HOME > 院長ブログ > 院長による医学論文紹介 > 院長による論文紹介(COVID-19) > フランスにおける新型コロナウイルス感染症と季節性インフルエンザの特徴,罹患率,死亡率の比較(Lancet Respir Med.誌よりの報告)

フランスにおける新型コロナウイルス感染症と季節性インフルエンザの特徴,罹患率,死亡率の比較(Lancet Respir Med.誌よりの報告)

2020年12月17日のLancet Respir Med.誌に、新型コロナウイルスと季節性インフルエンザウイルスの比較研究が掲載されたので紹介します。フランスのみの後方視的研究ですので解釈には要注意ですが、このような比較研究は珍しく、示唆に富む内容になっています。

 

まずは、同じ号に掲載されたPetersen氏のコメント“COVID-19 is not influenza”より抜粋翻訳します。

「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はよくインフルエンザと比較される。呼吸器感染症である新型コロナウイルスがパンデミックを起こしている中では、比較のために過去のインフルエンザパンデミックや季節性インフルエンザに目を向けるのは当然のことである。しかし、COVID-19はインフルエンザではないことを理解することが重要である。COVID-19パンデミックでは、集中治療室の収容能力を超えた負担に苦しんでいる国が複数あるのに対し、2009年のH1N1インフルエンザパンデミックでは集中治療室の収容能力は十分であった。」

⇨COVIDと季節性インフルエンザの大きな違いは、患者集中の度合いだと思われます。一日あたりの集中治療室(ICU)対象患者の数が急に3倍に増加すると、ICU適応がある患者もICUには入れないことになります。

 

次に、今回の論文のDiscussion(考察)から、抜粋翻訳です。

「COVID-19と季節性インフルエンザを比較した今回の全国コホート研究では、2カ月間で入院したCOVID-19入院患者数は、3カ月間で入院した季節性インフルエンザ患者数の約2倍であった。」

⇨研究対象は、2020年3月1日から4月30日までの間にCOVID-19で入院した患者89,530人と、2018年12月1日から2019年2月28日までの間に季節性インフルエンザで入院した患者45,819人でした。対象期間が2ヶ月間と3ヶ月間で異なるので、1ヶ月あたりで考えると3倍の入院患者数ということになります。

 

「2018-19年のフランスにおいて、季節性インフルエンザに対するワクチン接種率は、65歳未満では29.7%、65歳以上では51.0%であった。したがって、インフルエンザワクチンは、季節性インフルエンザの入院率とそれに伴う死亡率の低下に寄与したと考えられる。」

⇨フランスでは、2人中1人の高齢者がインフルエンザワクチンを受けたとのこと。日本とほぼ同じ接種率のようです。

 

「COVID-19の院内死亡率は季節性インフルエンザに比べて約3倍高く、年齢標準化された死亡率は2.82であることがわかった。さらに、COVID-19患者は侵襲的人工呼吸管理を受ける可能性が2倍高く、ICUに入院したCOVID-19患者の入院期間はインフルエンザ患者の2倍近かった。」

⇨COVID-19による死亡率は約3倍。ワクチンのあるインフルエンザ、ワクチンのないCOVID-19の違いだけで説明できるのか疑問です。

 

「COVID-19の死亡率の高さのもう一つの説明として、短期間に患者が急に流入したことにより、医療構造上の制約が生じ、医療チームは患者の状態と予後に基づいて患者に優先順位をつけるように誘導されたことが考えられる。この仮説は、80歳以上のCOVID-19患者のICUへの転院率が低いことからも裏付けられており、同じ患者の死亡率の高さとは対照的である。」

⇨臨床現場ではすでに患者の選別が行われているということでしょうか。80歳以上の患者には人工呼吸管理を行わず、ICUにも転室させないようにしているのかもしれません。

 

再度、Petersen氏のコメントより抜粋します。

「今回のPiroth氏らの研究は、来るべきCOVID-19ワクチン接種に向けて重要なことを伝えている。肥満、糖尿病、高血圧の人は明らかにハイリスクグループとみなされなければならないが、若者も重症化する可能性があり、子供や青年にも予防接種を提供しなければならないことを示している。医療従事者や65歳以上の人が優先的に初回の予防接種を受けることになったとしても、子どもや青年もワクチンが利用できるようになったら接種を受けるべきである。」

⇨子供や若年者は重症化しないので、COVID-19のワクチンを受けなくてよいとは言えないのではないでしょうか。ただし、症例数が少ないので確定的なことは言えません。

 

以下は、本論文の要旨の翻訳です。

COVID-19と季節性インフルエンザの特徴,罹患率,死亡率の比較:フランス人口ベースのレトロスペクティブコホート研究

Comparison of the characteristics, morbidity, and mortality of COVID-19 and seasonal influenza: a nationwide, population-based retrospective cohort study

Lancet Respir Med. 2020; (published online Dec 17.)

DOI:https://doi.org/10.1016/S2213-2600(20)30527-0

 

概要

背景

現在までのところ、インフルエンザとCOVID‐19は同様の感染様式を持つ呼吸器疾患であることから、COVID-19流行のモデルとしてインフルエンザ流行を使用するのに適していると考えられている。しかし、この2つの疾患を直接比較したデータはほとんどない。

 

方法

フランス国内の全入院患者の退院サマリーを含むフランス国家行政データベース(PMSI)を用いて、全国的な後ろ向きコホート研究を行った。2020 年  3 月 1 日から 4 月 30 日にかけてCOVID-19 で入院した全患者、および 2018 年 12 月 1 日から 2019 年 2 月 28 日までの間にインフルエンザで入院した全患者を対象とした。COVID-19(国際疾病分類[第10版]のコード U07.10、U07.11、U07.12、U07.14、またはU07.15)またはインフルエンザ(J09、J10、またはJ11)の診断は、主病名、副病名、または関連病名を含めた。COVID-19とインフルエンザで入院した患者との間で危険因子、臨床的特徴、転帰を比較し、データを年齢群別に層別化した。

 

調査結果

フランスでは,それぞれの研究期間中に COVID-19 患者は89,530 例,インフルエンザ患者 は45,819 例が入院した。患者の年齢中央値はCOVID-19で68歳(IQR 52~82)、インフルエンザで71歳(34~84)であった。COVID-19患者はインフルエンザ患者と比べて、肥満または過体重であることが多く、糖尿病、高血圧、脂質異常症が多かった。一方、インフルエンザ患者は心不全、慢性呼吸器疾患、肝硬変、貧血が多かった.COVID-19で入院した患者はインフルエンザ患者に比べて、急性呼吸不全、肺塞栓症、敗血症性ショック、出血性脳卒中を発症する頻度が高かったが、心筋梗塞や心房細動を発症する頻度は低かった。院内死亡率はCOVID-19患者の方がインフルエンザ患者よりも高く(89,530例中15,104例[16.9%] vs 45,819例中2,640例[5,8%])、死亡の相対リスクは2.9(95%CI 2-8-3-0)、年齢で標準化した死亡率は2.82であった。入院した患者のうち、小児(18歳未満)の割合は、COVID-19ではインフルエンザよりも少なかった(1,227人[1.4%] vs 8,942人[19.5%])が、5歳未満の患者ではCOVID-19はインフルエンザよりも集中治療サポートを必要とした割合が高かった(613人中14人[2.3%]vs 6,973人中65人[0.9%])。思春期の患者(11~17歳)では、COVID-19の院内死亡率はインフルエンザよりも10倍高く(458例中5例[1.1%] vs 804例中1例 [0.1%])、COVID-19の患者は肥満または過体重であることが多かった。

 

解釈

入院を必要とするCOVID-19と季節性インフルエンザの患者の臨床像は大きく異なる。重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2は呼吸器病原性の可能性が高く、より多くの呼吸器合併症を引き起こし、死亡率も高くなる。小児では、COVID-19の入院率はインフルエンザよりも低いが、院内死亡率は高い;ただし、患者数が少ないため、この知見は限定的である。今回の知見は、COVID-19の適切な予防対策の重要性と、特異的なワクチンと治療の必要性を浮き彫りにしている。

資金提供

フランス国立研究機関。