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コントロール不良喘息にはモメタゾン+インダカテロール(アテキュラ®)はモメタゾン(アズマネックス®)より有効、フルチカゾン+サルメテロール(アドエア®)とは同等の効果。(PALLADIUM試験: LANCET Resp Med誌より)

[2020.07.12]
  • 喘息の新しい吸入薬、アテキュラ®とエナジア®

 ノバルティス社よりアテキュラ®とエナジア®という新薬が発売されることが発表されました。いずれも喘息に対する吸入薬であり、アテキュラ®が2剤の合剤、エナジア®が3剤の合剤であり、1回吸入操作すれば2つもしくは3つの薬を同時に吸入できるという特徴があります。

 

  • 喘息吸入薬の主役、ICS+LABA

 喘息の長期管理に使用する吸入薬はその作用機序から3つに分類されます。吸入ステロイド(ICS)、長時間作用型吸入β2刺激薬(LABA)、長時間作用型抗コリン薬(LAMA)の3つであり、略語で呼ぶことが多いです。喘息の長期管理にはICSが欠かすことのできない薬剤であり、歴史もあるため様々な種類のICSが各社から発売されていますが、最近ではより治療効果の高いICS+LABAが喘息に対し使用されることが多くなっています。

 

  • アテキュラ®の治験=PALLADIUM試験

 喘息に使用できるICS+LABAとして、アドエア®、シムビコート®、フルティフォーム®、レルベア®の4種が日本で現在使用できます。それに、アテキュラ®が新たに加わることになります。

 新薬が承認販売されるまでに、その薬が有効かつ安全であることが論文で報告されていることが通常求められます。今回紹介する論文にはアテキュラ®が承認される元となった治験(PALLADIUM)のデータが報告されています。

 

  • ーーーここから専門的な記述になりますーーー

 

 PALLADIUM試験では、対標準1秒量(%FEV1)が50〜85%とやや低い患者を対象とし、トラフ一秒量が治療26週間でどれぐらい改善するかを主要評価項目としています。登録患者のベースラインの特徴をみると、前治療は、低用量ICS+LABAが69%が最も多く、中用量ICSが20%、中用量以上のICS+LABAは3%と少なめです。気管支拡張薬投与前の%FEV1は平均67.3% (SD 8.64%)と低く、FEV1の可逆性は22.8% (SD 13.09%)でした。登録前の直近1年間に喘息増悪を1回のみ起こした患者は24%、2回以上は7%でした。

 

 このようなコントロール不良の喘息患者を、治験薬開始2週間前から低用量ICSのみの治療(フルタイド®200μg/日程度)に切り替えて、さらに状態を悪くしてから治験薬を開始しています。

 その結果、すべての治療群でトラフ一秒量の改善が見られましたが、ICS単剤よりICS+LABAの方がさらに改善していました。アテキュラ®とアドエア®については治療効果に差はなく、非劣性が証明されました。

 

 アズマネックス®ツイストヘラーで使用されるモメタゾンの用量と、アテキュラ®ブリーズヘラーのモメタゾンの用量には違いがあります。この第3相試験の前に、用量を確認する試験が行われており、モメタゾンの血中濃度はツイストヘラーとブリーズヘラーで異なることが学会発表レベルで報告されています(Eur Respir J. 2012; 40P2145)。さらに、ブリーズヘラーによるモメタゾンの治療効果は、ツイストヘラーによるモメタゾンの効果と、用量が異なっていても同様なようです。(Eur Respir J. 2014; 44P915)

 

  • ーーーこれからは私見です。ーーー

 

 アテキュラ®は、喘息に使えるICS+LABAの選択肢の一つに加わったと考えてよいでしょう。吸入薬は内服薬と違って、吸入デバイスが各社でバラバラです。患者さんがどのデバイスが使いやすいか選べるようになるので、吸入薬の選択肢が増えることは悪くはありません。

 アテキュラ®が採用するブリーズヘラーは、1日1回カプセルを容器に充填するという面倒くささはありますが、しっかり最後まで薬を吸入できたかその都度確認できるという利点もあります。毎日カプセルを充填するという作業をいとわない患者さんであれば、確実に吸入してもらえるという点で安心感はあります。

 逆に言うと、1日の吸入回数やデバイスの違い以外に、ICS+LABAの各吸入薬に大きな違いはありません。薬剤の作用もほぼ変わりないので、5種類あるICS+LABAのうちどれかを治療効果で選ぶことはできません。患者さんが毎日しっかり吸ってくれる薬が、最も有効な薬だと言えるでしょう。

 ノバルティス社としてはアテキュラ®よりも次回紹介するエナジア®に注力したいのではないでしょうか。エナジア®は喘息に使用できる初めてのトリプル吸入(ICS+LABA+LAMA)となるからです。

 

  • ーーー以下に翻訳した論文要旨を載せます。ーーー

Once-daily mometasone plus indacaterol versus mometasone or twice-daily fluticasone plus salmeterol in patients with inadequately controlled asthma (PALLADIUM): a randomised, double-blind, triple-dummy, controlled phase 3 study

コントロール不良喘息の患者を対象とした、1日1回吸入のモメタゾン-インダカテロール療法とモメタゾン療法、または1日2回吸入のフルチカゾン-サルメテロール療法の比較:無作為化二重盲検トリプルダミー第3相試験(PALLADIUM試験)

Published:July 09, 2020

DOI:https://doi.org/10.1016/S2213-2600(20)30178-8

 

概要

背景

吸入コルチコステロイド(ICS)と長時間作用型β2-アドレナリン受容体アゴニスト(LABA)の固定用量併用(FDC)は、喘息管理において安全で有効と考えられている。 使用可能なほとんどのFDCは、最適な治療効果を達成するために1日2回の投与を必要とする。 PALLADIUM試験の目的は、コントロール不良の喘息患者における、フランカルボン酸モメタゾンと酢酸インダカテロール併用療法(MF-IND)と、フランカルボン酸モメタゾン単剤療法(MF)の1日1回FDCの有効性と安全性を評価することであった。

 

方法

52週間、二重盲検、トリプルダミー、並行群の今回の第3相試験では、24か国の316施設から患者を募集した。 12〜75歳で、1年間以上の喘息診断が文書でなされており、%FEV1が50〜85%であり、中用量または高用量のICS療法または低用量ICS+LABA療法にもかかわらず喘息管理質問票7(ACQ7)のスコアが1.5以上の患者が含まれた。 喘息増悪の既往は、試験の要件ではなかった。 参加者は対話型応答技術を介して、52週間の次のいずれかの治療群にランダムに割り当てられた(1:1:1:1:1)。高用量MF–IND(320μg、150μg)または中用量MF–IND (160μg、150μg)をBreezhalerで1日1回吸入; Twisthalerによる高用量MF(800μg[400μgを1日2回])または中用量MF(1日1回400μg)、または高用量フルチカゾンプロピオン酸-サルメテロールキシナホエート(FLU-SAL; 500μg、50μg)をDiskusで1日2回吸入。参加者は、適切となるようにBreezhalerまたはTwisthaler、Diskusでプラセボを朝と夕に吸入をした。 主要評価項目は、治療前から治療26週後にかけて、対応するそれぞれの用量のMFと比較して、高用量および中用量のMF-INDのトラフFEV1がどの程度改善するかであり、反復測定混合モデルを使用して完全解析セット(FAS)で解析した。副次評価項目の1つとして、反復測定の混合モデルを使用して、1日1回の高用量MF-INDによる26週目のトラフFEV1の改善量が、1日2回の高用量FLU-SALと非劣性かどうかを-90 mLのマージンで比較した。 少なくとも1回の治験薬を投与されたすべての患者で安全性が評価された。 この試験はClinicalTrials.gov、NCT02554786に登録され、完了している。

 

結果

2015年12月29日から2018年5月4日までの間に、2,216人の患者がランダムに割り当てられ(高用量MF-IND、n = 445;中用量MF-IND、n = 439;高用量MF、n = 442;中用量MF、n = 444;高用量FLU-SAL、n = 446)、そのうち1,973人(89.0%)は試験治療を完了し、234人(10.6%)は試験治療を早期中止した。 高用量MF–IND(治療差[Δ] 132 mL [95%CI 88〜176]; p <0.001)および中用量MF–IND(Δ211 mL [167〜255]; p <0.001)は、治療前からの治療26週後のトラフFEV1の改善量が、対応するMF用量よりも優れていることを示した。治療前からの治療26週後のトラフFEV1の改善量において、高用量MF-INDは高用量FLU-SALと比較し非劣性であった(Δ36 mL [− 7〜80];p= 0.101)。 全体として、有害事象の発生率はすべての治療群で同様であった。

 

解釈

ICSとLABAの1日1回FDC(MF-IND)は、ICS単剤療法(MF)よりも26週後の肺機能を有意に改善した。 高用量MF-INDは、トラフFEV1の改善に関して、ICSとLABA併用1日2回(高用量FLU-SAL)より劣ってはいなかった。 MF–IND併用療法は、喘息コントロールのため1日1回ドライパウダーによる新しい治療選択肢となる。

資金提供

ノバルティス

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

ぜんそくについて言及している拙著「その息切れはCOPDです ―危ない「肺の隠れ慢性疾患」を治す!」はこちらから

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