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肥満症の薬物療法(やせ薬)の進歩(JAMA誌の総説を紹介)

あまり知られていませんが、肥満症に対する薬が世界では開発され、アメリカでは5種の薬剤が承認されています。しかし、日本ではまだひとつも承認されていません。皆保険制度である日本では、薬ひとつ承認されるのにも政府の認可が必要です。

 

そもそも肥満は病気なのかという疑問をもつ方も多いのではないでしょうか?薬は病気に対して使用するものです。現代のように飽食の時代になるまで、歴史上で肥満が社会問題になったことはありません。食生活を古代の粗食に戻すだけで治る肥満は、病気とは言えないのかもしれません。日本では健康保険を使って薬を処方するには、かならず病名が必要です。

 

しかし、肥満の人は、非肥満の人と比べて、糖尿病や高血圧、脂質異常症、心筋梗塞、睡眠時無呼吸症候群などの病気になるリスクが高く、肥満は病気の元になっていることは明らかです。病気の元から断つという視点に立ってみると、肥満が治療のターゲットとなっても不思議ではありません。

 

高血圧や脂質異常症を治療する目的は、血圧やコレステロールの数値を下げるだけではありません。数値を下げることで、将来の脳卒中や心筋梗塞など大きな病気を予防し、寿命を延ばすことが目的なのです。同じように、肥満を治療、つまり体重という数値を下げることで、大病を防げるのであれば、治療する意義があります。

 

今回紹介する論文(総説)では、肥満症の治療薬の現状について開発中の新規薬剤を含めて、概説しています。そのほぼ全文を和訳し、私なりの解説を加えます。

 

 

Viewpoint(総説)

肥満症の薬物療法の進歩

Progress in Pharmacotherapy for Obesity

Susan Z. Yanovski, MD; Jack A. Yanovski, MD, PhD

JAMA. Published online June 23, 2021. 

doi:10.1001/jama.2021.9486

 

米国では、肥満の流行が収束することなく続いている。肥満とその合併症によりCOVID-19の重症化や死亡のリスクが高まるため、効果的な予防・治療戦略の開発・実施が急務となっている。成人の肥満症に対しては、多項目にわたる行動ベースの体重管理介入が推奨されているが、質の高いプログラムであっても効果を認めない患者もいる。食事療法が有効である可能性のある他疾患の管理において、例えば高コレステロール血症に対するスタチン系薬剤の使用などの薬物療法は十分に受け入れられている。しかし、多くの臨床医は抗肥満薬の処方を躊躇し、保険者は治療費の支払いを躊躇し、患者はその使用を躊躇する。

 

⇒肥満があると、新型コロナウイルス感染症が重症化しやすいことがよく知られています。アメリカのように肥満者が多い国では、コロナ対策の一つとして肥満治療が必要です。

 

このように抗肥満薬が受け入れられないのには多くの理由がある。抗肥満薬には安全性に問題があった歴史があり、いくつかの薬が有害事象により市場から撤退している。抗肥満薬による体重減少が患者の期待に応えることはほとんどない。また、医師が抗肥満薬を処方する患者数は、潜在的に使用対象である成人の数に比べて低いと言われている。米国の推計によると、2012年から2016年の間に、体重を減らそうとしている成人のうち、抗肥満薬を処方され服用したと報告した人はわずか3%であった。民間および公的な保険者は、抗肥満薬を全くカバーしていないか、事前承認を必要としており、処方された肥満治療薬を受けるほとんどの患者は自費で支払っている。

 

⇒抗肥満薬が承認されているアメリカにおいても、積極的に処方されているわけではないようです。健康保険を使って抗肥満薬を処方できないとなれば、多額の費用を患者が負担しなければならず、なかなか普及はしないでしょう。

 

現在承認されている肥満症治療薬

 

2021年6月現在、体格指数(BMI)が30以上またはBMI27以上で併存疾患のある成人を対象に、長期的な体重管理を目的として、合計5つの薬剤(オルリスタット、フェンテルミン+トピラマート、ナルトレキソン+ブプロピオン、リラグルチド、セマグルチド)が米国食品医薬品局から承認されている。2015年までに追加で承認された薬剤の中で注目すべきは、成人および12~17歳の方を対象に、プラセボよりも体重を約5kg(体重の約5%)減少させることが確認されているグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬のリラグルチド3.0mgの毎日皮下投与と、セマグルチド2.4mgの毎週皮下投与である。  また、メラノコルチンアゴニストであるセトメラノチドが、6歳以上の成人および小児における近位レプチンシグナル伝達経路に影響を及ぼす遺伝性肥満の症候群の治療薬として2020年に承認された。このような症候群は稀であるため、セトメラノチドは長期のプラセボ対照臨床試験を実施せずに承認されたが、体重に対する実質的な効果が認められた。

 

2021年までに承認された非症候性肥満症に対する処方薬のプラセボを差し引いた1年間の平均体重減少量は、3.4kg~8.9kgであり、高用量フェンテルミン+トピラマートの使用で最も大きな体重減少が認められた。体重が当初の5%以上減少した被験者の割合は、プラセボと比較してこれらの薬剤を使用した場合に高く、オルリスタットのオッズ比は2.70(95%信頼区間、2.34~3.09)、フェンテルミン/トピラマートのオッズ比は9.22(95%信頼区間、6.63~12.85)であった。 ノルアドレナリン作動薬であるフェンテルミンの単剤療法は、短期使用でのみ承認されているが、最も処方されている抗肥満薬であり、無期限の治療のためにしばしば適応外で使用されている。

 

肥満患者の多くは、15%以上の体重減少を求めているが、これは一般的に肥満治療手術でしか達成できない。また、体重減少が大きいほど、多くの肥満関連アウトカムが改善される。そのため、より臨床効果の高い非外科的治療法の開発が求められている。

 

⇒自分で高いお金をだして、やせ薬を飲むなら10㎏くらいは痩せたいと思って当然です。数㎏しか体重減少しない薬なら、薬なしでも自分で痩せられると思ってしまいます。

 

セマグルチドはGLP-1受容体作動薬であり、2型糖尿病の管理に週1.0mgの皮下投与と経口剤が承認されていた。2021年6月4日、慢性体重管理に週2.4mgの皮下投与が承認された。最近、肥満症管理のためにセマグルチド2.4mgの週1回皮下投与を検証した二重盲検無作為化プラセボ対照臨床試験が4件発表された。 STEP-1試験では、合併症のある過体重、または肥満症の成人1961名を対象に、セマグルチド投与群では15.3kg(初期体重の14.9%)の減量が認められ、プラセボ投与群と比較して12.7kg(12.4%)の減量が認められた。全体では、セマグルチド投与群の86.4%が5%以上の体重減少を示し(プラセボ投与群は31.5%)、69.1%が10%以上(同12.0%)、50.5%が15%以上(同4.9%)、32.0%が20%以上(同1.7%)の体重減少を示した。

 

セマグルチドのSTEP1試験については、本ブログにおいても以前紹介しました。

糖尿病薬セマグルチド(オゼンピック®)が、やせ薬として使える日は来るのか(NEJM誌より報告)

 

2型糖尿病患者1,210名を対象とした体重管理に関するSTEP-2試験において、セマグルチド2.4mgを投与した被験者は体重9.7kg(初期体重の9.6%)の減少がみられ、プラセボを投与した被験者と比較して6.1kg(6.2%)の減量となった。また、セマグルチド投与群の合計25.8%(プラセボ投与群は3.2%)が、初期体重の15%以上を減量した。

 

STEP-38試験では、611名の成人の過体重/肥満症患者を対象に、集中的な行動療法に対するセマグルチドの追加貢献度を評価した。セマグルチド投与群は16.8kg(初期体重の16.0%)の減量を達成し、プラセボ投与群に比べて10.6kg(初期体重の10.3%)多かった。セマグルチド投与群の55.8%(プラセボ投与群は13.2%)が少なくとも15%の減量を達成した。重要なことに、セマグルチドの試験における継続率は、多くの抗肥満薬の試験よりもはるかに高く、90%以上の参加者が68週目に体重評価を受け、かつ/または、75週目の最終試験に参加しており、結果の妥当性に信頼性がある。

 

糖尿病を持たない成人803名を対象としたSTEP-4試験では、セマグルチド2.4mgを68週間継続した場合と、20週間でプラセボに切り替えた場合の効果を検討した結果、薬物治療を継続した群では7.9%の体重減少が認められたのに対し、プラセボに切り替えた群では6.9%の体重増加が認められ、最終的にはプラセボ分を差し引いた14.8%の体重減少が認められた。本試験により、持続的な効果を得るためには、抗肥満薬による薬物療法を継続することが必要であることが確認された。セマグルチドの有害事象は主に消化器系で、他のGLP-1受容体アゴニストと同様であった。また、急激で大きく体重が減少した場合、特に、胆嚢関連疾患の発現率が増加した。また、収縮期血圧、脂質、糖化ヘモグロビンなどの心血管危険因子の減少が認められた。セマグルチド2.4mgは、現在、糖尿病を持たないがCVDリスクの高い被験者を対象とした大規模な多施設共同の心血管アウトカム試験が実施されている(NCT03574597)。

 

⇒体重減少効果が高いセマグルチドに、もし心臓血管疾患の予防効果や延命効果が認められれば、やせ薬として大きな一歩となるでしょう。

 

抗肥満薬の第3相臨床試験

 

現在第3相試験で検討されている薬剤は、グルコース依存性インスリノトロピックポリペプチドとGLP-1受容体の相乗効果を利用した、デュアルアゴニストであるtirzepatideである。また、本薬は2型糖尿病患者の体重およびグルコースホメオスタシスに実質的な有益性があると考えられ、発表された10件の第2相試験および企業が報告した第3相試験のプラセボを差し引いた26~40週目の体重減少は10kgを超えていた。副作用は主に消化器系で、一般的に投薬中止には至らなかった。体重管理(NCT04660643など)および糖尿病患者の心血管疾患に対する有効性(NCT04255433)については、長期的かつ大規模な第3相臨床試験が進行中である。

 

おわりに

 

肥満症管理のための薬剤は、効果が高くないと考えられていること、安全性への懸念、患者や臨床医の消極的な姿勢、公的・私的保険者による償還不足などの理由により、使用が制限されてきた。新規の「ツインクレチン」作用機序を持つ薬剤を含む新しい薬剤は、許容できる安全性プロファイルで、より高い体重減少効果が得られる可能性を秘めている。現在進行中の心血管アウトカム試験では、高リスク集団の心血管アウトカムに対する有益な効果または有害な効果についてのエビデンスが得られるはずである。思春期の肥満症に対するリラグルチドの最近の承認は、ライフスタイルへの介入だけでは効果が得られない思春期の患者にとって、手術以外の新たな選択肢となった。いくつかの稀な単発性肥満の小児および成人を対象としたセマグルチドの承認により、根本的なメカニズムを標的とした正確な治療の可能性を垣間見ることができる。肥満症の治療法は万能なものはないが、開発中の強力な薬剤が許容できない安全性のリスクを伴わずに、重要な臨床的・患者報告によるアウトカムに対して有益性を示し、その使用を阻む障壁に対処できれば、臨床医と患者は、肥満症とその併存疾患の管理を成功させる新たな選択肢を得ることができるであろう。

 

 

肥満と呼吸についても言及している拙著「その息切れはCOPDです ―危ない「肺の隠れ慢性疾患」を治す!」はこちらから

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