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肺胞蛋白症に対してGM-CSF吸入療法は有効(PAGE試験)

 肺にはサーファクタントと呼ばれる蛋白質が常に産生され、潤滑油のような役目を果たし肺の構造が保たれるようになっています。サーファクタントは使用された後、老廃物として肺胞内に蓄積されていきます。それを掃除する役目にあるのが肺胞マクロファージです。もともと血管内を流れていた白血球の一種が血液中から肺胞内に移動して、肺胞マクロファージに進化します。白血球から肺胞マクロファージに進化する過程で重要な役割を果たすたんぱく質がGM-CSFです。

 

 肺胞蛋白症ではこの肺胞マクロファージへの進化過程が障害されます。老廃物が肺胞内に蓄積すると肺胞内に空気が入るスペースが無くなるため、呼吸をしても酸素が血液中に取り込めなくなります。患者さんは酸素が不足となるため、労作時の息切れを主な症状として医療機関を受診するようになります。

 肺胞蛋白症の病因として最も多いのは原発性であり、抗GM-CSF抗体という自己抗体が原因ということが分かっています。肺胞蛋白症は、GM-CSFの機能がこの自己抗体により阻害される一種の自己免疫疾患です。

 

 今回紹介する論文では、合成されたGM-CSFの吸入療法が肺胞蛋白症に有効かを検証しています。吸入すると肺胞にGM-CSFを直接届けることができるため、白血球から肺胞マクロファージへの進化を促すことを期待して行う治療です。その結果、軽症~中等症の肺胞蛋白症患者さんに対しGM-CSF吸入療法を行ったところ、主要評価項目である患者さんの酸素化能が改善し、本治療法が有効であることを証明しました。しかし、労作時の息切れや6分間の歩行距離といった患者さんの自覚症状の改善までは証明できませんでした。重症患者さんが参加していないので、もともと自覚症状の少ない患者さんが多く登録されたことが理由として挙げられます。

 

 肺胞蛋白症は大変珍しく、呼吸器専門医でも一生で1-2例経験するかどうかの病気です。そのような稀な病気の患者さんを集めて臨床試験を実施することは困難であり、それを日本国内だけで行ったことは大変価値のあることです。本論文の筆頭著者である田澤先生は、私が大学院生だった約20年前に大変お世話になった元上司です。その頃から吸入GM-CSF療法に興味をもたれ、GM-CSFを苦労して海外から個人輸入して患者さんに投与していました。その後も努力を続けてこのような結果を出されたことに敬意を表します。

 

September 5, 2019
N Engl J Med 2019; 381 : 923 – 32.)
DOI: 10.1056/NEJMoa1816216

背景

 肺胞蛋白症という疾患の特徴は肺胞内にサーファクタントが異常に蓄積することである。多くの症例は自己免疫性であり、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)に対する自己抗体が原因である。抗GM-CSF抗体は肺胞マクロファージが肺サーファクタントを除去することを阻害する。非盲検第II相試験において、重症肺胞蛋白症患者に対する組換えヒトGM-CSF吸入治療はある程度の効果が示された。しかし、軽症~中等症の患者に対して有効かどうかはまだ明らかになっていない。

方法

 室内気での動脈血酸素分圧(PaO2)が 70 mmHg 未満(または有症状患者の場合は<75 mmHg)の自己免疫性肺胞蛋白症患者64例を対象に二重盲検プラセボ対照試験を実施した。組換えヒトGM-CSF(サルグラモスチム)125μg またはプラセボの吸入を1日2回7日間、隔週で 24 週間行った。プラセボ投与に割り付けられた患者の病状が増悪しないように、重症肺胞蛋白症患者(PaO2<50 mmHg)は対象から除外された。主要評価項目は肺胞気動脈血酸素分圧較差が治療前から25週目までに変化した量とした。

結果

 肺胞気動脈血酸素分圧較差の平均値(±SD)が変化した量はGM-CSF 群(33 例)の方がプラセボ群(30 例)よりも有意に良好であった(治療前からの変化量の平均,-4.50±9.03 mmHg 対 0.17±10.50 mmHg;P=0.02)。CTでの肺野濃度の治療前から第25週目までの変化量もGM-CSF 群の方が良好であった(群間差,-36.08 Hounsfield 単位;95%信頼区間,-61.58~-6.99,Mann-Whitney U検定と 偽中央値の信頼区間のHodges–Lehmann推定を用いて算出)。重篤な有害事象は GM-CSF 群の 6 例とプラセボ群の 3 例にみられた。

考察

今回の無作為化比較試験において、組換えヒトGM-CSF吸入療法は動脈血酸素分圧という検査項目に対しある程度の有益な効果を示したが,臨床的有用性までは認めなかった。(日本医療研究開発機構および厚生労働省から研究助成あり。PAGE試験。ClinicalTrials.gov 登録番号 NCT02835742、日本医師会治験促進センター登録番号 JMA-IIA00205)