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治療薬の進歩で、肺がん死亡率が低下している(NEJM誌より)

肺がんと一口に言っても、

分子レベル、細胞レベルでは非常に多種多様な集まりです。特に、顕微鏡レベルでは非小細胞肺癌(NSCLC)と小細胞肺癌(SCLC)の2つに分類され、米国ではそれぞれ76%と13%を占めています。

死亡統計では、

肺がんの死亡数が毎年発表されており、肺がんの死亡は上昇傾向だと言われています。しかし、肺がんを見つける診断能力が向上しているのか、喫煙率の影響を見ているのか、NSCLCとSCLCでは違いがあるのか、肺がんの治療成績が向上しているのか、死亡統計をみているだけではわかりません。

ここ10数年で肺がんの治療薬が

相次いで開発されました。特に、分子標的療法と免疫療法の出現により、NSCLC治療成績が大きく改善しました。たとえば、未分化リンパ腫キナーゼ(ALK)や上皮成長因子受容体(EGFR)をコードする遺伝子に異常をきたした結果、肺がんになった患者さんには、標的となるチロシンキナーゼの阻害剤が良く効きます。最近では肺がんの患者さんは必ずEGFR変異およびALK再配列の遺伝子を調べることが必須となり、免疫チェックポイント阻害薬の登場により肺がん薬物療法が肺がん生存率改善に貢献しています。

今回紹介する論文では、

米国における肺がんの発生率と生存率を加味して、肺がんの死亡率が組織型別に異なるのかを調べています。肺がんの全死亡率は年々低下傾向でしたが、組織別にみると、特にNSCLCの死亡率低下が顕著でした。具体的には、2006年から2013年の間でNSCLCによる死亡率が急速に低下していました。ことがわかりました。 EGFRとALKの遺伝子検査が推奨されたのが2013年であり、分子標的治療が死亡率の改善に貢献していることがわかります。免疫療法が承認されたのはごく最近なので、今回にデータには反映されていません。一方、 SCLCでは2006年から2016年にかけて死亡率は少しずつ低下していましたが、これはSCLCの発生そのものが減少していることが関係していると考えられます。逆に言うと、SCLCの治療成績は改善していないことが示唆されます。

 

 

肺癌治療の進歩が死亡率に与える影響

The Effect of Advances in Lung-Cancer Treatment on Population Mortality

 

N Engl J Med 2020; 383 : 640 – 9. 

 

背景

肺癌には独特の分類があり、非小細胞肺癌(NSCLC)と小細胞肺癌(SCLC)に分かれる。米国において肺癌の全死亡率は低下傾向であるが、死亡診断書には組織型の情報が記録されないため、総住民レベルでの組織型別の死亡率の傾向についての知見はほとんどない。

方法

SEER(サーベイランス、疫学、目的結果)地域からのデータを使用して、肺癌死亡率を評価し、肺癌死亡者と SEERがん登録における新規肺がん患者を結びつけた。こうすることで、各組織型による死亡率の傾向が総住民レベルで評価可能となった(発生に基づく死亡率)。さらに、癌組織型別、性別、暦年別の肺癌発生と生存も評価した。 Joinpointソフトを使用して、発生率の変化と、発生率に基づく死亡率の傾向を評価した。

結果

NSCLC による死亡率は、NSCLC の発生率よりも速いスピードで低下していた。これは、分子標的薬の承認時期に一致して、生存率が相当程度改善したことに関連していた。男性では、2013年から2016年にかけてNSCLC発生に基づく死亡率は年間6.3%低下したのに対し、2008年から2016年にかけてNSCLC発生の低下は年間3.1%であった。これに対応して肺癌の生存率は、2001年にNSCLCと診断された男性の26%から、2014年に診断された男性の35%に改善した。すべての人種と民族でこの生存率の改善が認められた。女性のNSCLCでも同様の傾向を認めた。これに対し、SCLCによる死亡率の低下は、生存率の改善によるものではなく、発生率の低下がほとんどの原因であった。この結果は、我々が調査した期間ではSCLC治療の進歩が限定的であったことに関連する。

結論

米国の総住民レベルでのNSCLCによる死亡率は、2013年から2016年にかけて急に低下しており、診断後の生存率が大きく改善していた。治療の進歩ー特に分子標的薬の承認と使用ーとともに発生率が低下したことが、この期間中に観察された死亡率の低下を説明できる可能性を今回の解析は示唆している。