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間質性肺疾患診断のための経気管支肺凍結生検の診断精度

[2020.01.19]

前回のブログでも説明しましたが、いわゆる「肺炎」には炎症が主にどこで起きているかにより(肺胞性)肺炎と間質性肺炎に分かれます。原因がはっきりしない間質性肺炎を特発性間質性肺炎とよび、その画像所見や病理所見などにより、特発性肺線維症や特発性器質化肺炎などに分類されます。

 

医師にとっても理解困難なことは、CT画像などを基にした臨床診断名を特発性肺線維症(IPF)と呼ぶのに対し、肺生検を基にした病理学的診断名を通常型間質性肺炎(UIP)と呼ぶことです。しかも、IPFと診断するためには肺生検は必須ではなく、典型的なIPFでは病理学的にUIPであることを確認する必要はありません。臨床情報とCT画像のみで明らかであれば、肺生検は省略してIPFと診断します。CT画像の所見が典型的なIPFとは言えない場合に、肺生検を行ってUIPなのかそれ以外なのか病理学的診断を必要とします。

 

ここで問題となるのが肺生検の方法です。間質性肺炎を病理診断するには大きな肺組織が必要なため、世界標準の方法は外科的肺生検(開胸肺生検)となります。つまり、全身麻酔下で外科医が手術室で行う患者負担の大きい検査になります。もともと肺に病気がある人に対して、全身麻酔で人工呼吸を行い、肺の一部を切除してくるわけなので、検査にともなうリスクは相当高く、検査後に稀ながら亡くなる方もいます。

 

最近、外科的肺生検に代わる方法として、経気管支肺凍結生検(TBLC)という気管支鏡を使った方法が開発されてきました。気管支鏡で大きな組織をとると大量出血し危険なため、肺を凍結させてから生検するという方法です。外科的肺生検よりは採れる組織は小さいものの、間質性肺炎の病理診断は可能と考えられ、ヨーロッパを中心に普及してきています。アメリカでは気管支鏡自体が普及していないので難しいですが、気管支鏡が得意な日本ではTBLCが今後普及していくのではないかと思います。

 

今回紹介する論文では、経気管支肺凍結生検(TBLC)が外科的肺生検と比べてどれぐらい診断精度があるかを検証しています。65人の外科的肺生検が必要な間質性肺炎の患者さんにまずTBLCを受けてもらい、その後外科的肺生検も行いました。TBLC組織を用いた総合診断と、外科的肺生検組織を用いた総合診断が一致した確率は約7割でした。7割という数字は決して低いわけではなく、今まで外科的肺生検を行っていたような症例の約3割は今後TBLCのみで十分診断可能と考えれば、TBLCは有望な検査法であると考えられます。ただ、考察で書かれているように、気胸予防のため胸膜直下の肺組織が採取できないこと、慢性過敏性肺炎のように大きな組織が必要な病態では診断率が低下すること、などがTBLCの弱点と考えられます。

 

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間質性肺疾患診断のための経気管支肺凍結生検の診断精度(COLDICE試験):Diagnostic accuracy of transbronchial lung cryobiopsy for interstitial lung disease diagnosis

The Lancet Respiratory Medicine

Published:September 29, 2019

DOI:https://doi.org/10.1016/S2213-2600(19)30342-X

 

要約

背景

経気管支肺凍結生検(TBLC)は、間質性肺疾患の診断のために肺組織をサンプリングするための新しい手法である。本研究の目的は、より低侵襲な生検法としてTBLCを実臨床で使用していくために、外科的肺生検(SLB)と比べてTBLCの診断精度が遜色ないかを立証することである。

方法

COLDICE試験は前向き多施設診断精度研究であり、オーストラリアにある9つの高次病院においてTBLCとSLBとで診断が一致するかを調査した。18歳から80歳までの間質性肺疾患であり、登録前に詳細に検査した上で診断確定のため組織病理学的評価が必要な患者を適格とした。多職種中央審査(MDD)でスクリーニングした結果、肺生検が必要と判断された間質性肺疾患患者は、TBLCを受けた後、全身麻酔下でSLBを受けた。各組織サンプルには、コンピューターで生成されたランダムな番号1〜130のうち一つが割り当てられた。次に、暗号化された生検サンプルを、病理医が番号を伏せられた上で解析した。その後のMDDにおいて、臨床的および放射線学的データとともに、TBLCまたはSLBのいずれかで計2回、ランダムで非連続的に、匿名化された症例を議論した。主要な評価項目は2つあり、通常型間質性肺炎の確定または推定、不確定、その他のパターンの診断がTBLCとSLBの組織病理学的特徴が一致するかを評価すること、そしてMDDにおいてTBLCとSLBを用いた総合的臨床診断が一致するかを評価することであった。主要な評価項目ごとに一致率とκ値が計算された。この研究は、オーストラリアニュージーランド臨床試験番号ACTRN12615000718549で登録されている。

結果

2016年3月15日から2019年4月15日までに、65人の患者を登録した(男性31 [48%]、女性34 [52%]; 平均年齢66.1歳[SD 9.3]; 努力肺活量83.7%[SD 14.2]; 肺拡散能63.4%[SD 12.8])。 TBLC(7.1 mm, SD 1.9)およびSLB(46.5 mm, 14.9)のサンプルは、2つの別々の同側葉からそれぞれ採取された。 TBLCとSLBの組織病理学的診断の一致は70.8%(加重κ値 0.70, 95%CI 0.55–0.86)であり、MDDでの診断一致は76.9%(κ値0.62, 0.47–0.78)であった。 TBLCを用いたMDDの診断が高信頼度または明確となった39例[65例中の60%]では、37例(95%)がSLB診断と一致した。TBLCで低信頼度または分類不可能な診断となった26例(65例中の40%)では、SLBにより6例(23%)がMDDにおいて信頼性の高い別の診断に再分類された。軽度から中等度の気道出血がTBLCにより14人(22%)の患者で発生した。特発性肺線維症急性増悪の後、90日以内の死亡率は2%(65人中の1人)であった。

解釈

病理組織学的解釈とMDDによる診断について、TBLCとSLBの間で高いレベルの一致が示された。TBLCを用いたMDD診断が高信頼度となると特に信頼性が高く、SLBを用いたMDD診断と優れた一致を示した。今回の結果、間質性肺疾患診断アルゴリズムにおいて、TBLCが臨床的に有用であることが支持された。 TBLCの安全性プロファイルについてはさらなる研究で調査することが必要である。

資金提供

シドニー大学、ハンター医学研究所、エルベエレクトロメディジン、メドトロニック、クックメディカル、リムド、カールストルツ、ツァイス、オリンパス

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

 

肺炎について言及している拙著「その息切れはCOPDです ―危ない「肺の隠れ慢性疾患」を治す!」はこちらから

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