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気管支拡張症に対する長期マクロライド療法のメタ解析

 まず気管支拡張症についての説明を、日本呼吸器学会HPより引用します。

「…… 気管支は気管から木の枝のように分岐して、肺の中に空気を運ぶ通路の役割をします。何らかの原因で、気管支が広がってしまった状態を気管支拡張といいます。気管支拡張の原因は、先天的な原因や幼小児期の肺炎、繰り返す感染などで、気管支壁が壊れたり弱くなることにより生じます。 …… 気管支の壊れた部分に、細菌やカビが増殖して炎症をおこし、気管支の壊れによる気管支拡張がさらに進行します。…… 症状として多いのは、痰や咳、肺炎をおこしやすいなどの症状です。 …… 症状の軽減や炎症を抑えるためにマクロライド系抗菌薬を投与したり、痰をスムーズに出す薬なども併用します。感染を起こしていることが疑われる場合には、適切な抗生物質を使って感染を抑えます。……」

 

 気管支拡張症の患者さんは、その程度にもよりますが、慢性的に、特に朝、痰がからむという症状を自覚します。就寝中に拡張した気管支内に痰が溜まるため、その痰が出切ってしまうまで咳がでます。さらに、しばしば肺炎などを併発し、発熱したり、黄色痰が増加し、患者さんを苦しめます。

 そのような気管支拡張症の増悪を減らすために行われる治療法が長期マクロライド療法です。通常の抗菌薬(抗生剤)治療は急性肺炎など急性期の感染症に対して使用するため、抗菌薬を投与する期間は通常数日間から1週間であり、入院するような重症感染症でも1か月位です。それに対し、長期マクロライド療法では、マクロライドという抗菌薬を半年から1年間、長ければそれ以上投与し続けます。長期間投与する理由は、肺炎の合併など気管支拡張症の増悪を予防するためです。細菌を殺すという本来の抗菌薬の役割以外に、マクロライド薬には免疫能を調整する役割があると考えられているからです。

 気管支拡張症には、ごく軽度の気管支拡張所見しかない患者さんから肺全体に気管支拡張がみられるような重症患者さんまで、様々なレベルがあります。欧州呼吸器学会では緑膿菌を保菌してない(=常にもっていない)気管支拡張症患者さんで、年に3回以上増悪を繰り返す人に長期マクロライド療法を推奨していました。しかし、今回紹介する研究結果により、その推奨が変更されるかもしれません。

 

Lancet Respir Med 2019
Published Online
August 9, 2019

DOI:https://doi.org/10.1016/S2213-2600(19)30191-2

要旨

背景

緑膿菌に感染していない、1年に3回以上増悪するような気管支拡張症患者にガイドラインでは長期マクロライド療法を推奨している。ランダム化比較試験は長期マクロライド療法が成人気管支拡張症の増悪を予防できることを示唆しているが、これらの個々の研究は小規模であり、有意なサブグループ解析を行うことはできなかった。今回、系統的レビューと個々の患者データ(IPD)メタ解析を行い、現在マクロライド療法が推奨されていない集団を含めてマクロライドが有効かを調査した。

方法

2000年1月1日から2018年9月30日までMEDLINEおよびEmbase、Cochrane Central Register of Controlled Trials、Web of Scienceを検索し、成人気管支拡張症患者を対象としたマクロライド抗菌薬の二重盲検無作為化プラセボ対照試験を抽出した。言語の制限はしなかった。長期治療が前提として定義され、気管支拡張症の増悪が主要または副次的評価項目と規定されている、無作為化比較試験を適格とした。嚢胞性線維症にともなう気管支拡張症の患者を対象とした研究は除外された。メタ解析の主な結果は、抗菌薬による治療を必要とした気管支拡張症増悪の頻度とした。副次的評価項目は最初の増悪までの期間およびセントジョージ呼吸器アンケート(SGRQ)によるQOLの変化、FEV1の変化とした。 IPDメタ解析は年齢と性別、FEV1、試験名を調整した固定効果モデルを使用して行われた。一段階メタ解析のみを用いて、主要および副次評価項目のそれぞれに対して、事前に指定したサブグループ解析を行った。年齢や性別、過去の増悪頻度、喫煙の有無、治療前の吸入コルチコステロイド使用有無、治療前の体格指数(BMI)、気管支拡張症の病因、治療前のCRP、治療前の%FEV1、SGRQ合計スコア、治療前の喀痰中緑膿菌の有無でサブグループを定義した。本メタ解析は、系統的レビューのPROSPERO国際登録番号CRD42018102908で登録されている。

結果

抽出された234の研究のうち3つの無作為化比較試験を解析に含め、341人の参加者についてIPDが得られた。その結果。マクロライド療法により増悪の頻度は減少した(調整発生率比[IRR] 0.49, 95%CI 0.36〜0.66; p <0.0001)。また、マクロライド療法は最初の増悪までの期間を改善し(調整ハザード比0.46, 0.34~0.61; p <0.0001)、SGRQで測定したQOLを改善していた(改善したポイントの平均 2.93,0.03~5・83; p=0.048)。マクロライド療法によるFEV1の改善は有意ではなかった(1年で67mL, -22〜112; p=0.14)。事前指定したサブグループ解析による効果の推定値によると、すべてのサブグループで増悪頻度の減少が明らかであった。その中には緑膿菌感染患者(IRR 0.36, 0.18~0.72; p=0.0044)や1年間に1〜2回の増悪がある患者(0.37, 0.16~0.88; p=0.025)も含まれていた。研究はすべてのドメインでバイアスのリスクが低いと評価された。

解釈

長期マクロライド療法は気管支拡張症患者の増悪頻度を有意に減少し、患者特徴に基づくサブグループすべてで同様の効果を認める。今回の結果により、現在のガイドラインではマクロライドが適応とされない患者においても、特に他の治療法で増悪がコントロールできないような場合には、マクロライド療法が考慮される可能性があることを示唆された。ただし、長期的なマクロライド療法の欠点も考慮する必要がある。

資金提供:欧州呼吸器学会