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喘息コントロールが不良な小児と成人の黒人患者に対するステップアップ療法

 最近は全世界的に行われることも多くなりましたが、新しい薬剤の臨床試験の多くは欧米で行われます。その場合、人口構成と同様に、対象患者は白人が多く、黒人は少数となってしまいます(アジア系はもっと少ないと思われます)。白人と黒人では病気の罹患率や治療反応性が異なるため、本来は人種毎に治療方針を変えるべきですが、黒人などマイノリティーは臨床試験参加人数も少ないため、新たな治療法の開発は困難です。

 今回紹介する論文では、祖父母の少なくとも一人が黒人である患者を対象として、喘息の治療法を検討しています。喘息治療の第一選択薬である吸入ステロイド(ICS)を投与しても、患者さんの喘息コントロールが不良な場合、ICSの投与量を増やすか、第二選択薬である長時間作用性β2刺激薬(LABA)を追加するかという二つの選択肢があります。今までの研究では、黒人の場合はLABAを追加するより、ICSを増量した方が効果が高いと言われていました。しかし、今回の研究結果により、少なくとも思春期以上の年齢では、白人と同様、LABAを追加する方が治療効果が高いことが示されました。

 日本人を含むアジア人種は欧米では黒人より少数派です。白人を主な対象として薬は開発されており、日本で使用される喘息薬はほぼすべて欧米から輸入されています。薬の承認前には日本でも臨床試験が行われてはいますが、大規模な試験が行われることは少なく、白人と日本人で薬の使用法が同じで本当に良いのか疑問です。今回の研究と同様な試験をアジア人対象に行う必要があるかもしれません。

 

 N Engl J Med 2019; 381 : 1227 – 39.

 

背景

黒人における喘息罹患率は白人よりも不釣り合いに高いが、治療指針となる臨床試験に参加する黒人患者は少数である。過去の報告によると、コントロール不良の喘息患者では長時間作用性β2刺激薬(LABA)を追加した方が、ステロイドを増量するよりも有益であると考えられている。しかしながら、これらのデータは黒人患者の治療を考える上で有用かは不明である。

方法

今回、前向き無作為化二重盲検試験を2件実施した。1 件は小児を対象、もう 1 件は思春期児と成人を対象とした。いずれの試験でも、患者の祖父母が少なくとも 1 人黒人であり、低用量吸入ステロイドではコントロールが不十分な喘息患者を登録した。吸入ステロイド(フルチカゾンプロピオン酸エステル)に LABA(サルメテロール)を追加するか、フルチカゾンの投与量を 2~5 倍増量するか、またはその両方の治療法の組合せを比較した。喘息の増悪,喘息コントロールが良好な日数,肺機能を評価する複合指標を用いて治療法を比較した。データは遺伝子型に基づくアフリカ系祖先で層別化した。

結果

フルチカゾン 5 倍量(250μg 1 日 2 回)と、サルメテロール(50μg 1 日 2 回)追加+フルチカゾン 2 倍量(100μg 1 日 2 回)とを比較すると、フルチカゾン 5 倍量群の小児の 46%,フルチカゾン 2 倍量+サルメテロール追加群の小児の 46%で治療効果が良好であった(P=0.99)。一方、思春期児と成人ではサルメテロールを追加した群の方が、フルチカゾンを増量した群よりも効果が良好な患者が多かった(サルメテロール+低用量フルチカゾン 49% 対 中用量フルチカゾン 28% [P=0.003];サルメテロール+中用量フルチカゾン 49% 対 高用量フルチカゾン 31% [P=0.02])。アフリカ系祖先の割合と治療前のバイオマーカーのうち、特定の治療の効果を予測できるものはなかった。8 歳未満の小児では吸入ステロイドを増量すると、尿中コルチゾール/クレアチニン比が低下していた。

結論

思春期児と成人の黒人患者とは異なり、喘息コントロールが不良な小児の黒人患者のほぼ半数に吸入ステロイド増量が優れた効果がみられ、ほぼ半数に LABA追加が優れた効果がみられた。(米国国立心臓・肺・血液研究所から資金提供あり;BARD 試験:臨床試験政府登録番号 NCT01967173)