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MRIが普及している現在、予防的全脳照射は限局型小細胞肺がんの治療に必須なのか(JAMA誌より)

[2020.05.17]

 小細胞肺がんは非小細胞肺がんとかなり異なる性質を持っています。顕微鏡で小細胞肺がんの細胞をみると、文字通り細胞が小さく見え、リンパ球に似ています。

 

 臨床経過もかなり異なります。非小細胞肺がんと比べて、小細胞肺がんは進行が速く、再発もしやすい癌です。すでに進行した段階で発見されることも多く、ほとんどの患者さんでは手術ができません。そのため、治療方針を決める上で大切な病期分類も、限局型と進展型の2種類に分けることが小細胞肺がんの特徴です。

 

  • 限局型小細胞肺がんの治療、PCIとは

 限局型小細胞肺がんの治療は、肺やリンパ節をターゲットにした放射線治療と、全身のがん細胞をターゲットにした抗がん剤治療がメインになります。小細胞肺がんは血液のがんと似ていて、画像では検出できないがん細胞が全身に散らばっているので、抗がん剤治療が欠かせないものになります。しかし、脳には抗がん剤が届きにくく、脳転移には抗がん剤が効きにくいことが知られています。そこで、脳転移を予防するために、放射線と抗がん剤がよく効いた(完全寛解した)患者さんには、脳転移予防のために脳に放射線を照射(PCI)を追加する方法が、現在の標準的治療となります。(肺癌学会 肺癌診療ガイドライン2019

 

 しかしながら、胸部放射線+抗がん剤→PCIという治療方針が標準となる根拠となった研究は、1990年代に、すべて日本以外で実施されています。この20-30年の間で脳転移を検出するための画像技術として、脳MRIが大きな進歩を遂げました。特に日本ではMRIが普及し、一人の患者さんに治療期間中や治療後に何回でもMRIをとることが可能です。PCIにも有害作用があり、晩期毒性として認知機能低下などの可能性もあります。そこで、PCIを省略し、MRIで脳転移が出現しないか注意深く経過観察すれば、脳転移が小さい段階で見つけることができ、それから全脳照射をしても遅くないのではないかと考えるのも自然な流れです。

 

  • MRIでPCIは不要になる?

 今回紹介する論文は、コホート研究でしかも傾向スコアマッチングを使用した比較研究ですので、エビデンス(科学的根拠)レベルが低いものになります。しかし、MRIをうまく使えば、限局型小細胞肺がんの治療として予防的全脳照射(PCI)が不要になる可能性が秘められていることを、本研究は示唆しています。

 

  • 以下は論文要旨です

MRIが普及している現在、予防的全脳照射は限局型小細胞肺がんの治療に必須なのか

JAMA Netw Open. 2020;3(4):e201929. 

Accepted for Publication: February 2, 2020.

Published: April 1, 2020. doi:10.1001/jamanetworkopen.2020.1929

 

質問

磁気共鳴画像(MRI)で病期分類しても、限局型小細胞肺癌患者に予防的全脳照射(PCI)を行う利点はあるのか?

 

調査結果

単一施設における今回のコホート研究では、297人の患者を対象として傾向一致解析が行われた。 PCIを受けたグループに比較して、PCIを受けなかったグループでは脳転移の3年累積発生率が高かったが、その差は統計的に有意ではなかった。PCIは全生存の改善とは関連していなかった。

 

意味

全脳照射に伴う神経認知毒性の影響を考えると、今回のデータは、限局型小細胞肺癌の患者に非選択的にPCIを行う利点が限られることを示唆している。

 

概要

重要性

古典的なデータでは、小細胞肺癌(SCLC)患者に対し予防的全脳照射(PCI)を行うと全生存の利点があることを示唆されている。しかしながら、脳の磁気共鳴画像(MRI)の精度が継続的に向上しているため、この考え方は現在疑問視されており、最近の研究では進展型SCLCに対するPCIは生存率の改善に寄与しないことが最近の研究で示されている。ただし、限局型SCLC(LS-SCLC)の患者におけるPCIの役割は明確ではない。

目的

MRIで病期分類され、PCIを受けたか受けなかったLS-SCLC患者の全生存率と頭蓋内制御の割合を報告すること。 

設計、設定、および参加者

このコホート研究には、米国にある大規模な学術がんセンターのLS-SCLC患者297人が登録された。患者は胸部放射線照射を受けたのち、 205人はPCIを受け、92人はPCIを受けなかった。すべての患者は、治療前に必ずMRIを受けており、胸部放射線照射後に脳MRIまたはCTで病期分類を再度行い、病勢進行を認めなかった。傾向スコアのマッチング解析は、潜在的なバイアスを調整するために行われた。適格基準を満たした297人の患者のうち、傾向スコアは患者および腫瘍、治療の特徴を用いて295人の患者で計算された。データは2019年10月に解析された。

介入

LS-SCLC患者に対する予防的全脳照射。

主な結果と測定

全生存率と頭蓋内制御の割合

結果

297人の患者のうち、162人(54.5%)が男性であった。年齢中央値は、PCIを受けた患者では62.2歳(範囲, 27.0〜85.0歳)、PCIを受けなかった患者では68.6歳(範囲、40.0〜86.0歳)であった。死亡を競合リスクとして数える場合、脳転移の3年累積発生率は、PCIありの群と比較して、PCIなしの群の方が高かったが、その差は統計的に有意ではなかった(20.40%[95%CI, 12.45%-29.67 %] 対 11.20%[95%CI, 5.40%-19.20%]; P = .10)。 PCIの使用は、患者グループ間の全生存率の差とは関連していなかった(ハザード比, 0.844; 95%CI, 0.604-1.180; P = .32)。

結論と関連性
今回の調査結果により、MRIで病期分類されたLS-SCLC患者が胸部放射線照射後にPCIを受けても、PCIを受けない患者と比較して、新規の脳転移が出現するリスクが低下するわけではないことが示唆された。 PCIを使用しても、そのような患者の全生存率の改善には結びつかなかった。
 
文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

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