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喀痰中好酸球が少ない軽症喘息で吸入ステロイド薬と吸入抗コリン薬は有効なのか(SIENA試験)

 軽症持続型喘息の治療は吸入ステロイド維持療法であるとガイドラインに示されており、患者さんにも吸入ステロイドを毎日継続するように指導しています。今回紹介するSIENA試験では。喀痰中好酸球比率の低い軽症喘息において吸入ステロイド(ICS)も吸入長時間作用性ムスカリン拮抗薬(LAMA)もプラセボ(偽薬)と同等の効果しか示しませんでした。喘息の病態は多様であり、同様の治療方針をすべての喘息患者さんに行うことに問題提起しています。

 

 SIENA試験は、SIGMA試験やnovel STRAT試験と比較して、かなり複雑な研究デザインをとっています。まず、患者さんを登録したのち、6週間の無治療期間をおきます。その後、モメタゾン(ICS)、チオトロピウム(LAMA)、吸入プラセボ(偽薬)を12週間ずつ(計36週間)順不同で投与し、患者一人一人についてどの治療が良かったかを評価します。評価する項目は治療失敗、喘息日記によるコントロール良好な日数、一秒量の低下の3つです。プラセボと比較してICS、LAMAの治療効果に違いがみられなかった患者さんはそれぞれ40%おり、効果に違いがあった残りの60%でどちらの治療が良かったかを評価しました。その結果、ICSが良かった患者が57%に対しプラセボが良かった患者が43%、LAMAが良かった患者が60%に対しプラセボが良かった患者が40%であり、有意差はありませんでした。ICSもLAMAもプラセボと同等の効果がしか無かったことになります。

 

 試験対象となった患者背景をみてみます。臨床的に喘息と診断された、12歳以上の、step 2の治療が必要と判断され、気道可逆性試験または気道過敏性試験で診断が確定された患者さんが登録されました。そして、3週間以内にICSが投与された患者さんなどが除外されました。

 実際に登録された患者さんの平均年齢は31歳、診断時の年齢が8歳、罹病期間が約20年間でした。小児期から喘息をもつ比較的若い成人喘息患者さんが登録されたことが伺えます。呼気一酸化窒素濃度(FeNO)も測定されており、喀痰好酸球比率が低い群では中央値(四分位範囲)21.5 ppb (14.0-35.5)、高い群では中央値 55.0 ppb (35.0-81.0)であり、喀痰好酸球とFeNOの相関がみられます。

 登録された564人のうち366人で喀痰検査が可能で、喀痰好酸球比率2%未満が268人(73%)でした。つまり、喘息患者の3/4は喀痰好酸球が少ないことが示唆され、この研究結果のみのデータからは「喘息患者の3/4はICSとLAMAの効果はプラセボとほぼ同じ」ということになってしまいます。

 もちろん、著者らはそこまでは言っておらず、「喀痰好酸球の少ない喘息患者を対象として吸入ステロイドとその他の治療法を比較する臨床試験を行っていくことが科学的に妥当である」とかなり控えめに結論しています。

 今後、プラセボとICSとLAMAの3群比較などもっと大規模な試験が喀痰好酸球比率が低い喘息患者を対象に計画されるのかもしれません。

 

 N Engl J Med 2019; 380 : 2009 – 19.

背景

軽症持続型喘息では、多くの患者が喀痰中の好酸球比率が2%未満(低レベル好酸球)である。これらの患者に対する適切な治療は不明である。

 

方法

今回の42 週にわたる二重盲検クロスオーバー試験では、12歳以上である軽症持続型喘息患者を295例登録され、モメタゾン(吸入ステロイド)またはチオトロピウム(長時間作用性ムスカリン拮抗薬)、プラセボ(偽薬)を投与した。患者は喀痰中の好酸球比率(2%未満もしくは2%以上)によって分類された。喀痰好酸球レベルが低い患者のうち、試験薬の一つに対し事前に規定した治療効果の差がみられた患者において,プラセボと比較したモメタゾンの治療効果およびプラセボと比較したチオトロピウムの治療効果を主要評価項目とした。治療失敗の有無、喘息コントロール良好な日数、1 秒量から成る階層式複合アウトカムにより治療効果を判定した。両側 P 値が 0.025 未満では統計学的有意差と考えた。副次的評価項目は、喀痰中好酸球が高レベルの患者での結果と低レベルの患者での結果との比較とした。

 

結果

患者全体の73%が喀痰好酸球低レベルであり、そのうち59%で試験薬の治療効果に差を認めた。しかし、プラセボと比較して、モメタゾンもしくはチオトロピウムの治療効果に有意差を認めなかった。喀痰好酸球低レベルで治療効果に差を認めた患者のうち、57%(95%信頼区間 [CI] 48~66)の患者でモメタゾンの治療効果の方が良好であり、43%(95% CI 34~52)の患者でプラセボの治療効果の方が良好であった(P=0.14)。一方、60%(95% CI 51~68)の患者でチオトロピウムの治療効果の方が良好であったのに対し,40%(95% CI 32~49)の患者でプラセボの治療効果の方が良好であった(P=0.029)。喀痰好酸球高レベルの患者では、モメタゾンの治療効果の方がプラセボの治療効果よりも有意に良好であったが(74% 対 26%)、チオトロピウムの治療効果は良好ではなかった(57% 対 43%)。

結論

軽症持続型喘息患者の多数は喀痰中好酸球が低レベルであり,モメタゾンまたはチオトロピウムの治療効果とプラセボの治療効果に有意差を認めなかった。

今回の結果により、喀痰好酸球低レベルの患者を対象とした吸入ステロイドと他の治療法との比較する臨床試験に対して臨床的均衡が存在することを示された。(米国国立心臓・肺・血液研究所から資金提供あり。SIENA 試験:ClinicalTrials.gov 登録番号 NCT02066298)