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頭蓋内転移に対するオシメルチニブ(タグリッソ®)の有効性と安全性の評価:系統的レビューとメタ解析

 進行期がんの治療を行うにあたって問題となることの一つに、血液脳関門(Blood-Brain Barrier=BBB)があります。飲み薬でも点滴の薬も血管内に入り、血液の流れに薬はのって全身をまわり、毛細血管から各組織に浸透していき、その効果を発揮します。しかし、脳内の毛細血管にはBBBが存在すると考えられ、薬が脳細胞に浸透していくのを妨害し、脳には薬の効果がでにくいとされています。

 脳転移のある進行期がんの患者さんに、抗がん剤治療を行うと、脳以外の病変は縮小消失したのに、脳病変のみは残存することがあります。また、脳転移のない患者さんの治療継続中に、脳以外の病変は縮小を維持しているのに、脳のみ新たな病変が出現することがあります。

 勤務医だったころ、EGFR変異陽性肺がんが全身に転移している患者さんに、ゲフィチニブ(イレッサ®)を1日1錠内服しただけで、数週間でがん病巣が画像では見えなくなる位小さくなるという経験をよくしました。いわゆる抗がん剤しかなかった時代を知っている身からすると、隔世の感がしたのを覚えています。

 しかし、その後数カ月間ゲフィチニブを飲み続けているうちに、脳転移やがん性髄膜炎による症状が突然出現することがありました。全身の検査をすると、脳以外の病変は全くないのに、脳や髄液にのみ転移が見つかったのです。そのため、ゲフィチニブを継続しながら、放射線治療など脳転移に対する治療を追加するという戦略をとりました。ゲフィチニブがBBBを通過しないため、脳に再発しやすいと考えられています。

 あれから10年以上が経過し、現在では第3世代のEGFR阻害薬オシメルチニブ(タグリッソ®)があります。オシメルチニブは、第一世代のゲフィチニブが効かないT790MというEGFR変異にも効果があり、BBBも通過できるのではないかと考えられています。

 今回紹介する論文では、オシメルチニブが脳転移など頭蓋内病変にどれぐらい効くのかをメタ解析で調査しています。一つの研究では症例数が少なく結論が出せないときに、いくつかの研究をまとめて結論を出すのがメタ解析です。

 頭蓋内病変の消失率は7%から23%、奏効率は64%でした。オシメルチニブはBBBを通過し脳転移にも十分奏効すると考えてよいと思われます。

Published: March 25, 2020. doi:10.1001/jamanetworkopen.2020.1617

 

キーポイント

質問

EGFR変異を持つ非小細胞肺癌による頭蓋内転移に対してオシメルチニブ(タグリッソ®)は有効なのか、そして安全なのか?

調査結果

今回の系統的レビューとメタ解析では、324人の患者を報告している15件の研究において、中枢神経系の奏効率と病勢制御率を計算し、頭蓋内転移治療における他の分子標的療法の報告と比較した。有害事象の共通用語基準(CTCAE バージョン3.0)におけるグレード3以上の有害事象の発生率は、他の分子標的療法と同じか低かった。

意味

今回の結果により、頭蓋内転移治療にオシメルチニブ(タグリッソ®)を使用することが支持される。

 

概要

重要性

頭蓋内転移(IMD)は、多くの癌患者にとって深刻で人生を変える合併症である。IMDをもつ一部の患者に対して、分子標的療法は、IMDをコントロールする追加薬剤として、現在の治療の限界に応えられるかもしれない。有効性に関するエビデンスが少ないため、現在のガイドラインでは分子標的療法の使用は推奨されていない。メシル酸オシメルチニブは血液脳関門を通過するEGFR変異阻害剤であり、特定のEGFR変異をもつ非小細胞肺癌(NSCLC)患者の腫瘍細胞の生存と増殖を阻害する。

 

目的

IMDの管理におけるオシメルチニブの有効性と安全性を評価すること。

 

データソース

開始日から2019年9月20日までMEDLINEおよびEmbaseデータベースを利用して、次の検索クエリを使用して研究を選出した:(osimertinibまたはmereletinib、tagrisso、tamarix、AZD9291)AND(脳転移または頭蓋内転移性疾患、CNS)。

 

研究の選択

オシメルチニブで治療された、転移性EGFR変異陽性NSCLCおよびIMDをもつ患者の頭蓋内転移の転帰を報告している研究が、今回の系統的レビューおよびメタ解析に含まれた。系統的レビューで特定された271件の記録のうち、メタ解析に含めるための適格基準を15件の研究が満たした。

 

データの抽出と合成

出版されている研究と補足資料からデータが抽出された。変量効果モデルを使用してデータをプールした。バイアスツールのコクランリスクと修正ニューカッスル-オタワスケールを使用してバイアスのリスクは評価された。

主な結果と対策

抽出された情報には、研究の特徴および頭蓋内効果の測定、安全性の尺度が含まれた。比率のメタ解析を実施して、中枢神経系(CNS)の奏効率とCNS病勢制御率の推定値をプールした。

 

結果

15件の研究、324症例がメタ解析に含まれた。 CNS奏効率は64%(95%CI、53%-76%; n = 195)であり、CNS病勢制御率は90%(95%CI、85%-93%; n = 246)であった。解析に含まれた研究では、頭蓋内病変の消失率は7%から23%、頭蓋内病変の最良縮小率は中央値でー40%からー64%、有害事象の共通用語基準(CTCAE バージョン3.0)におけるグレード3以上の有害事象の発生率は19%〜39%と報告された。サブグループ解析では、特に追加するような不均質なところは明らかではなかった。

 

結論と関連性

今回報告した知見により、オシメルチニブで治療された転移性EGFR変異陽性NSCLCとIMD患者の治療において、オシメルチニブが潜在的に役立つことが支持される。分子標的療法の治療効果を予測する因子を特定する将来の試験にIMD患者を含めることにより、治療意思決定者は恩恵を受けると思われる。