HOME > 院長ブログ > 院長による医学論文紹介 > 院長による論文紹介(COVID-19) > 新型コロナウイルスの致死率と季節性インフルエンザの致死率を直接比較するべきではない(JAMA誌より)

新型コロナウイルスの致死率と季節性インフルエンザの致死率を直接比較するべきではない(JAMA誌より)

 季節性インフルエンザウイルスと新型コロナウイルスがよく比較されています。気道に感染し、死に至らしめるウイルス感染症としてこの2つはよく似ています。しかし、毎年冬から春に流行する季節性インフルエンザと、今回の新型コロナウイルスは毒性が明らかに異なります。

 季節性インフルエンザ感染で死亡する場合は、そのほとんどが2次的に発生した細菌感染によるもので、ウイルス性肺炎やサイトカインストームを起こす患者さんは少数です。

 今回のCOVID-19パンデミックと比較するべき対象は、季節性インフルエンザではなく、2009年新型インフルエンザでもなく、約100年前に大流行した1918-1920年のスペイン風邪だと思われます。

 日本におけるスペイン風邪の感染者数は2380万人(=当時の人口の約半数)、死亡数は約39万人、致死率は1.63%と報告されています。スペイン風邪の死因はサイトカインストームも細菌感染もどちらもあったようです(Wikipedia)

 今回の論文は、JAMA誌のVIEWPOINT(観点、オピニオン)から紹介します。アメリカ疾病管理予防センターが、季節性インフルエンザと新型コロナウイルス感染症の死亡数や致死率を比較して、対策を立てていることに著者は異議を唱えています。

 

 以下、論文を抜粋翻訳して、解説します。

「2020年5月上旬の時点で、米国では約65,000人が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で死亡した。この数は、アメリカ疾病管理予防センター(CDC)によって毎年報告されている季節性インフルエンザによる推定死亡数と同じようにみえる。COVID-19と季節性インフルエンザによる死亡数が見かけ上は同様であるが、臨床の最前線、特に人工呼吸器が不足し、多くの病院が限界を超えているパンデミック地域における状況と異なる。COVID-19危機において病院医療に対する需要の高まりは、インフルエンザが最悪であった季節でも米国で発生したことはなかった。それでも、公的機関は、パンデミック拡大の影響を最小限に抑えようと、季節性インフルエンザと新型コロナウイルスの死亡率を比較し続けている。」

➡ アメリカにはCOVID-19で医療崩壊をきたしている地域があります。それに対し、季節性インフルエンザが流行して死亡者が多数発生した年でも、アメリカでは医療崩壊を起こさなかったということです。

 

「このように誤って比較してしまう原因は、季節性インフルエンザとCOVID-19のデータが公表される方法について知られていないことがあるからかもしれません。 CDCは、世界中の多くの疾病管理機関と同様に、季節性インフルエンザの罹患率と死亡率を、実際の数ではなく、国際疾病分類コードに基づいて計算された推定値として提示している。2013-2014年と2018-2019年の間では、インフルエンザによる年間推定死亡数は23,000人から61,000人と報告されている。しかし、同じ期間で、インフルエンザの死亡数を実際にカウントすると、毎年3,448人から15,620人であった。平均して、CDCが推定したインフルエンザによる死亡数は、実際カウントされた死亡数のほぼ6倍であった。逆に、COVID-19の死亡者数は、現時点では推定されずに直接数えられて報告されている。結果として、より正確な方法は、週単位でCOVID-19の死亡数と季節性インフルエンザの死亡数を比較することである。」

➡季節性インフルエンザの死亡数は推定値であって、実際患者さんごとに報告された数ではないということです。推定値にインフルエンザが直接的な死因ではなかった患者さんも含まれているのか、もしくは抽出した数字が不適切で計算方法が間違っているのかもしれません。

 

「2020年4月21日までの1週間にCOVID-19で死亡をカウントした数は、米国で15,455人と報告された。 4月14日までの1週間で報告された死者数は、14,478人であった。 対照的に、CDCによれば、2013-2014年シーズンから2019-2020年シーズンまで間で、インフルエンザ死亡数はピークであった週で351人(2015-2016、2016年の11週)から1,626人(2017-2018、2018年の3週)の範囲であった。2013年から2020年までのインフルエンザシーズンのピークであった週にカウントされた死亡数の平均は752.4人(95%CI、558.8-946.1)であった。 死亡数に関するこれらの統計は、4月21日までの週単位COVID-19死亡数が、米国の過去7年のインフルエンザシーズンにおけるインフルエンザ死亡数のピーク週の9.5倍から44.1倍であり、平均20.5 倍の平均増加(95%CI、16.3〜27.7)であったことを示唆する。」

➡週単位の死亡数をみると、ピーク時の数字と比較してもCOVIDの方が20倍多いということです。この数字であれば、医療崩壊しても納得できます。

 

「致死率は混乱を招くもう一つのテーマである。新型コロナウイルスとインフルエンザウイルスの致死率を比較するのはまだ早い。COVID-19の推定致死率は、ある国では1%未満であり、その他の国では約15%と幅広い。これは致死率を計算する上での限界を反映している。検査数不足を考慮していないこと(つまり分母が間違って小さくなる)や、最終集計時にまだ生存している患者の追跡情報が不完全であること(したがって分子が小さくなる)がある。人々の不完全な追跡情報が含まれます。最終的には、血清学的検査を行うことで、新型コロナウイルスの致死率を計算するためにもっと正確に分母を決定できるようになるであろう。」

➡日本のように検査数を抑えている国では致死率が高くなるはずです。今のところ日本の致死率は逆に低い方であり、その要因は今後解析されていくと思います。

 

「現在、ダイヤモンドプリンセスクルーズ船での新型コロナウイルス感染症の発生は、完全なデータが利用できる数少ない状況の1つです。この船での発生に対し、2020年4月末時点での致死率は1.8%(712例中13例)であった。一般人口を反映するように年齢調整すると、この数値は0.5%に近づいた。0.5%という致死率は、成人の季節性インフルエンザによるよく引用される致死率の5倍である。」

➡1.8%という数字は、スペイン風邪による日本での致死率とほぼ同じです。

 

「死亡率の統計が異なる方法で取得された場合、2つの異なる疾患のデータを直接比較すると、不正確な情報が提供されることになる。さらに、政府役人やその他一般人がこれらの統計的な違いを誤って繰り返し考慮すると、公衆衛生が脅かされる。経済を再開し、緩和戦略を段階的に縮小しようとするときに、政府当局者はこのような比較に依存しており、CDCのデータを誤って解釈する可能性がある。当局は新型コロナウイルスは「単なる別のインフルエンザ」であると言うかもしれないが、それは真実ではない。

要約すると、私たちの解析により、新型コロナウイルスの致死率と季節性インフルエンザの致死率を比較するためには、単純比較ではなく、同じ条件での比較をする必要があることが示唆された。そうすることで、COVID-19による公衆衛生への真の脅威が明らかになる。」

JAMA Intern Med. Published online May 14, 2020. 

Published Online: May 14, 2020. doi:10.1001/jamainternmed.2020.2306