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睡眠時無呼吸をもつ急性冠症候群患者にCPAP療法を行っても心血管イベント発生を予防できないのか(ISAACC研究)

睡眠時無呼吸をもつ急性冠症候群患者にCPAP療法を行っても心血管イベント発生を予防できないのか(ISAACC研究)

睡眠時無呼吸症候群(SAS)には、病因により中枢型(CSA)閉塞型(OSA)の二つに分類されます。

肥満や太い首回りなど体格がOSAの原因となることが多いのですが、体格とは関係なく顎が小さいといった顔の形が原因となることもあります。

OSAでは空気の通り道が物理的に閉塞することで呼吸が止まるのに対し、CSAでは呼吸中枢の異常により脳が上手く指示できないことで呼吸が止まります。

患者数が圧倒的に多いのはOSAであり、社会的にも問題となっています。

OSAでは睡眠中に呼吸が止まると苦しくなるため、睡眠中でも呼吸をしようと努力します。

そのため睡眠が浅くなり、ぐっすり眠ることができません。

朝起きても、熟眠感がなく頭痛がしたり、日中突然睡魔が襲ってきます。車などを運転中でも睡魔が襲ってくるので、交通事故を起こしてしまうかもしれません。

電車やバス、トラックなどの運転をするためには、健診でSASの検査が義務付けられるようになってきました。

しかし、OSAの問題は日中の眠気だけではありません。

OSA患者さんは、高血圧を合併しやすく、狭心症や心筋梗塞といった急性冠症候群(ACS)を起こしやすく、生存期間が短くなるという報告があります。

そのような合併症を減らし、命を長くすることが、OSA治療の目的でもあるのです。

 

今回紹介するISAACC研究では、ACSとOSAをどちらももつ患者さんにCPAP療法を行って、新たな心血管イベント(心筋梗塞や脳卒中など)を予防できるかを検証しています。

ACSを発症して入院した患者さんを対象に睡眠時無呼吸検査を行い、OSAがある群とない群の二つにまず分けます。

OSAがあり日中眠気を自覚している患者を除外したのちに、CPAP療法を行う群と行わない群にさらに分けて、その後の約3年間で心血管イベントを発生するかを観察しました。

その結果は、CPAP療法を行っても行わなくても、新たな心血管イベントの発生率に差はなかったというものでした。

 

ーーー以下は専門的な記述になりますーーー

今回の研究はネガティブな結果に終わりました。

しかし、同じ号のLancet Respir MedのCommentに書かれているように、結果の解釈には注意が必要です。

DOI:https://doi.org/10.1016/S2213-2600(19)30351-0

まず、ACSの二次予防にはCPAPは無効と考えられますが、一次予防にCPAPが有効かは今後大規模は研究を実施しなければ分かりません。

第二に、より重症と考えられる日中眠気があるようなOSAをもつACS患者は今回評価していません。

第三に、CPAP治療の平均実施時間が2.78時間/日であり、有効と考えられる4時間を大幅に下回っていました。

第四に、そもそも患者選択基準にAHI(一時間当たりの無呼吸低呼吸の回数)を用いていますが、ACSとAHIが関連するのか不明です。

睡眠中の低酸素状態がACS発症の誘因になるとすれば、SpO2が90%未満になる回数や、無呼吸となっている時間の長さ、最低SpO2の値などの方がACS発症と関連しているのかもしれません。

 

The Lancet Respiratory Medicine

December 12, 2019

 

DOI:https://doi.org/10.1016/S2213-2600(19)30271-1

概要

背景

急性冠症候群(ACS)の予後は改善されているが、罹患率と死亡率はまだ高い。
ACS患者の病状進行において、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)と持続陽圧呼吸(CPAP)による治療効果を評価することを目的とした。

方法

スペインにある15病院においてACS患者に対する多施設、非盲検、並行群、無作為化対照試験を計画した。

適格患者は、日中傾眠はなく、カルテ上でACS症状のために入院した18歳以上の男性と女性であった。

すべての患者は、入院後24〜72時間以内に呼吸ポリグラフィーを受けた。

OSA患者は、1日24時間利用可能なコンピューターシステムにより、CPAP治療と通常のケア(CPAP群)または通常のケアのみ(UC群)のいずれかに1:1でランダムに割り付られた。

ACSがあるがOSAがない患者のグループも参照グループとして含まれた。
介入の性質上、治験担当医師または患者のいずれにも介入が何かをマスクすることはできなかった。

患者はモニターされ最低1年間追跡された。登録時に患者は検査され、 1ヶ月後、3ヶ月後、6ヶ月後、12ヶ月後、18ヶ月後、24ヶ月後、30ヶ月後、36ヶ月後に検査された。

追跡期間中に該当すれば、その後12か月ごとに検査された。
主要評価項目は、少なくとも1年間フォローした患者における、心血管イベント(心血管死または非致命的イベント[急性心筋梗塞、非致死性脳卒中、心不全による入院、および不安定狭心症または一過性虚血発作による新入院])の複合的な発生率とした。

一次解析は、治療意図の原則(ITT)に従って行われた。
この研究はClinicaltrials.gov, NCT01335087に登録され、現在閉鎖されている。

結果

2011年4月25日から2018年2月2日までに、計2834人のACS患者に呼吸ポリグラフィーを行い、そのうち2551人(90.01%)が登録された。

1264人(49.55%)の患者はOSAを有しており、CPAP群(n = 633)またはUC群(n = 631)にランダムに割り付けられた。
1287人(50.45%)の患者はOSAを有しておらず、そのうち603人(46.85%)がランダムに参照群に割り付けられた。

患者追跡期間の中央値は3.35年(IQR 1.50–5.31)であった。
追跡期間中の心血管イベント発生率は、CPAP群とUC群で同様であった(98イベント[16%] vs 108イベント[17%];ハザード比[HR] 0・89 [95%CI 0・68–1・17]; p = 0.40)。

CPAP治療の平均実施時間は2.78時間/夜(SD 2.73)であった。
追跡期間中の心血管イベント発生率は、参照群(90 [15%]イベント)とUC群(102(17%)イベント)との間で類似していた(1.01 [0.76–1.35]; p=0.93)。

心血管イベントの発生率は、CPAP実施状況またはOSAの重症度とは関連がないように考えられた。

CPAP群の629人の患者のうち464人(74%)に1538件の重篤な有害事象が観察され、UC群の626人の患者のうち406人(65%)に1764件の重篤な有害事象が観察された。

解釈

眠気のないACS患者では、OSAがあっても心血管イベントの発生率は上昇せず、CPAPによる治療をしてもこの発生率の有意な減少はみられなかった。

資金提供

レスメド(オーストラリア)、健康研究基金(ヨーロッパ地域開発基金)、スペイン呼吸器学会、カタロニア循環器学会、エステベ‐帝人、酸素の健康、アレルギー。