がん患者は臓器不全や認知症患者に比べて、緩和ケアが早期に開始され、病院内で開始され、複数のケア環境で提供される傾向があった。

慢性臓器不全や認知症の患者さんと比較して、がん患者は一般医モデルではなく、相談医モデルや専門医モデルでケアを受ける傾向があり、サブスペシャリティのトレーニングを受けた総合医や内科医から緩和ケアを受けることが多かった。

意味 

重大な病気の種類によって緩和ケアの提供方法が異なることは、ケア提供者の教育・訓練の強化や、すべての環境でケアへの公平なアクセスの改善など、緩和ケアプログラムの組織化や規模の拡大に重要な意味を持つ。

 

概要

重要性 

緩和ケアは健康アウトカムを改善するが、異なる種類の重篤な疾患を持つ患者への緩和ケアの提供の違いに関する研究は不足している。

目的 

がんで死亡した場合と比較して、がん以外の末期疾患で死亡した人の最期の年に緩和ケアが提供されているかどうかを調査する。

研究のデザイン,設定,参加者 

今回、カナダのオンタリオ州における人口ベースのコホート研究を行った。最期の年に緩和ケアを受け,2010年1月1日から2017年12月31日の間に死亡した成人についての医療行政データを用いた。

曝露 (介入)

死因(慢性臓器不全または認知症、がん)

主な結果と測定

 緩和ケア提供の構成要素(開始した時期と場所、ケアモデル、医師構成、ケア設定、死亡場所などを含む)

結果 

緩和ケアを受けた成人145,709人(年齢中央値78歳、四分位範囲67~86歳、女性50.7%)のうち、21,054人が慢性臓器不全(心不全4,704人、慢性閉塞性肺疾患5,715人、末期腎不全3,785人、肝硬変579人、脳卒中6,271人)、14,033人が認知症、110,622人ががんで死亡した。緩和ケアが開始された時期は、がん患者(32,010人[28.9%])の方が、臓器不全患者(3,349人[15.9%]、絶対差13.0%)や認知症患者(2,148人[15.3%]、絶対差13.6%)よりも、早かった。慢性臓器不全患者(6,904人[32.8%]、絶対差-18.3%)や認知症患者(3,922人[27.9%]、絶対差-13.4%)と比較して、がん患者では自宅で緩和ケアを開始した割合が低かった(16,088人[14.5%])。

がん患者 (92,107人 [83.3%]) は、慢性臓器不全患者(12,061人[57.3%]、絶対差は26.0%)や認知症患者(7,553人[53.8%]、絶対差は29.5%)と比較して、複数のケアの場所で緩和ケアを受ける頻度が高かった。慢性臓器不全患者(9,114人[43.3%]、絶対差29.6%)や認知症患者(5,634人[40.1%]、絶対差32.8%)と比較して、がん患者(80,615人[72.9%])では、一般医ではなく相談医や専門医のモデルを用いて緩和ケアが行われることが多かった。がん患者(42,718人[38.6%])は、慢性臓器不全患者(3,599人[17.1%]、絶対差21.5%)や認知症患者(1,989人[14.2%]、絶対差24.4%)と比較して、サブスペシャリティのトレーニングを受けた総合医や内科医から、共通の緩和ケアを受けている頻度が高かった。

結論と妥当性

今回のコホート研究では、異なる種類の重篤な疾患において患者と緩和ケア提供者のレベルによって緩和ケアの提供に大きな違いが見られた。このような患者レベルと提供者レベルの違いは、提供者の教育・訓練の強化や、あらゆる環境でのケアへの公平なアクセスの改善など、緩和ケアプログラムの組織化や大規模な実施に重要な意味を持っている。

 

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

偶発的に見つかった肺結節の診断をするために、検査を徹底的にしてもしなくても、その結果は同じなのか?(JAMA誌からの報告)

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肺がん検診や、人間ドックのCT検査などで、肺に結節(丸い影)が見つかることがあります。ご自分の肺に結節が見つかって要精査という結果が返ってきた人は、とうとう肺がんになってしまったと不安になることでしょう。その結果をもって、病院に行き多種多様な検査を受けたくなります。

「そんなに検査は受けなくてもいいんですよ」と医師に説明されたとしても、検査を多数してもらえる他の病院を探したくなる方もいるかもしれません。

でも、多数の検査を受けても、必要最小限の検査を受けても、結果は変わらないとしたら、どうでしょうか。検査を受ければ受けるほど、費用はかかるし、放射線被ばく量は増えるし、検査にともなう合併症も増えます。安心料だったとして割り切ることはできるでしょうか。

今回紹介する論文は、後ろ向き研究であり、結論を出すほどエビデンスレベルが高くない研究です。しかしながら、前向きの無作為化比較研究の実施が困難な領域であり(検査をする群と検査をしない群で、肺がん進行度に違いがでるかという研究は患者さんの同意が得られにくい)、これ以上のエビデンスを出すのは困難だと思います。

今回の研究では、肺結節が見つかって、徹底的に検査してもしなくても、2年後に判明していた肺癌の病期(ステージ)に有意差がなかったという結果を示しました。

徹底的に検査すれば肺癌を早く見つけることができるかもしれませんが、検査しなくても2年以内に同じような肺癌をみつけることができるということです。

肺結節を持つ人すべてに徹底的な検査をすることはお勧めできません。しかし、どのような肺結節(結節の性状)であれば、手術を含めて徹底的に検査をするのか、経過観察でよいのか、経過観察も要らないのか、昔から悩ましい問題であり今後の課題です(もしかすると永遠の課題かもしれません)。

Original Investigation

Association of the Intensity of Diagnostic Evaluation With Outcomes in Incidentally Detected Lung Nodules
偶発的に見つかった肺結節では、診断的検査の徹底度と転帰は関連するのか

JAMA Intern Med. Published online January 19, 2021. 

doi:10.1001/jamainternmed.2020.8250

 

 

 

キーポイント
質問
偶発的に見つかった肺結節の診断的検査の徹底度は、患者の転帰と医療費に関連しているか?

調査結果
この比較有効性調査研究では偶発的に肺結節が検出された5,057人を対象として、検査の徹底度と肺がん病期分布が関連するという決定的な証拠はなかった。 ガイドラインに準拠した評価法と比較して、徹底度の低い評価法は放射線被曝が少なく、検査関連の有害事象が少なく、医療費が少なかった。一方、徹底度の高い検査は放射線被曝が多く、検査関連の有害事象が多く、医療費が多かった。

意義
この研究結果は、現在のガイドラインの推奨事項を裏付けるエビデンスのレベルを上げる必要性、肺結節に対する不必要に高い強度の診断検査を減らす必要性を強調する。

概要
重要性
肺結節に対する、ガイドライン準拠の検査方法がより良い結果につながるかどうかは不明である。

目的
肺結節の診断検査の徹底度と結果、安全性、および医療費との関連を調べること。

デザインと設定、参加者
この比較有効性調査研究では、ワシントン州シアトルのカイザーパーマネンテワシントンとウィスコンシン州マーシュフィールドのマーシュフィールドクリニックにおいて、2005年1月1日から2015年12月31日までの間に偶発的に肺結節が検出された健康保険加入者を解析した。 35歳以上、感染症の疑いが高くなく、悪性新生物の病歴がなく、結節が見つかった時点で進行期肺癌の所見がない患者が含まれた。 データ解析は2020年1月7日から8月19日まで実施された。

曝露(介入)
2005年フライシュナー協会ガイドライン(調査期間中に適用性があるために選択された)を比較対照として、他の2つの徹底度の肺結節評価法が定義された。 ガイドラインに準拠した評価はガイドラインに従った。 それほど徹底度の高くない評価法は、推奨される検査がないこと、推奨されるよりも長い監視間隔、または推奨されるよりも侵襲性の低い検査であった。 より徹底度の高い評価法は、ガイドラインがそれ以上の検査を推奨しない場合の検査、推奨よりも短いサーベイランス間隔、または推奨よりも侵襲的な検査で構成された。

主な結果と対策
主な結果は、肺結節の検出から2年後に、ステージIIIまたはIVの肺癌患者の割合、放射線被曝、手技関連の有害事象、および医療費であった。

結果
この比較有効性調査研究に含まれる5,057人のうち、1,925人(38%)はガイドラインに準拠した評価法、1,863人(37%)は低徹底度の評価法、1,269人(25%)はより徹底度の高い評価法を受けた。 コホート全体では、2,786人が女性(55%)、平均年齢(SD)は67(13)歳であった。調整された解析では、ガイドラインに準拠した評価法と比較して、低徹底度の評価法は手技関連有害事象が少なく(リスク差[RD]、−5.9%; 95%CI、−7.2%〜−4.6%)、平均放射線被爆量が少なく(−9.5ミリシーベルト[mSv]; 95%CI、−10.3mSvから−8.7mSv)、平均医療費が少なく(−$ 10,916; 95%CI、−$ 16,112〜−$ 5,719); 肺がんと診断された患者の中でステージIIIまたはIVであった割合に差は見られなかった(RD、4.6%; 95%CI、-22%から+ 31%)。より徹底度の高い評価法は、手技関連の有害事象が多く(RD、+ 8.1%; 95%CI、+ 5.6%〜+ 11%)、平均放射線被曝量が多く(+ 6.8 mSv; 95%CI、+ 5.8mSv〜+ 7.8 mSv)、平均医療費が多く($ 20,132; 95%CI、+ $ 14,398〜+ $ 25,868); III期またはIV期の割合に差は認めなかった(RD、−0.5%; 95%CI、−28%〜+27%)。

結論と関連性
本研究では、ガイドラインに準拠した診療と比較して、徹底度の低い評価法が進行期の肺癌診断が多いという決定的な証拠は見つからなかった。 より徹底的な評価法は、手技の合併症、放射線被曝、および医療費の多さと関連していた。 これらの知見により、肺結節評価法をさらに改善するために、そして不必要に徹底的な診断評価法を回避するために、さらに多くの科学的根拠が必要であることが強調される。

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)