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喘息診療ガイドラインの次の展開(Lancet Respir Med.の総説より)その2

前回のブログ記喘息診療ガイドラインの次の展開(Lancet Respir Med.の総説より)その1」では、「喘息を診断する際の誤った考え方」「プライマリーケアにおける可逆性気流閉塞の検査は実施困難」について紹介しました。

今回はその続きです。

 

可逆性気流閉塞は、コルチコステロイドに反応する2型気道炎症のマーカーなのか?

喘息を診断する過程において可逆性気流閉塞を確認することが中心になったのは1960年代であり、より選択性の高い気管支拡張剤の吸入器が導入され、喘息患者はCOPD患者と比較して、これらの薬剤に対する反応が大きいことが多いという認識があったからである。気流閉塞と気管支拡張剤の反応の測定は、長時間作用型気管支拡張剤の臨床試験において、合理的で非常に奏効した患者登録基準であり、評価の指標でもあった。しかし、これらの指標は生物学的製剤に反応する患者を特定するものではなかった。 これは、気管支拡張剤に反応する気流閉塞が、コルチコステロイドに反応する気道炎症を反映するという誤った仮定のために生じたものである。現在の理解では、可逆性気流閉塞の客観的証拠をもつ患者の40〜50%は、非好酸球性の炎症を有しているか、病理学的特徴がないことがわかっている。さらに、重症の2型気道炎症は、気道に粘液栓や気道壁に浮腫を引き起こすことで気流に影響を与え、気管支拡張剤による可逆性を消失させる。 気管支拡張剤の反応性と抗IL-5モノクローナル抗体であるメポリズマブの効果との間に逆相関を認めた研究がある。

 

⇨喘息の定義は、気道に慢性炎症を起こした結果、可逆性(元に戻る性質)のある気流閉塞(≒気管支狭窄)をもつことです。可逆性気流閉塞を確認するために、気道可逆性試験という肺機能検査を行います。最初の一秒間で吐く息の量(1秒量)が気管支拡張剤の吸入前後で改善すれば、可逆性ありと判断します。しかし、可逆性試験のみでは、気流閉塞の原因となる慢性炎症の種類、つまり2型(=好酸球性)なのか非2型なのかまでは分かりません。

 

達成不可能な目標を追う

喘息の管理の枠組みは、症状のコントロールに基づいて一般化された段階的アプローチであり、この基本的な構成は30年前に最初のガイドラインが発行されたときからあまり変わっていない。この症状コントロールに基づく喘息管理アプローチは、評価、治療、効果のレビュー、という連続したサイクルを通して、すべての患者において、同じアルゴリズムに従って治療を調整することを意味している。このアプローチは、ほとんどの患者で症状の消失と正常な肺機能の維持が達成できるという誤った前提に立っている。実際には、喘息関連の症状を完全にコントロールできる患者さんはごくわずかで、30〜50%の患者は喘息が十分にコントロールされていない。このような達成不可能な目標を追いかけると、治療の必要性、副作用、コストが増大していく。

National Institute for Health and Care Excellence、Global Initiative for Asthma、British Thoracic Society-Scottish Intercollegiate Guidelines Networkなどのガイドラインにおける重症ステップで推奨されている治療の多くはエビデンスベースが弱く、生物学的製剤による高額な治療にエスカレートする前に問題を解決しようと試みているが、無駄で最終的に逆効果となっている。効果的な治療法の導入が遅れると、悲観的となったり、治療に伴う疾病発生の可能性が生じる。この問題は、吸入コルチコステロイドの投与量を1日250μgフルチカゾンプロピオン酸相当量以上に増やす場合に特に顕著となる。成人の喘息の長期治療で得られる最大の効果の80~90%はこの投与量以下であり、1日1000μgフルチカゾンプロピオン酸相当量では、1日5mgプレドニゾロンと同程度の全身毒性を示す。

 

現在のガイドラインでは、治療管理の指標としているのは主に症状です。症状が残存していると、どんどん治療薬の量や種類を増やしていくことになります。患者本人が申告する症状のみが頼りであって、申告しなければ過少な治療、申告しすぎれば過剰な治療になりがちです。喘息は症候群と言ってもよいくらい、異質で多様な(=heterogenous)病態です。Heterogenousな病気に対する治療アプローチが、すべての患者で同じはずはないという著者らの主張です。

 

症状のコントロールと喘息発作のリスクをなくすことが同義であるという誤った考え方

実際には、喘息を定義しモニターするために用いられる特徴(すなわち、可逆性気流閉塞や喘息症状スコア)が、ウイルス感染などによって誘発される喘息発作のリスク、およびこのリスクが副腎皮質ステロイド治療によって軽減される可能性と同じではないことがある。このような不一致は、患者間だけでなく、同じ患者でも自覚症状が異なる場合に起こりうる。 患者間では、症状とリスクに関連がないことは、プライマリーケアとセカンダリーケアの患者を対象としたクラスター分析で示されている。その中で、喘息発作のリスクは低いが、症状が強い、過体重の女性の集団が特定された。また、喘息発作のリスクは高いが、症状が少ない集団も報告されている。 このような疾患のパターンは、成人の喘息患者の最大25%に見られる。 一人の患者の中でも、症状とリスクの間には関連がないことがある。例えば、長時間作用型β-アゴニスト(LABA)の追加は、症状改善と肺機能改善に大きな効果をもたらすが、重症増悪率には小さな効果しかもたらさない。一方、吸入コルチコステロイドの投与量を(最大4倍まで)増やすと、逆の効果が報告されている。このように、症状のコントロールと正常な肺機能の維持だけを目的とした喘息管理の枠組みでは、すべての人に最適な結果をもたらすことはできないだろう。

 

⇨喘息を治療する目的には、「症状のコントロール」と「将来のリスク回避」の2つがあります。喘息はheterogenousな病気なので、症状が強い人、発作を起こしやすい人、さまざまなタイプの患者さんがいます。肥満があると、お腹が肺を圧迫しているのでもともと気管支が狭いことが予想されます。そのため、気管支が少し炎症を起こしただけで、気流が閉塞し症状が出現します。幼児が気管支炎を起こして喘息様の症状を起こしやすいのと似ています。しかし、炎症が強くなければ将来の増悪リスクはそれ程高くないことが想像できます。一方、長身痩躯の人は肺が大きく、気管支径がもともと広い人は、気管支に強い炎症があっても、症状は咳のみで、喘鳴をきたさないことが想像できます。しかし、その炎症を放置していると、気管支粘膜が年単位で肥厚していき、呼吸機能が年々低下、いずれは気流閉塞による症状がでてくることになります。

 

Balancing the needs of the many and the few: where next for adult asthma guidelines?

多数派と少数派のニーズのバランスをとる:成人喘息ガイドラインの次の展開は?

Shaw DE, Heaney LG, Thomas M, Beasley R, Gibson PG, Pavord ID.

Lancet Respir Med. 2021 Feb 24:S2213-2600(21)00021-7. 

DOI: 10.1016/S2213-2600(21)00021-7

喘息についても言及している拙著「その息切れはCOPDです ―危ない「肺の隠れ慢性疾患」を治す!」はこちらから