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好中球性喘息とは・・・Thorax誌の総説を紹介(その2)

[2021.08.15]

前回のブログ記事では、好中球性喘息の総説の要旨全文を翻訳解説しました。

好中球性喘息とは・・・Thorax誌の総説を紹介(その1)

今回は、同じ論文の本文を抜粋して解説を加えます。

 

喘息における好中球:善玉、悪玉、細菌

Neutrophils in asthma: the good, the bad and the bacteria

 

Thorax 2021;76:835-844.

http://dx.doi.org/10.1136/thoraxjnl-2020-215986

 

Introduction

はじめに

喘息には、2型(T2)の気道炎症と好酸球優位の炎症、そして高濃度のIL-4、IL-5、IL-13からなるエンドタイプがあることがが多くのエビデンスで示されている。しかし、多くの患者において強い2型気道炎症が証明されるが、すべての患者がそうではない。横断的なクラスター分析により、臨床的特徴だけでなく、細胞パターンに基づいて喘息グループが特定されている。判別分析では、ベースラインの%FEV1と喀痰中の好中球の割合の2つが、クラスター分類に最も影響を与える変数であることが示された。

 

⇨喘息の病因といえばアレルギーや好酸球による2型炎症が有名で、患者さんの多くで見られる特徴です。しかし、肺機能検査で一秒間に吐く息の量(一秒量)が予想値より低かったり、喀痰中の好中球が高かったり、2型炎症以外の特徴をもつ喘息患者さんもいます。

 

喀痰中の好中球数が60%(中央値)以上の成人喘息患者は高齢で男性に多い傾向にあり、遅発性であり、比較的重症の肺疾患をもち、高用量の吸入コルチコステロイドを処方され、経口コルチコステロイドの服用が多い傾向にあり、喘息による入院率が高く(65%対28%)、高血圧や骨粗鬆症、胃食道逆流症などの併存疾患が多かった。好中球性喘息はアトピー性疾患が少ないことと関連しており、通常、呼気一酸化窒素(FeNO)のレベルが低く、多くの場合30ppb未満である。

 

⇨好中球性喘息では、吸入コルチコステロイド(ICS)が効きにくいため、増悪をきたしやすく、入院も多く、経口コルチコステロイド(OCS)が処方されることが多いとのこと。これはすなわち、コントロール不良の難治性喘息の特徴でもあります。

 

このことは、喘息の新たな治療戦略を考える上で重要な問題を提起している。喘息患者の中には、肺からの分泌物に占める好中球の割合が高い人がいることは明らかである。肺の好中球の割合が同様に高い他の疾患のおけるエビデンスは、好中球が組織の損傷や疾患の進行に関与していることを示唆している(例えば、COPDや気管支拡張症)。

 

⇨肺内の好中球が多いと、気管支や肺組織に傷を与え、喘息患者がCOPDや気管支拡張症がもつ特徴も持つようにになります。

 

Evidence for a neutrophilic endotype

好中球性エンドタイプのエビデンス

The definition and epidemiology of a neutrophilic endotype

好中球性エンドタイプの定義と疫学

 

好中球性喘息の定義で合意されたものはない。しかし、健常対照者を対象とした研究によると、誘発喀痰における好中球の割合の正常範囲は約30%~50%であることが示唆されている。健康な対照群における好中球比率の年齢補正した95パーセンタイルを使用すると、好中球増加を識別するカットオフ値は、サンプルの種類に応じて≥60%から>76%の範囲にる。

 

Nairらは、「好中球性喘息」という用語は、常に(少なくとも2回)喀痰中好中球数が5×109/L以上である患者に限定すべきと提案している。高い喀痰好中球濃度を示す喘息患者を記述した研究がいくつかある。好中球性喘息は、喘息患者全体の約20〜30%を占めるが、その有病率は地域によって異なる。例えば、ギリシャでは5%と低いが、インドでは57%と高いことが推定されている。

 

Jayaramらの研究によると、喘息の増悪のほとんどは非好酸球性であり、非好酸球性による増悪は、もともと好中球性が多く(好中球68%、好酸球0.3%)、治療内容によらず好中球性のままであった。

 

⇨好酸球性喘息の定義は「喀痰中好酸球数の比率が2〜3%以上」と合意されています。好中球性喘息の定義はまだ確定していません。

世界では喘息5人のうち一人が好中球性喘息と考えられています。日本のデータはまだありません。

 

 

Potential reasons for neutrophil involvement

好中球が関与する理由として考えられること

 

喘息において、気道汚染物質や病原菌の存在などによって肺の炎症が引き起こされると、その炎症に対する「正常な」反応として、好中球が肺へ動員されると考えられる。また、患者の属性(加齢に伴う好中球機能の変化を含む)や、肥満、体格指数(BMI)、インスリン抵抗性などの併存疾患に関連する内在的な要因も、気道好中球増多に影響を与える可能性がある。

 

⇨喘息患者の肺に好中球が集まっていく原因には、色々な機序が考えられています。大気汚染、喫煙などの汚染物質や細菌が気道内に侵入するような外因性の要因だけではなく、肥満やインスリン抵抗性など内因性の要因も考えられています。

 

Neutrophil functions with age and asthmaI

加齢と喘息に伴う好中球機能の変化

 

子供とは違って、高齢者の好中球は病原体の排除がうまくできず、組織のバイスタンダーな損傷が増える傾向がある。また、高齢者や若者がかかりやすい重症感染症において、組織損傷がさらに悪化する可能性がある。

 

⇨細胞は年齢とともに老化します。血液中の細胞が老化しても見えないのでよくわかりませんが、年齢とともに好中球の機能が低下しても不思議ではありません。若い好中球は病原体を効率よく排除できるのに、高齢の好中球は病原体だけではなく周りの組織を巻き込んで損傷させてしまうのです。

 

Inflammation or infection: the role of airway microbiology in asthma

炎症か感染か:喘息における気道微生物の役割

 

インフルエンザ桿菌に感染したマウスでは、ステロイド感受性のアレルギー性気道疾患(Th2細胞と好酸球)が、IL-17応答が優勢なステロイドが効かない疾患(Th1細胞と好中球)に転換される。

喘息における好中球増多を促進する細菌の存在と同様に、最初の気道感染は、高用量の吸入コルチコステロイドが自然免疫および適応免疫反応を抑制した結果として生じる可能性がある。実際、気道の微生物と好中球増多との関係は、吸入コルチコステロイドに依存しているようであり、ステロイドを使用していない喘息患者の研究ではこれらの関係は観察されなかった。

 

⇨2型炎症の喘息であったとしても細菌感染により、好中球優位の喘息になってしまいます。2型喘息に高用量のICSを使い続けると、細菌感染を誘発し、やはり好中球性喘息に変化してしまうということです。

 

Asthma in First Nations people

ファースト・ネーションズ(先住民)の人々における喘息

 

オーストラリア先住民、特に遠隔地に住んでいる人は、呼吸器系の感染症と喫煙が多く見られる。これらの要因はいずれも好中球優位の炎症の発生と関連しており、吸入コルチコステロイドのような従来の治療法が効かないような遅発性喘息を引き起こす可能性がある。また、肺機能の低下をともなう血液中好中球の増多は、アボリジニの成人でも確認されている。

 

Potential targets and strategies for treatment

治療のための潜在的ターゲットと戦略

 

好中球を標的にして患者の予後を改善することは、自然免疫反応を鈍らせた場合の影響が甚大であることから、困難を伴う。しかし、現在、いくつかの治療法が研究されている。

 

⇨好酸球に対する生物学的製剤は成功してます。好酸球をゼロにしても人間にとって大きな問題は生じにくいからです。一方、好中球は人間にとって不可欠な細胞であり、ゼロにすると細菌に対して無防備になってしまいます。今のところ、好中球性喘息に対する生物学的製剤で承認されたものはありません。

 

マクロライドのような治療薬は、重症の喘息患者において、好中球が支配する炎症バイオマーカーや増悪を抑えることに成功しており、喘息患者においてより有望な結果を示している。 今後、さらなる研究が必要であり、特に作用機序の解明や耐性菌が副作用として現れるかどうかを評価する必要がある。

 

⇨抗菌薬の一種、マクロライドは、びまん性細気管支炎や気管支拡張症など気道好中球の多い疾患において、有効であることがわかっています。好中球性喘息に対してもマクロライドが有効なのか研究成果が待たれます。

 

Conclusion

結論

 

新たな研究成果により、好中球性喘息は、別個のエンドタイプを形成している可能性が示唆されている。成人喘息において好中球が存在していると、気道微生物叢の範囲が狭くなり、疾患予後の悪化が認められる。しかし、小児喘息においては、好中球はもっと良性の、あるいは保護的な役割をしているとの研究もあり、あまり明確ではない。

 

⇨好中球性喘息では、気道にもともといる微生物の種類が変化し、増悪しやすいのです。今までは「喘息」という一つの病気でしたが、「好酸球性喘息」「好中球性喘息」など新たな病名ができていくのかもしれません。

 

好中球には多様性があり、炎症を起こすものと炎症を起こさないものが混在している。年齢によって好中球の機能も変化する。患者それぞれの気道において、好中球の特徴を明らかにすることで、生涯にわたる好中球性炎症の性質についてより多くの情報が得られるとともに、可能性のある治療標的を特定できるかもしれない。

 

⇨好中球といっても、個人差、年齢差があり、その機能についても考えないといけないようです。その患者さんはどんな好中球を有しているのか考えながら、治療法を選択する時代がくるのでしょうか。

 

これまでに行われた小規模な研究では、気道へ好中球が遊走される過程を標的とした新しい治療法は、安全性に問題があったり、有効性の確認がとれなかったりしている。セリンプロテアーゼのような好中球がもつ細胞傷害性の武器を標的とすることで、宿主組織の損傷を抑制し、好中球による気道の損傷が続くという悪循環を防ぐことができるかもしれない。

 

⇨気道にある好中球そのものを減らす試みは、現在のところ上手くいってません。それよりも、好中球がもつ細胞傷害性物質を阻害する薬が今後でてくるかもしれません。

 

文責:院長 石本 修 (呼吸器専門医)

 

喘息についても言及している拙著「その息切れはCOPDです ―危ない「肺の隠れ慢性疾患」を治す!」はこちらから

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