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中等症以上のCOPDには3剤合剤(トリプル)吸入療法が増悪予防に有効(ETHOS試験とIMPACT試験の比較)

[2020.07.05]
  • COPDとは

 COPD(慢性閉塞性肺疾患)は主にタバコ煙を原因として引き起こされる気管支の病気です。COPDでは、気管支が慢性的に炎症を起こした結果、セキやタンが常にでて、気管支の狭窄により息を上手く吐き出せなくなり、息切れを自覚するようになります。

 

 COPDは慢性疾患であるため、根治させるような根本的な治療薬はありません。症状を抑えてQOLを向上させること、増悪の頻度を抑えて病状の進行を抑えること、死亡率を下げることを主眼にして、治療薬が開発されています。

 

  • COPD治療の主役は吸入薬:LAMA、LABA、ICS

 現在、主に使用されるCOPDの治療薬は3種類の吸入薬です。作用機序がそれぞれ異なり、LAMA(吸入抗コリン薬)、LABA(吸入β2刺激薬)、ICS(吸入ステロイド)と略語で呼ばれます。3つそれぞれ別に吸入するのは患者さんにとって負担であり、ただでさえ吸入薬はアドヘアランス(服薬遵守率)が低い薬のため、2つ以上の薬を一つにまとめた薬が各種販売されています。

 

  • COPDのトリプル吸入薬:テリルジー®とビレーズトリ®

 COPDに対しては、LAMA単剤、LABA単剤、LAMAとLABAの合剤、ICSとLABAの合剤が使われてきましたが、最近になってLAMAとLABAとICSの3剤合剤が承認され、日本でも使用できるようになりました。グラクソ・スミスクライン社のテリルジー®と、アストラゼネカ社のビレーズトリ®の2つが現在使用できる3剤合剤(トリプル吸入薬)です。新薬の製造販売が承認されるためには、大規模な臨床試験が製薬会社に課されますが、テリルジー®を使用したのがIMPACT試験、ビレーズトリ®を使用したのがETHOS試験です。

 

 

  • ーーー以下は専門的記述になります。ーーー

IMPACT試験については、2019/5/12の本ブログにて紹介しました。

COPD に 対して3 剤同時吸入療法と 2 剤同時吸入療法では治療効果に差があるのか(IMPACT試験)

今回紹介するETHOS試験はJuly 2, 2020のNEJM誌に発表されたものです。

 

下記の表で比較したように、IMPACT試験とETHOS試験は、細かな違いはあるものの、極めて類似した試験です。増悪(発作)を直近1年以内におこしたことがあるような中等症以上のCOPDに対して、2剤の吸入薬より3剤の吸入薬の方が中等度以上のの増悪を予防し、死亡率も低くなるものの、肺炎の発生が多くなるという結論もほぼ同様です。

 

ただ、IMPACTと異なり、ETHOSではICS+LABA+LAMAの3剤合剤の治療群を、ICS(ブデソニド)の投与量によって2つに分類されました。1日のブデソニド投与量が320μgと160μgの2群で比較されていますが、この2群では結果はほぼ変わりません。ただし、320μg群の死亡率が1.3%と、160μg群の死亡率1.8%よりわずかに良好でした。ちなみに、日本で使用されるビレーズトリ®のブデソニドは1日あたり320μgです。

その他、ETHOS試験の方が、気道可逆性を示す患者が10%ほど多く、ICSを登録前に使用していた患者も10%ほど多くなっています。

試験名 IMPACT ETHOS
デザイン 2重盲検 3群比較 2重盲検 4群比較
参加患者数 テリルジー (ICS100+LABA+LAMA) 4,151例
アノーロ (LABA+LAMA) 2,070例
レルベア (ICS100+LABA) 4,134例

ビレーズトリ (ICS320+LABA+LAMA) 2,137例
ICS160+LABA+LAMA 2,121例
ビベスピ (LABA+LAMA) 2,120例
シムビコート (ICS160+LABA) 2,131例

適格患者像 CATスコア>10
 %FEV1<50%の場合、直近1年以内の中等〜重度増悪が1回以上
 50%<%FEV1<80%の場合、直近1年以内の中等度増悪2回以上or重度増悪1回以上
現在の喘息患者は除外
CATスコア>10かつ、25%<%FEV1<65%
  %FEV1<50%の場合、直近1年以内の中等〜重度増悪が1回以上
  50%<%FEV1の場合、直近1年以内の中等度増悪2回以上or重度増悪1回以上
現在の喘息患者は除外
前治療 制限なし 2剤以上の吸入維持療法
試験治療 1日1回1回1吸入 52週間 1日2回1回2吸入 52週間
主要評価項目 中等度または重度の増悪発生率 中等度または重度の増悪発生率
患者背景(各群) 直近1年以内に中等度または重度増悪を起こした患者割合
 1回のみ 45-46%
 2回以上 54-55%
気管支拡張剤吸入後の%FEV1
 45.4±14.7%〜45.7±15.0%
気道可逆性のある患者割合
 18%〜20%
ICSを使用している患者割合
 67%
平均CATスコア
 20.1±6.1〜20.2±6.2
末梢血好酸球数が150/ul以上の患者割合
 57%
直近1年以内に中等度または重度増悪を起こした患者割合
 1回のみ 43-44%
 2回以上 56-57%
気管支拡張剤吸入後の%FEV1
 43.1±10.4%〜43.6±10.3%
気道可逆性のある患者割合
 29.8%〜31.6%
ICSを使用している患者割合
 79.8%〜81.5%
平均CATスコア
 19.5±6.6〜19.7±6.5
末梢血好酸球数が150/ul以上の患者割合
 59.3%~60.7%
中等度または重度増悪発生率 テリルジー 0.91/年
アノーロ 1.21/年
レルベア 1.07/年
ビレーズトリ (ICS320) 1.08/年
ICS160+LABA+LAMA 1.07/年
ビベスピ 1.42/年
シムビコート 1.24/年
重度増悪発生率 テリルジー 0.13/年
アノーロ 0,19/年
レルベア 0.15/年
ビレーズトリ (ICS320) 0.13/年
ICS160+LABA+LAMA 0.14/年
ビベスピ 0.15/年
シムビコート 0.16/年
52週以内死亡数(率) テリルジー 50人 (1%)
アノーロ 39人 (2%)
レルベア 49人 (1%)
ビレーズトリ (ICS320) 28人(1.3%)
ICS160+LABA+LAMA 39人 (1.8%)
ビベスピ 49人 (2.3%)
シムビコート 34人 (1.6%)
重篤な有害事象発生数(率) テリルジー 895人 (22%)
アノーロ 470人 (23%)
レルベア 850人 (21%)
ビレーズトリ (ICS320) 426人 (19.9%)
ICS160+LABA+LAMA 445人 (21.0%)
ビベスピ 433人 (20.4%)
シムビコート 440人 (20.6%)
肺炎発生数(率) テリルジー 317人 (8%)
アノーロ 97人 (5%)
レルベア 292人 (7%)
ビレーズトリ (ICS320) 90人 (4.2%)
ICS160+LABA+LAMA 75人 (3.5%)
ビベスピ 48人 (2.3%)
シムビコート 96人 (4.5%)

 

 

  • 以下は論文要旨です。

July 2, 2020
N Engl J Med 2020; 383:35-48
DOI: 10.1056/NEJMoa1916046

 

Triple Inhaled Therapy at Two Glucocorticoid Doses in Moderate-to-Very-Severe COPD

 

 

概要

背景

慢性閉塞性肺疾患(COPD)に対する吸入療法では、固定用量の吸入グルココルチコイドと長時間作用型ムスカリン拮抗薬(LAMA)と長時間作用型β2アゴニスト(LABA)の3剤合剤が研究されてきた。 しかし、吸入コルチコイドが2つの用量では研究されていない。

 

方法

52週間のランダム化第3相試験で、中等症から最重症のCOPD患者で過去1年以内に少なくとも1回の増悪を認めた患者に、2つの用量の吸入グルココルチコイドを含む3剤合剤治療の有効性と安全性を評価した。 1:1:1:1の比率で、1日2回の3剤合剤吸入療法(吸入グルココルチコイド [320μgまたは160μgのブデソニド]、LAMA [18μgのグリコピロレート]、およびLABA [9.6μgのホルモテロール])、または2つの2剤合剤治療のうちの1つ(18μgのグリコピロレート+9.6μgのホルモテロール、または320μgのブデソニド+9.6μgのホルモテロール)に患者を割付した。 主要評価項目は中等度または重度のCOPD増悪の年間発生率(一人の患者が起こす増悪の1年あたり推定平均回数)であり、治療中データのみを使用した修正ITT解析を行った。

 

結果

修正ITT集団は、8,509人の患者で構成された。中等度または重度の増悪の年間発生率は、320-μg-ブデソニドの3剤併用療法群(2,137人)で1.08、160-μg-ブデソニドの3剤併用療法群(2,121人)で1.07、グリコピロレート-ホルモテロール群(2,120人)で1.42、およびブデソニド-ホルモテロール群(2,131人)で1.24であった。グリコピロレート-ホルモテロール併用(24%低下:レート比0.76; 95%信頼区間[CI]、0.69〜0.83; P <0.001)またはブデソニド-ホルモテロール併用(13%低下:レート比、0.87; 95%CI、0.79から0.95; P = 0.003)と比較して、 320-μg-ブデソニド3剤併用療法では増悪発生率が有意に低かった。160-μg-ブデソニド3剤併用療法でも同様に、グリコピロレート–ホルモテロール併用(25%低下:レート比0.75; 95%CI、0.69〜0.83; P <0.001)またはブデソニド–ホルモテロール併用(14%低下:レート比、0.86; 95%CI、0.79から0.95; P = 0.002)より有意に増悪発生率が低かった。有害事象の発生率は治療群間で同様であった(範囲、61.7〜64.5%);確認された肺炎の発生率は、吸入グルココルチコイドを含む治療群で3.5〜4.5%の範囲であり、グリコピロレート-ホルモテロール群で2.3%であった。

 

結論

1日2回のブデソニド(160μgまたは320μgのいずれかの用量)、グリコピロレート、およびホルモテロールによる3剤併用療法では、グリコピロレート-ホルモテロールによる2剤併用またはブデソニド-ホルモテロールによる2剤併用療法よりも、中等度または重度のCOPD増悪の発生率が低かった。 (AstraZenecaが資金提供、ETHOS試験、 ClinicalTrials.gov番号、NCT02465567)

 

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

COPDについて言及している拙著「その息切れはCOPDです ―危ない「肺の隠れ慢性疾患」を治す!」はこちらから

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