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酸素や人工呼吸を要する新型コロナウイルス感染症(Covid-19)の死亡率が、デキサメタゾンで低下する(NEJM誌より)

[2020.07.25]

 デキサメタゾンは、世界中で古くから使用されているステロイド薬の一つです。副腎皮質ホルモン製剤の一つであり、他の製剤と比較すると、少量で強力かつ作用時間が長いという特徴を持っています。アレルギー疾患や喘息発作、COPD増悪、抗がん剤による嘔吐など多種類の病気に対して、日常的によく使用する薬です。副作用もありますが、医師であればだれでも使用経験があるような薬ですので、対処には慣れています。デキサメタゾンの薬価は注射薬6mgで100-200円、経口薬6mgで100円未満と、レムデシビル25万円と比較すると、ただのように安いです。

 

論文のIntroductionより抜粋して翻訳します

「Covid-19患者の大多数は無症候性か軽症である。ただし、多くの患者では入院治療を必要とするような肺炎が発症し、長期間にわたる呼吸補助が必要な呼吸不全を伴う重篤な状態に進行する可能性がある。 英国で入院したCovid-19患者では致死率が約26%であり、侵襲的人工呼吸管理をうけた患者では致死率37%以上に上昇する。レムデシビルは入院患者の回復までの時間を短縮することが示されているが、死亡率低下を証明した薬はまだない。」

「1つの小規模試験において、メチルプレドニゾロンを投与されたCovid-19患者の臨床転帰が改善したと報告されている。しかし、大規模な無作為化臨床試験による信頼できる証拠がないため、Covid-19患者におけるグルココルチコイドが有効かは不明である。中国では重症患者にはグルココルチコイドが推奨されているものの、 多くのガイドラインではグルココルチコイドは禁忌であるか、推奨されないと述べられている。しかしながら、世界の臨床現場では大きく異なっており、患者の50%近くはグルココルチコイドで治療されている。」

 

デキサメタゾンが呼吸不全をともなう新型コロナウイルス症例の死亡率を低下させる

 今回NEJM誌に掲載された論文によると、英国において進行中のRECOVERY試験における4つの治療のうち、デキサメタゾンが通常治療と比べて死亡率を改善したというデータが得られたようです。

 以下は本論文に付随するEditorial(論説 “The RECOVERY Platform” Sharon-Lise T. Normand, Ph.D.)を参考に記載します。

 「合計11,303人の患者が、4つの治療群(デキサメタゾン、ヒドロキシクロロキン、ロピナビル+リトナビル、アジスロマイシン)の1つ、または通常治療群にランダムに割り当てられました。 患者はさらに、追加治療なしまたは回復期血漿による治療のいずれかに無作為化割付された。また、増悪傾向のCovid-19の患者は、追加治療なしまたはトシリズマブ投与に無作為化割付できた。」

⇛デキサメタゾン以外の治療としてはヒドロキシクロロキン、ロピナビル+リトナビル、アジスロマイシンが調べられています。ロピナビル+リトナビルは抗HIV薬で同じRNAウイルスであるコロナウイルスにも効くことを期待、ヒドロキシクロロキンは抗マラリア薬、ジスロマイシンは抗菌薬ですがその抗炎症作用を期待されているようです。その後の治療として、回復期血漿やトシリズマブ(抗ヒトIL-6レセプターモノクローナル抗体)の比較試験も組まれています。本論文では、デキサメタゾン以外の治療薬の結果については報告されていません。

 

「RECOVERY試験に参加した全患者でみると、通常治療群の死亡率に対するデキサメタゾンの死亡率(年齢調整後)の比は0.83であり(=17%改善)、デキサメタゾンを投与することで死亡率は25.7%→22.9%に、2.8%減少しました。ただし、人工呼吸管理中であった患者に限定すると、死亡率の比は0.64(=36%改善)、死亡率は41.4%→29.3%に、12.1%減少しました。病院によって人工呼吸を開始する基準が異なるものの、重症呼吸不全をともなうCOVID-19患者にデキサメタゾンが有効と考える強固な証拠となるであろう。」

⇛レムデシベルは回復までの期間が短くなることが示されていますが、死亡率の改善までは証明できていません(N Engl J Med May 22, 2020. DOI: 10.1056/NEJMoa2007764)。今回のRECOVERY試験では、デキサメタゾンで死亡率の改善が証明されました。特に、酸素を必要とするような呼吸不全をもつような患者で有効でした。デキサメタゾンの抗炎症作用、免疫抑制作用が、サイトカインストームと呼ばれる免疫暴走を抑えたのではないかと思われます。

 

論文の図を2つ載せます。

⇛左上の図(A)の全患者、右上(B)の人工呼吸管理中の患者、左下(C)の酸素投与中の患者においてデキサメタゾン(赤線)で生存曲線が改善しています。

しかし、右下の図(D)をみると、酸素を必要としない患者群では、デキサメタゾン(赤線)を投与すると、生存曲線が逆に悪化傾向にあることがわかります。

 

⇛酸素なしの患者では、通常治療群の方が良好に見えます(上から3つ目のグラフ、有意差はありません)。

 

以下は論文の要旨です。

Covid-19 入院患者に対するデキサメタゾン ― 予備的報告

Dexamethasone in Hospitalized Patients with Covid-19 — Preliminary Report

The RECOVERY Collaborative Group

July 17, 2020
DOI: 10.1056/NEJMoa2021436

背景

新型コロナウイルス感染症(Covid-19)はびまん性肺障害を引き起こす。糖質コルチコイドは、炎症由来の肺損傷を修復し、呼吸不全の進行や死亡を減らせるかもしれない。

 

方法

今回、Covid-19のため入院した患者に対してできる様々な治療法を比較する非盲検対照試験として、経口または経静脈デキサメタゾン(1日1回6 mg)を最大10日間投与する群と通常治療群に無作為に患者を割付した。主要評価項目はは28日死亡率であった。ここでは比較試験の予備的結果を報告する。

 

結果

計2,104人の患者がデキサメタゾン群、4,321人が通常治療群に割付された。全体として、デキサメタゾン群の482人(22.9%)と通常治療群の1,110人(25.7%)が、無作為化後28日以内に死亡した(年齢調整率比、0.83;95%信頼区間[CI]、0.75〜0.93 ; P <0.001)。治療群間における死亡率の相対的および絶対的差は、無作為化時点で患者が受けていた呼吸補助のレベルに応じて有意に異なった。無作為化時点で侵襲的人工呼吸中の患者(29.3%対41.4%;率比 0.64; 95%CI、0.51〜0.81)および侵襲的人工呼吸なしで酸素を投与中の患者(23.3%対26.2%;率比 0.82; 95%CI、0.72から0.94)では、デキサメタゾン群の死亡率は通常治療群のそれよりも低かった。しかし、呼吸補助を受けていなかった患者では死亡率に差はなかった(17.8%対14.0%;率比 1.19;95%CI、0.91〜1.55)。

 

結論

Covid-19で入院した患者の28日死亡率は、デキサメタゾンの使用により、無作為化時点で侵襲的人工呼吸または酸素のみを受けていた患者では低下し、呼吸補助を受けていない患者では低下しなかった。 

(RECOVERY ClinicalTrials.gov番号、NCT04381​​936)

 

資金提供 

Medical Research CouncilとNational Health Institute for Health Researchなど

 

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

新型コロナについて言及している拙著「その息切れはCOPDです ―危ない「肺の隠れ慢性疾患」を治す!」はこちらから

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