MRIが普及している現在、予防的全脳照射は限局型小細胞肺がんの治療に必須なのか(JAMA誌より)
- 小細胞肺がんと非小細胞肺がん
小細胞肺がんは非小細胞肺がんとかなり異なる性質を持っています。顕微鏡で小細胞肺がんの細胞をみると、文字通り細胞が小さく見え、リンパ球に似ています。
臨床経過もかなり異なります。非小細胞肺がんと比べて、小細胞肺がんは進行が速く、再発もしやすい癌です。すでに進行した段階で発見されることも多く、ほとんどの患者さんでは手術ができません。そのため、治療方針を決める上で大切な病期分類も、限局型と進展型の2種類に分けることが小細胞肺がんの特徴です。
- 限局型小細胞肺がんの治療、PCIとは
限局型小細胞肺がんの治療は、肺やリンパ節をターゲットにした放射線治療と、全身のがん細胞をターゲットにした抗がん剤治療がメインになります。小細胞肺がんは血液のがんと似ていて、画像では検出できないがん細胞が全身に散らばっているので、抗がん剤治療が欠かせないものになります。しかし、脳には抗がん剤が届きにくく、脳転移には抗がん剤が効きにくいことが知られています。そこで、脳転移を予防するために、放射線と抗がん剤がよく効いた(完全寛解した)患者さんには、脳転移予防のために脳に放射線を照射(PCI)を追加する方法が、現在の標準的治療となります。(肺癌学会 肺癌診療ガイドライン2019)
しかしながら、胸部放射線+抗がん剤→PCIという治療方針が標準となる根拠となった研究は、1990年代に、すべて日本以外で実施されています。この20-30年の間で脳転移を検出するための画像技術として、脳MRIが大きな進歩を遂げました。特に日本ではMRIが普及し、一人の患者さんに治療期間中や治療後に何回でもMRIをとることが可能です。PCIにも有害作用があり、晩期毒性として認知機能低下などの可能性もあります。そこで、PCIを省略し、MRIで脳転移が出現しないか注意深く経過観察すれば、脳転移が小さい段階で見つけることができ、それから全脳照射をしても遅くないのではないかと考えるのも自然な流れです。
- MRIでPCIは不要になる?
今回紹介する論文は、コホート研究でしかも傾向スコアマッチングを使用した比較研究ですので、エビデンス(科学的根拠)レベルが低いものになります。しかし、MRIをうまく使えば、限局型小細胞肺がんの治療として予防的全脳照射(PCI)が不要になる可能性が秘められていることを、本研究は示唆しています。
- 以下は論文要旨です
Accepted for Publication: February 2, 2020.
Published: April 1, 2020. doi:10.1001/jamanetworkopen.2020.1929
質問
磁気共鳴画像(MRI)で病期分類しても、限局型小細胞肺癌患者に予防的全脳照射(PCI)を行う利点はあるのか?
調査結果
単一施設における今回のコホート研究では、297人の患者を対象として傾向一致解析が行われた。 PCIを受けたグループに比較して、PCIを受けなかったグループでは脳転移の3年累積発生率が高かったが、その差は統計的に有意ではなかった。PCIは全生存の改善とは関連していなかった。
意味
全脳照射に伴う神経認知毒性の影響を考えると、今回のデータは、限局型小細胞肺癌の患者に非選択的にPCIを行う利点が限られることを示唆している。