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IV期の非小細胞肺がんに対して全身治療に局所治療を追加すると、生存率は改善できるのか?

 遠隔転移(脳や肝臓、肺などに転移)がある肺癌はIV期と呼ばれ、肺癌診療ガイドラインでは抗がん剤など全身治療が推奨され、肺原発巣に対する手術や放射線照射といった局所治療は対象にはなりません。なぜなら、CTなどの画像診断で遠隔転移が一つでもあれば、画像では分からないような微小転移が全身に複数あると考えられているからです。肺原発巣を切除しても、画像でも遠隔転移巣は残っていますし、目に見えない微小転移が多数あり、それが術後大きくなるため、手術のメリットはないと考えるのが現在の標準です。

 

 しかし、最近の抗がん剤治療の進歩、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の登場により、IV期非小細胞肺がんにおいて遠隔転移が画像から消失し、原発巣のみが残存している症例が増えてきました。その場合、原発巣に手術などの局所治療を追加すれば、少なくとも画像上は癌の病巣がすべて消えます。これは患者さんと主治医にとって嬉しいことには違いありません。実際、小規模ながら、IV期非小細胞肺がんに対する局所治療+全身治療を全身治療のみと比較する臨床試験の報告が出てきています。

 

 今回紹介する論文は、全米の肺癌データベースを利用して34,887人の患者さんを抽出しており、かなりの大規模研究と言えます。しかし、通常治療と試験治療を比較するような無作為化対照試験ではなく、後ろ向きの調査研究でありエビデンスレベルは高くないことに注意が必要です。

 IV期非小細胞肺がん患者34,887人のうち835人(2.4%)が手術+全身治療、 9,539人(27.3%)が放射線照射または熱焼灼治療(凍結治療やラジオ波焼灼治療)+全身治療、24,513人(70.3%)が全身治療のみを受けました。

 生存解析の結果、手術+全身治療群が最も生存率が良かったのですが、これは恐らく手術が受けられるほど全身状態が良好であったなど患者背景に違いがあったからではないかと思われます。

 放射線照射/熱焼灼治療+全身治療群と全身治療単独群の比較では、傾向スコアマッチングにて患者背景を合わせました。その結果、放射線照射/熱焼灼治療+全身治療群の方がわずかながら生存率が良好でしたが(ハザード比 0.95)、その生存曲線はほぼ重なっていました。サブグループ解析の結果、扁平上皮癌や小さい原発腫瘍サイズ(T1~T2)、少ないリンパ節転移(N0~N1)、一つのみの遠隔転移巣、をもつグループでは、全身治療に放射線照射/熱焼灼治療を追加するとメリットが得られるかもしれません。

 

 今回は後ろ向き観察研究であり、この結果で実際の診療方針が変わるほどの重みはありません。しかし、アメリカの臨床現場ではIV期の非小細胞肺がん患者の約30%が原発巣に対する局所治療をすでに受けているという事実に驚くとともに、現在の進歩した全身治療薬やラジオ波など新しい局所治療法を用いて、無作為化比較試験を今後行う意義はありそうです。

Article Information

JAMA Netw Open. 2019;2(8):e199702.

doi:10.1001/jamanetworkopen.2019.9702

要旨

重要性

 非小細胞肺癌(NSCLC)患者の55%が診断時にはすでにIV期となっている。全身治療はIV期治療の基本であるが、原発腫瘍部位の局所治療が生存率を改善する可能性があることを示す証拠が増えている。

目的

 IV期NSCLCの原発腫瘍部位に対して局所治療を追加すると、全身治療単独よりも生存上の利益をもたらすかどうかを評価する。

設計、設定、および参加者

 今回の比較有効性調査研究では、病理組織学的にIV期NSCLCと診断された患者について、2010年1月1日から2015年12月31日までの国立がんデータベース(NCDB; 2018年版)を後ろ向きに照会した。除外基準は18歳未満の患者、腫瘍の特徴と追跡データに関する情報が欠落している患者とした。データは2018年11月1日から2019年1月1日までに分析されました。

治療

治療グループは3つに層別化された。(1)外科的切除+全身治療;(2)放射線外部照射療法(EBRT)または熱焼灼治療((TA;凍結治療およびラジオ波焼灼治療を含む)と全身治療;(3)全身治療のみ。

主な結果と測定

 多変量コックス比例ハザード回帰モデル使用し、傾向スコアマッチングを行った後、治療グループ間で全生存率を比較した。患者と腫瘍の特徴によるサブグループ解析は事前に計画された。

結果

 合計34,887人の患者が選択基準を満たし(男性19,002人[54.5%]、年齢中央値68歳[四分位範囲, 60〜75歳])、そのうち835人が外科的切除と全身治療を受け、 9,539人がEBRT / TAと全身治療、24,513人が全身治療のみ受けた。少数の遠隔転移のあるNSCLCに対して、人口統計学的要因およびがん特有の要因によって外科的切除を伴う治療法が選択されるかが影響を受けていた。多変数による調整後、EBRT / TAまたは全身治療単独と比較して外科的切除は全生存率が優れていた(EBRT / TAのハザード比[HR], 0.62; 95%CI, 0.57-0.67; P<.001; 全身治療のみのHR, 0.59; 95%CI, 0.55-0.64; P <.001)。EBRT / TAによる治療は、全身療法単独と比較して優れた全生存率を示しました(HR, 0.95; 95%CI, 0.93-0.98; P=.002)。

 相互作用解析により、治療法との間に不均一な関連性が特定された。 EBRT / TAによる生存率改善は、限定されたTとN因子、少数遠隔転移をもつIV期扁平上皮癌で特に顕著であった(HR, 0.68; 95%CI, 0.57-0.80; P <.001)。併用療法と全身治療単独の1年生存率は60.4%対45.4%、2年生存率は32.6%対19.2%、3年生存率は20.2%対10.6%であった。

結論と関連性

 一部のIV期NSCLC患者には全身治療に加えて原発腫瘍部位の外科的切除またはEBRT / TAが生存率改善に寄与する可能性がある。特に、EBRT / TAは外科的切除の不適格な一部の患者の治療選択肢としてもよいかもしれない。