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中国発のエンサルチニブはALK肺がんに対する6番目のALK阻害剤になれるか: クリゾチニブ耐性ALK陽性非小細胞肺癌におけるエンサルチニブの有効性と安全性、バイオマーカー解析

 ガンは遺伝子異常の病気です。ヒトの細胞は紫外線やタバコの煙など様々なストレスにさらされ、細胞の中にある遺伝子に傷(遺伝子異常)がつきます。細胞内に遺伝子異常が発生すると、細胞は様々なシステムを使って異常を修復するように動きます。遺伝子異常が修復できないほど蓄積し、ガン細胞に変化する(ガン化)可能性がでてくると、細胞は自滅する(アポトーシス)ように死んでいきます。そのアポトーシスを誘導する遺伝子にも異常をきたすと、細胞はガン化し、無秩序に増殖していくようになります。ガン細胞が体内にできると、今度は免疫システムが反応し、免疫細胞がガン細胞を攻撃して殺すようになります。しかし、ガン細胞はその免疫システムも黙らせる方法を得る(免疫寛容)と、体内で増殖し腫瘍を形成するようになります。

 多くのガン細胞は細胞内に多くの遺伝子異常を蓄積していますが(Tumor Mutation Burden)、中には1個2個といった少ない遺伝子異常のみでガン化した細胞があります。肺がんには、そのような強力な遺伝子異常としてEGFR遺伝子変異とALK融合遺伝子があることが知られています。

 ALK融合遺伝子は日本の研究グループが2007年に発見したガン遺伝子です。ALK融合遺伝子は発見されてほんの数年で、それを標的にしたALK阻害薬が開発され、肺がん患者さんに投与されたことで有名です。2019年現在で、5つのALK阻害剤が世界で使用されています。クリゾチニブ(ザーコリⓇ;2012年ファイザーより発売)、アレクチニブ(アレセンサⓇ;2014年中外製薬)、セリチニブ(ジカディアⓇ;2016年ノバルティスファーマ)、ロルラチニブ(ローブレナⓇ;2018年ファイザー)、そして日本では未承認のブリガチニブ(ALUNBRIGⓇ;2017年武田薬品)の5種類になります。今までは日本、米国、欧州の製薬会社が開発し販売してきました。

 今回、中国の製薬会社(貝達薬業)のエンサルチニブの有効性を評価する第二相試験の結果がLancet Respiratory Medicine誌より発表されました。クリゾチニブが効かなくなったALK陽性肺がん患者さんを対象にエンサルチニブを使用したところ、52%の患者に腫瘍の縮小を認めました。クリゾチニブは脳転移に効果が弱いことが知られていますが、エンサルチニブは脳転移病変の70%に効果が認められました。著者らによると、エンサルチニブは中国で承認申請済みであり、現在クリゾチニブとエンサルチニブの効果を直接比較する第3相試験を実施中とのこと。その結果をもって米国や欧州でも承認申請を目指すようです。私の記憶では中国発のがん治療薬は初めてです。最近、中国発の医学研究が目覚ましいことを考えると、今後中国から新薬がどんどんでてくるかもしれません。

The Lancet Respiratory Medicine

Published:October 15, 2019

DOI:https://doi.org/10.1016/S2213-2600(19)30252-8

クリゾチニブ耐性、ALK陽性の非小細胞肺癌におけるエンサルチニブの有効性、安全性、およびバイオマーカー解析:多施設共同第2相試験

概要

背景

エンサルチニブは、広範囲の既知のクリゾチニブ耐性ALK突然変異およびCNS転移に対して高活性を持つ強力な新世代ALK阻害剤である。クリゾチニブ治療が奏効しなかったALK陽性非小細胞肺癌(NSCLC)患者におけるエンサルチニブの有効性と安全性を評価することを目的とした。エンサルチニブの有効性とクリゾチニブ耐性変異との関連も調査した。

方法

中国にある27の医療センターで、単治療群、非盲検、第2相試験を実施した。患者は18歳以上で、クリゾチニブ治療中に増悪した病期IIIbまたはIV期のALK陽性NSCLC、ECOG-PSが2以下、測定可能病変があり、前治療が3種類未満であった。無症候性でステロイド療法を必要としないCNS転移を有する患者が含まれた。すべての患者は1日1回225mgのエンザルチニブを毎日経口投与されました。主要評価項目は固形腫瘍の奏効評価基準(RECIST version 1.1)による治療効果を示した患者の割合とした。少なくとも1回のエンサルチニブ投与を受けた、適格基準の重大な違反のない患者(つまり完全解析セット[FAS])を独立レビュー委員会で評価した。少なくとも1回のエンサルチニブ投与を受けたすべての登録患者で安全性が評価された。この試験はClinicalTrials.gov、NCT03215693に登録された。

結果

2017年9月28日から2018年4月11日の間に、160人の患者が登録され、少なくとも1回のエンサルチニブの投与を受けた(安全性解析セット)。 4人の患者は患者適格基準に反していたため有効性解析から除外され、156人の患者が有効性解析に含まれた(完全解析セット)。完全解析セットの97人(62%)の患者に脳転移を認めた。完全解析セット147人の患者のうち76人(52%[95%CI 43–60])が、独立審査委員会によって評価可能であり、抗腫瘍効果を認めた。独立審査委員会によって評価された、測定可能な脳転移を有する40人の患者のうち28人(70%[53–83])が脳転移病変の抗腫瘍効果を示した。 160人の患者のうち145人(91%)に少なくとも1つの治療関連有害事象があり、そのほとんどはグレード1または2であった。最も頻度の高い治療関連有害事象は発疹(89 [56%])、アラニンアミノトランスフェラーゼ濃度の増加(74 [46%])、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ濃度の増加(65 [41%])であった。

解釈

脳転移のある患者を含む、クリゾチニブ耐性のALK陽性NSCLC患者に対しエンサルチニブは抗腫瘍活性および忍容性を認めた。その他の第二世代ALK阻害剤が奏効しなかった患者に対するエンサルチニブの役割をさらに研究する価値がある。

資金提供:Betta Pharmaceuticals(貝達薬業)